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A-1Pictures&Wright Flyer Studiosがタッグを組んで贈る『ららマジ』。“音楽”が一つの大きなテーマとして存在している本作のオリジナル・サウンドトラックが、先日発売を迎えました。筆者も買いました。買いましたとも。日付が変わってストアに出るのを今か今かと待ち構えていましたよ。
そんなファン待望のサントラ発売に合わせて、ノイジークローク・いとうけいすけ氏&メインシナリオ・西村悠氏による、全59曲のライナーノーツをインサイドにて掲載。今回は、そのライナーノーツと共に、お二人へインタビューを実施しました。
ライナーノーツ・Disc1
ライナーノーツ・Disc2
前回のインタビューでは、『ららマジ』の立ち上げからシナリオやキャラクター作りになどついて伺いましたが、今回は楽曲ということでまた違った発見があるかと思います。ぜひ、こちらもサントラ片手に読んでいただけると良いかなと思います。いとう氏の“ららマジ愛”が読者の皆さんに伝わりますように…。
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――今日はよろしくお願いいたします。西村さんは以前お伺いしたのですが、いとうさんはどのような形で『ららマジ』に関わられているのでしょうか。
いとうけいすけ(以下、いとう氏):ノイジークローク所属の、いとうけいすけと申します。2015年頃、『ららマジ』のメインテーマ等を作っている伊藤賢治さんのサポートに近い形で作曲に参加しました。
――かなり初期の頃から関わられているんですね。
いとう氏:最初は「女の子がいっぱい出ます」ということだけ聞いていて。ギャルゲーみたいな感じですかね?と訊いたら、「それは違います。女の子たちが楽器で戦います」と。じゃあ、ギターケースからロケットランチャーを撃つ感じですかと訊いたのですが、それも違いますと。
西村悠(以下、西村氏):ざっくりした説明ですね(笑)。最初はそうなりますよね。僕も初めて伺った時は、どんなゲームなんだろうってなりました。
いとう氏:なかなかイメージが湧かないので、ありったけの資料を持ってきてもらいました。そこからとりあえずのイメージは掴めたのですが、この頃はバトルがメインになるのかなと思っていましたね。いただいた資料に動画があったのですが、これがバトルを押し出していくような内容だったので。
西村氏:あの動画を見たら、誰でもそう思いますよね(笑)。
――その動画、かなり気になりますね…。では、『ららマジ』のより正確なイメージはどのあたりで掴めたのでしょうか。
いとう氏:最初にサウンドリストをいただくのですが、それがとても珍しい形だったんです。
西村氏:と、言いますと?
いとう氏:通常、スマホのゲームでは、バトル曲のバリエーションが多くなる傾向があるんです。でも『ららマジ』では、バトル曲が数曲に対して、シナリオ用の曲が20曲くらい並んでいて。資料と大分印象が違うなと(笑)。
最初はさくらのテーマくらいまでがリストに入っていたのですが、キャラテーマも個人に焦点を当てるよりは汎用的なものにしてほしいと書かれていました。これだけ初期の頃から汎用曲を多数用意してるということは、シナリオにもかなり力を入れているんじゃないかと考え直しましたね。そこから、2016年の春頃までに曲自体はほぼ完成させました。
西村氏:確か、最初はバトル中心に作る傾向が強くて、シナリオシーン自体は短めでした。以前のインタビューでも少し触れましたが、短いとドラマは書けないので、ダメ元で長大なシナリオを持っていったところ、「これで行きましょう!」と言ってもらえて。この転換が2015年頃なので、ダイレクトにサウンドリストへ影響していると思います。
――意外なところで話が繋がりましたね。
いとう氏:今でこそバトルの背景は校舎とか街が多いですが、初期は「森ステージ」「溶岩ステージ」という感じでファンタジー寄りでしたよね。あとは、プレイ動画の中でアミちゃんのコアドレスが動いていたりとか…当時は分からなかったですが、今見ると興奮しますね!
西村氏:アミに関しては、スタッフさんにアミを好きな方がいたのかもしれませんね。2015年は色々と紆余曲折あったんだろうなという感じですね(笑)。ある意味ドラマチックだったのかもしれません。
いとう氏:そうそう、好みのキャラとそうでないキャラで気合の入り方が変わってくるような「推しキャラ問題」というのが曲を作る上でも有りまして…。のめり込んでプレイしないほうが良いのかなといつも思っているのですが、『ららマジ』に関しては、何かのイベントを経験すればどのキャラも好きになれるんですよね。
西村氏:ありがとうございます。
いとう氏:なので、満遍なく愛を注げているはずです、今のところ。ちなみに、ひかり先輩推しの方って多いですかね?
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――かなり多いと思います!それこそ、5本の指に入るくらいかと。
いとう氏:そういうのって、イベント作る上で意識されてるんですか?
西村氏:どうしても人気の差は出てしまいますし、調律済みか否かも人気に関わってきます。でも、人気の差はあまり意識せずにバランスよくイベントに出していくようにしていますね。みんな平等に扱うというスタンスです。
いとう氏:蒼先輩のキャラクターは最初好きにはならないだろうなと思っていたのですが、いろんなイベント見たら好きになっちゃって。さらにメインシナリオはぶっ飛んでてすごいなと(笑)。調律の有無は確かに大きいですね。
西村氏:第9幕の曲の発注時には驚かれたと思います(笑)。
いとう氏:他にこの子はあんまり好きにならないかも…と思っていて先が気になっているキャラと言えば、タマ先輩でしょうか。
西村氏:タマ先輩については、深く知れば、また印象の変わってくるキャラではないかと思っています。
いとう氏:この先輩、怪しいなと思うところがあって。たしか、調律を拒むような描写があったと思うんです。
西村氏:バレンタインのときですね。
いとう氏:どうもこの30人のメンバーの中で、ネコ化が著しいと言うか、他の子と比べるとだいぶ個性が強めで。逆になにか裏があるんじゃないかと勘繰ってしまいます。
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――最近はホニャよりもずっとネコっぽくなっていますね。逆にホニャのネコ感が薄れていってます。
西村氏:ホニャは意識してヒロイン化させていますね。
いとう氏:ネコから人間になっていくのと、人間からネコになっていくところに何かがあるんじゃないかな…と勝手に予想しています。僕自身は13幕より先の話は何も知らないので、他のチューナーさんたちと全く同じ情報量しかもってないんです。そんな中、シナリオライターの西村さんを前にしているというこの誘惑!
西村氏:先のことはこの場ではちょっとお話できません(笑)。でも、グリムゲルデの登場曲「閃光とともに」は、“彼女”のキャラを意識して作られていたんじゃないですか?
いとう氏:そう言われたらそうでした。実は“彼女”のキャラ名が発注書に書いてあって…。僕はスゴイことを知ってしまったんじゃないかと思っていました。この人は『ららマジ』のストーリーの根幹に関わる重要なキャラだと。
西村氏:まさかの発注書でネタバレとは(笑)。
いとう氏:そして彼女の登場を皮切りに、褐色の少女とか樋野カグラとかがシナリオに出てきて、これはおもしろくなってきたんじゃないかと。わかりますよね?この感じ!
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――わかります、わかります!
いとう氏:カグラ君は敵なのか味方なのか…。いつメインシナリオにどっぷり絡んでくるんでしょうか。まだ先ですかね?ただ、勘なんですけど、ああいう形で登場したということは、最終的には味方になるのではないかと…。
西村氏:どうなんでしょうねぇ(笑)。敵か味方かわからないというのは、意識して作っていますが。
いとう氏:ですよね、もちろん言えませんよね!すみません、ただのいちチューナーの話で(笑)。
(※ここでノイジークロークの方から「シナリオの話をしすぎ」と止められる)
――いとうさんがこんなにも“ららマジ愛”を持って作曲されているとは。いちファンとしてとても嬉しいです。では、話をサントラに寄せていきたいと思います。まずはサントラ発売の経緯を伺えればと思います。
いとう氏:僕も社内で決定した内容が降りてきた時点で初めて知ったのですが、Wright Flyer Studiosさんからまずサントラ化のお話をいただいて、弊社としてもぜひ!という感じで決定したということでした。スマホゲームって、サービスが終わってしまうと形に残らないものなので、チューナーズノートとかと同じように、音楽も世に残しておける機会をいただけたというのは本当に光栄なことだと思っています。
――音楽をテーマにしたゲームですが、特別なにか意識したことはありますか?例えば、器楽部で使われてない楽器は入れない、といったような。
いとう氏:汎用的に、というオーダーもあったので、初期の楽曲については、あまり意識はしてないですね。
――各キャラのテーマ曲がちゃんとあったんですね。ユーザーとしては曲名が出るのは初めてなので、驚きました。
いとう氏:汎用曲として使われているのが多いので、ユーザーさんからすると意外かもしれませんね。今、改めて聴いてみて、優しさや憂いを秘めた曲が多いのですが、紗彩ちゃんの曲だけ露骨に哀しいんですよね。そこが僕は哀しいです。
西村氏:確かに、ものすごく悲哀が込められていますね。
いとう氏:紗彩ちゃんのシナリオって、挫折の物語なんですよね。これって音楽以外でも色々なところであるじゃないですか。心に刺さったユーザーさんも多いと思うんですよ。今作るなら、もう少し救いのある曲にできたはず…。
西村氏:キャラのテーマとして聴くと、哀しくなってしまいますが、傷の深さを表現する上ではベストだったと思います。おかげでどっぷりとハマれるんじゃないかなと。
――音楽に携わる人間として、紗彩のシナリオはいかがでしたか?
いとう氏:プレイしたときは大分ヘコみましたね。大成功だったと思います。特に、音楽に携わる人はプレイするべきです。泣きますよ。
西村氏:クリエイターとして何かを表現する人たちって、才能の有無や自分が特別か否かという考えに必ずぶち当たると思うんです。菜々美・紗彩のシナリオでは、その宿命じみたところに共感してもらいたかったんです。音楽に携わる方に、そう言っていただけると嬉しい限りです。
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――個人的には「瀬沢 かなえのテーマ」が好きです。なんというか、絶妙な古臭さを感じます。
いとう氏:発注の際に「オシャレになりたい女の子」というオーダーがあったんです。ということは「オシャレではないんだろうな」と。今のスマホゲームではあまり聴かない懐かしさがあると思います。昔のADVみたいな。
西村氏:確かに!ひかりまでが優しさ・寂しさを出していたのに対し、かなえはグッと爽やかになったのが印象的です。
いとう氏:これが田舎から出てきて都会に憧れるかなえにバッチリでしたね。
――これも個人的な質問で申し訳ないのですが、「南 さくらのテーマ」についてもお話伺えますか…?
西村氏:シナリオの終盤や、シーズン1のエンドロールに使われている曲ですね。こちらも汎用性を意識していたのでしょうか?
いとう氏:そうですね。他のオーダーとしては、考え事をしている・物事に活発に取り組む・BL要素はなし・ギャグ曲ではない・でもコミカル要素がほしい、という感じでした。
西村氏:これは中々難しそうですね。
いとう氏:「BL要素はなし」というオーダーは思わず二度見しました(笑)。どういうことなんだろうと思いましたが、なしと書いてあるので、なしにしましたね。「考え事をしている・物事に活発に取り組む」というのは動作の量がちがうので、どうピックアップするか悩みましたが、結果的には、さくらという娘が頭の中で考えている何かが活発である、有り体に言えば「妄想にふけるような曲」ということを考えましたね。
その後シナリオを読んで、なるほどこういうことか!と。「ギャグ曲ではない・でもコミカル要素」というのは実現できてるかな…?僕自身は結構気に入っているのですが。
西村氏:何かを思い描いているというシーンが似合いますよね。だからこそシナリオの終盤で流れることが多いのかなとも思います。
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――さくら先輩の曲がたくさん使われていて嬉しいです。7幕以降の曲はストーリーと同じく拡がりがありますね。
いとう氏:アプリリリース後の追加BGM(7幕以降)を作るときは、全員の名前や担当楽器もわかっていたので、楽器もしっかり考えています。7幕の「綾瀬 凜のテーマ」はちゃんとクラリネットを使うし、11幕ではトランペットを意識的に使ったりといったように。8幕の萌はちょっと悩みましたね。シンバル、どうしようかなと。
西村氏:でも、シンバルもちゃんと入ってましたね。
いとう氏:最初はシンバルを入れてなかったんですが、Wright Flyer Studiosさんからできればシンバルを入れてほしいと言われまして。元々あまり激しい曲ではなかったので、径の小さいシンバルがさり気なく鳴っているイメージで入れることにしました。
西村氏:萌のシナリオでは落語の出囃子も作っていただきましたね。8幕は地獄に行くという一見ダークなお話ですが、最初に出囃子があったおかげで落語のユーモラスな雰囲気が出ました。
いとう氏:「落語の出囃子」という言葉だけをもらってたのが逆に良かったですね。シナリオを知ってたら絶対に違う曲になっていました。みんな死んで地獄に行っているので、もっと黒くなると思いますね。
――追加部分で他に印象に残っている曲は他にありますか?
いとう氏:ちょっと失敗したなというところもあって…。
西村氏:そうなんですか?
いとう氏:10幕はワーグナー・チューバを担当する春香お姉ちゃんのお話なのですが、この楽器ってメロディをとるようなものではないんです。ちょっとフィーチャーしづらかったので、10幕では「雨だれ」というキーワードを前面に押し出して、ピアノ曲メインにしていました。作曲の際には、シナリオがまだ出来ていないことが多いのですが、10幕は冒頭だけ読ませていただいたんです。そしたら、凜ちゃんが出てくるんですよね。
西村氏:そうですね。凜と春香は仲もいいですし。
いとう氏:そう、それで凜が救いのキーパーソンになるものと勝手に思って、ピアノ曲にクラリネットも少し混ぜたんですけど、リリース後に読んでみたら意外と違っていて(笑)。
西村氏:実際に救いとなったのは違うキャラでしたね。
いとう氏:そうですね。なので、それからは資料を読み込むよりも、シナリオを想像しながら作るようになりました。サウンドリストの情報から内容を読み解くのは楽しいです。
――そんな中でもイメージにバッチリ合うものばかりですね。亜里砂とかは感動的です。
いとう氏:亜里砂も傷を予想するところから始めました。1幕・2幕が「持つ者と持たざる者」という形で対になっていますよね。でも、亜里砂はもうプロなので、それを遥かに超越した高みにいるんじゃないか。そんな彼女が持つ孤高な部分が傷に関わっているはずだと予想しました。じゃあ、トランペットソロで誰もついてこられないような曲にしようと。
西村氏:バッチリ当たってますね…!曲もそうですが、キャラの把握がすごい!もうシナリオ書けるんじゃないでしょうか。
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――イベントで一本、とか…!
いとう氏:いやいやいや!それは無理です(笑)!Wright Flyer Studiosさんからのキーワードが的確だったということです。ひとまず、各キャラの担当楽器はこれからも意識して作っていきたいと思います。
――楽しみです。
いとう氏:ただ、懸念点があって。和太鼓の娘がいますよね。
西村氏:茜ですね。
いとう氏:シナリオ的に彼女がお祭りで和太鼓を叩くような話であれば、すんなり作れると思います。が、そうじゃない場合は難しいですね…。他のパーカッション奏者についても、無理やり担当楽器をフィーチャーしなくてもいのかなと思ったりはしています。
西村氏:どうしても元気いっぱいな曲になってしまいそうですね。
いとう氏:映先輩のカスタネットも、映える曲となるとどうしてもフラメンコに行ってしまうんですよね。そのあたりはシナリオ次第で推すか否かを決めていければと考えています。
――映先輩のフラメンコって確かおばあちゃんに教わったものでしたよね。
西村氏:そうですね。シナリオはどうなるかまだわからないですけど!
いとう氏:おばあちゃん、傷に関わってくるんじゃないですかね?そうであればフラメンコでカスタネットを推しても良いかもしれません。どうでしょうか。
西村氏:言いませんよ(笑)!
――ものすごく初歩的な質問ですが、曲ってどこから作り始めるのでしょうか。
いとう氏:人それぞれですが、僕の場合は「瞑想」から始まります。与えられた情報を見て、リラックスしながら何かが降りてくるのを待っていますね。よくピアノを弾きながら作曲される方もいますが、僕はそれをやるとどうしてもピアノ曲に寄ってしまうので、基本的には頭の中で作曲して、それをPCにマウスで起こしていきます。『ららマジ』に関してはピアノ曲も多いので、弾きながら作ることもあります。
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――ピアノと言えば、器楽部には純粋なピアノ奏者っていませんよね?部室にグランドピアノは置いてありますが。
いとう氏:いないですね、不思議と。
西村氏:弾くとしたら雪菜ですかね。かなえも弾けるとは思います。
――個人的には雪菜先輩が一番わからないです。プライベートが全然見えてこないので…。
いとう氏:わからないですね。イベントでも独特な絡み方をしているので。藤巻は「音が色で見える」みたいないわゆる「共感覚」的な設定を持ってくるんじゃないかなとは思っています。でも、シーズン3のフロウライン組は、「家族」がテーマにありそうなので違うかな…。調律はもうじきだと思うのですが。
藤巻の曲を作るのであれば、色々な音が出てくるおもしろい曲にしたいですね。彼女はミュージシャンというよりはアーティストとして音を作る人だと思うので、ハマると思います。
西村氏:やっぱりシナリオ書きませんか(笑)?
いとう氏:いやいや。作曲家は自分の想いを言葉にできないから音楽にしているので。シナリオは書けませんよ(笑)。
西村氏:一旦言葉にするのではなく、直接音楽で表現しているんですね。僕は言葉にしてから表現するので、伝えたいことがそのまま音楽になるというのは想像できません。音楽をテーマにした物語を書く上でとても参考になるお話です。
いとう氏:逆に、シナリオを書くときは理論立てて書くものなんですか?
西村氏:これも色々な人がいますね。僕は「狙い」みたいなものがあって、それを実現するために、色々な状況や条件をブロックのように積み上げていくと、必然的にこういう話になる、という考え方をしています。もちろん、そこには自分の想いも入っていますが、理論が先行しているかもしれませんね。
いとう氏:今の話でいうと、作曲においてもキャラのイメージを表現するために、性格や楽器を考えながら作っていくので、作り方は近いかもしれませんね。割と職人気質というか。
西村氏:わかります。僕も職人と言われたほうがしっくり来ます。
いとう氏:でも『ららマジ』に関しては、いい意味で情報が少なくて、能動的になれた部分はありました。職人気質だけど、クリエイティブなところもあって、色々な表現ができておもしろいんですよ。
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