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テキストオンリーというシンプルな表現から始まったADVは、ハードの進歩と共に様々な表現を獲得。今では3Dモデルを用いたものや、実写と見まごうばかりの緻密なグラフィックなどで描く作品も多数登場しています。
3D表現で注目を集めたプレイステーションにおいても、多彩なADV作品がリリースされました。その中でも、アニメーションによる表現や、先の読めないミステリアスな展開で多くのユーザーを魅了した「やるドラ」シリーズも、代表的な存在のひとつと言えます。
そんな「やるドラ」シリーズの3作目に当たる『サンパギータ』が発売されたのは、1998年10月15日。今からちょうど20年前となります。そこで今回は、この記念すべきアニバーサリーを祝して、『サンパギータ』が持つ特徴や魅力を振り返ってみたいと思います。
◆ドラマは「みる」から「やる」へ
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ハードの性能が上がったプレイステーション時代には、それまで難しかった表現を多様しやすくなり、多彩な作品が生まれるきっかけとなりました。3D表現はプレステが得意とする手法のひとつでしたが、アニメーションによる描写も、これまでのハードと比べると格段に進歩。その特徴を活かして展開されたのが、「やるドラ」シリーズです。
この「やるドラ」シリーズでは、フルボイスとフルアニメーションで物語を描いており、「みるドラマからやるドラマへ」として新しいスタイルを提案。一作目となった『ダブルキャスト』では、後藤圭二氏をキャラクターデザインに起用するなど、その特徴をより魅力的に見せる絵作りでも話題となりました。
対する本作では、キャラクターデザインとして士郎正宗氏が関わるなど、こちらも高い関心を集めます。また、1998年にリリースされた「やるドラ」4作品は、いずれも「ヒロンが記憶喪失」「各作品でそれぞれの四季を取り扱う」「花が重要な役割を持つ」といった特徴を共有する一方で、主人公に声が付いたのは本作からなど、シリーズ展開に合わせて進化した部分もあります。
ちなみに本作のタイトルでもある「サンパギータ」は、フィリピンの国花(アラビアジャスミン)。ヒロインの「マリア・サントス」がフィリピン出身の女性なので、象徴的なタイトルと言えるでしょう。
◆バイオレンスが彩る物語の行き先は─「恩は石に刻め、恨みは水に流せ」など印象的な台詞も多々!
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前述の通り、ヒロインであるマリアは記憶を失っていますが、そんな彼女のバッグにはなんと札束と拳銃が。何やらただならぬ事情を抱えていることは明白ながらも、記憶がないためその真相は不明です。また、彼女自身が警察に頼ることを拒み、かといって見捨てることもできず、謎めいた彼女と共に過ごす日々が幕を開けます。
これまでの「やるドラ」シリーズ2作品(『ダブルキャスト』と『季節を抱きしめて』)には、ヒロイン以外の女性も登場しましたが、『サンパギータ』に登場する女性はほぼマリアのみ。そのため彼女と過ごす時間は濃密で、また日本人にはないエキゾチックな魅力が非常に新鮮でした。
しかし、そんな甘い時間だけで済むはずがないのも、「やるドラ」シリーズの共通点。本作は特にバイオレンスな側面も強く盛り込まれており、暴力に巻き込まれ、マリアと離ればなれになってしまうことも。時に急転直下を迎える物語は、プレイヤーの関心を惹きつけて離しません。
ストーリーに触れるとネタバレになってしまうので、詳細に関しては伏せておきますが、「恩は石に刻め、恨みは水に流せ」など、印象深い台詞が多いのも思い出深い点のひとつ。この台詞を誰が、どんなシチュエーションで発したのか、知りたい方はぜひプレイしてみてください。ちなみに、本作でもマルチエンディングが採用されています。バッドエンドを潜り抜け、マリアに幸せをもたらしてあげてください。
なお、本作の現時点でのプレイ環境は、オリジナルとなるプレステ版以外には、PSP向けに『やるドラ ポータブル サンパギータ』がリリースされています。PSP向けのゲームはダウンロード展開しているものが多く、そのためPS Vitaでプレイできることもありますが、残念ながら本作はPS STOREにて扱われていません。(『ダブルキャスト』『季節を抱きしめて』『雪割りの花』のPSP版は配信中)
この点を考慮すると、オリジナル版を手に入れ、PS3で遊ぶという選択肢の方が手軽かもしれません。もちろん、PSPが現役という方は、そちらでのプレイもオススメです。現環境では、会うのに一苦労するマリアとの日々は、だからこそ余計に代え難いとも言えそうです。
※画像はPSP版のものです。
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