物語は村を襲ったタタリ神から呪いを受けたエミシ(蝦夷)の少年アシタカが、呪いを解くために旅立つところから幕が上がる。
やがてアシタカはシシ神が住むという深い森、そのすぐ近くで自然を破壊しながら鉄をつくるタタラ場に辿り着き、森に住む「もののけ」と「人間」との対立に巻き込まれていく。アシタカと犬神・モロの君に育てられた少女サンが物語の鍵となっている。
モロの君は劇中で「山犬」と呼ばれているが、これはニホンオオカミの別名でもある。
では、『もののけ姫』のように、現実世界でオオカミが人間を育てることはありえるのだろうか? 実際に「一般社団法人日本オオカミ協会」に聞いてみた。
■そもそもオオカミとは?
本題に入る前に、そもそもオオカミとは何なのかを予習しておきたい。
オオカミの誕生には諸説あるが、現在のオオカミは北半球の中緯度から北に分布し、20万頭以上が生息している。
ほかにも種類はあるが、一般的にオオカミと言った時はハイイロオオカミを指す。いくつかの亜種に分類され、生息する地域に合わせて体色や身体の大きさも異なる(全長130~200cmの範囲)。
日本に生息したエゾオオカミやニホンオオカミも亜種のひとつだと言われている。
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オオカミは、シカやイノシシなど有蹄類を主な獲物とする肉食獣で、雄雌ペアとその子どもの群れで行動する。
群れは2~3頭から10頭くらいまでと幅広く、テリトリー内で狩りをする。子は3歳頃までには群れを出て新しいペアを探す。野生での寿命は5歳くらいだ。
■オオカミは人を襲ったり家畜を襲ったりするのか?
人を恐れる習性があるといわれるオオカミは、人を襲うことはめったになく、世界中でも人への被害は少ないとされる。
オオカミが多くいるモンゴルでは、小学生くらいの子ども達が羊番として草原で夜を明かすが、人がいることでオオカミはほとんど近づかないそうだ。
ごく稀な人を襲ったケースは、狂犬病を発症していたり、誤って餌付けされたりしたオオカミによるもの。
日本オオカミ協会によると、「オオカミが積極的に人を襲う恐ろしい動物という見方は、明治以降の教育や童話によって日本人に刷り込まれた偏見」だという。
■なぜオオカミは滅んだのか?
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オオカミが絶滅した理由は種々言われているが、日本オオカミ協会は「最も大きな理由は人による駆除。また獲物であるシカやイノシシの乱獲によってオオカミの餌が奪われ、絶滅への後押しをしたことも理由のひとつだと言われている」と答えた。
特に北海道では報奨金を出し、ストトリキニーネなどの毒薬を使って大量にオオカミを駆除したという。
結果、北海道のエゾオオカミは1890年(明治23年)に札幌の毛皮商が扱ったもの、本州では1905年(明治38年)和歌山県で捕獲されたものが記録にある最後のオオカミとなった。
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