プレイステーション黎明期の1995年から1996年にかけて発売された同シリーズは、『I』の物語の続きを『II』で描いており、『I』で育てたキャラクターを『II』に持っていける点も含め、二つ合わせて一つの作品と言える。
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12月3日より数量限定発売の「プレイステーション クラシック」収録の全20タイトルにも含まれ、先日の読者が選んだ収録して欲しいタイトルRPG部門アンケートで1位に輝くなど、20年以上が経った今もなお語り継がれている名作だ。
プレイした時は中学生だった自分にとって、アークやククルは大人と言うには若すぎるけど、年上なのは間違いなくて、「こんなふうに成長しなくてはいけない」と大人を意識させてくれた。本稿ではあくまで一個人の視点を通して同シリーズの魅力を書き連ねていく。
※『アークザラッドI』『アークザラッドII』のネタバレを若干含んでいます。
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人間の欲望が生み出す身勝手さと、それでも過ちを正す人間の清さの対比
同シリーズは、自然を司る精霊を忘れるだけでなく、利用してまで繁栄を築こうとする人間の欲望によって、徐々に破滅に向かっていく世界が舞台だ。世界を掌握しようとする大国ロマリアによって、確実に世界に生じた歪みは大きくなっていった。
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そんな折、精霊の加護を受けたスメリアの地で、父を探すためにトウヴィルにある精霊の山に登ったアークと、代々精霊の山を守護する神官の一族に生まれるも定められた運命に抗うククルの出会いから幕が上がる。アークとククルは10代の若さでありながら、「勇者」と「聖母」の役割を担い、仲間とともに世界を救うために戦っていくことになる。
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物語を平たく見れば、親世代の過ちを子供世代が正す構図が見て取れるだろう。命を賭けて戦うアークとククルには一般的な青春時代もないどころか、大人たちに邪魔者扱いまでされるのだ。『I』の最後では、本来は勇者として称賛すべきアークとその仲間が国王殺しの濡れ衣を被せられて指名手配されてしまう。
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作中に登場する大人世代の多くが欲望のために手を汚している。繁栄や保身のために常に争い、必要なら精霊すら捕まえて利用してしまうほどである。火の精霊がアークに「このとどまるところを知らぬ欲望はなんなのだ?」と問いかける場面は鮮烈だ。
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プレイ中も「アークたちは報われるのだろうか?」と疑問だった。お互いを想い合うアークとククルの「離れたくない」というささいな願いすら叶わずに引き離され、世界を救うために大人の尻ぬぐいを要求される。ましてや、『II』の結末だけを切り取れば、決して報われたとは言えないと泣いた。自分は大人になりたくないと強く思ったものだ。
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次世代を育てる側に回るという輝かしさ
『I』では、世界を救う力を与えるという「聖櫃」が、辿り着いたアークにこういう。「『聖櫃』の中にある宝とはすなわちここまでの苦難を乗り越え 見聞きし、そして悲しみ、苦しみ 成長してきたアーク、お前自身だ」。
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作中では、人間の欲望による破滅を描くと同時に、「過ちを正す人間」という希望を描いている。父のことしか考えられなかったアークは人間の過ちに涙するようになり、運命に抗ったククルは世界のために己の心を封じることを選び、同じように弱さや身勝手さも見られた仲間たちも旅の中で成長を遂げていく。
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『II』では一旦、主人公がアークからエルクに変わる。しかも、エルクは勘違いから故郷の炎の精霊を奪い、一族を滅ぼしたのはアークだと思い込んでいた。指名手配犯であるアークと、ハンターとして追いかけるエルクの構図は複雑で、「早くわかり合って欲しい」とプレイヤーとしては願わずにはいられなかった。
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しかし、自分を捕まえようと追いかけるエルクにもかかわらず、アークは当たり前のようにその窮地を救うのだ。エルクの気持を真正面から受け止めつつも、次代の担い手として温かく見守るその姿は、人間としての在り方を示している気がした。
作中から読み取った「苦難の中でも正しい道を歩み、次代に受け継がせる」という生き様は、「『I』で育成したキャラクターを『II』に持っていける」というシステムによって、余計に引き立ったと思う。
エルクたちよりも強い状態で合流した成長したアークたちが、エルクたちを見守って支える側に回る。そしてアークの思いをエルクはきちんと受け継いでくれるのだ。アークとククルの報われないというモヤモヤが晴れ、「ああ、自分はこういう大人になれば良いのか」と胸にストンと落ちた瞬間だった。
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