
ADVゲームは、その物語をどのような形で描写するかについて、これまで様々な手法が開拓されてきました。
原点とも言えるマイコンゲーム時代には、絵などの表示が一切ない、いわゆるテキストアドベンチャーが登場しました。そこから、グラフィック情報を元に様々なコマンドを直接入力して進行するゲームなどに発達。また、『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』が、あらかじめ用意されているコマンドをプレイヤーが選択するという新たなスタイルを提案し、大きな転機のひとつとなりました。
一部の例外を除き、どれほどグラフィックが進化しても、ADVゲームにおいて文字情報が重要なのはいつの時代も変わりません。推理系であれ、脱出系であれ、恋愛系であれ、人間関係や物語、展開の移り変わりなどは文字を通してユーザーに伝えられます。

またADVゲームは、多くの情報をプレイヤーに伝える手段として、他のジャンルよりも手軽かつ様々な情報を明示しやすい特徴を持っています。グラフィックで表現するには、その素材を用意しなければなりませんが、文字情報ならばテキストだけで伝えることも可能です。無論、瞬間的な理解度の早さや演出面での効果など、グラフィック表現が優れている部分も多々あるので、その双方を活かした作品が増えていきました。
ADVゲームの進化は更に多彩さを増していきますが、その方向性のひとつとして、濃密な物語を描くといったものも現れます。大量の情報を詰め込めるADVならではの特徴を活かし、伏線が集約していく面白さを味わえる推理系サスペンスや、心の機微などもこと細かに描ける恋愛モノなどが、その恩恵を受けました。
1998年12月3日に発売されたプレイステーションソフト『久遠の絆』も、そんなADVの特徴を活かした作品のひとつです。壮大な物語や複雑に絡み合う人間関係を描き、多くのユーザーを唸らせた本作は、ADVならではの魅力に満ちた一作として今も語り継がれています。本日2018年12月3日は、発売から丁度20年を迎えた記念すべき日。このアニバーサリーを祝い、本作を振り返ってみたいと思います。
◆濃密な月日を膨大なテキストで描ききった『久遠の絆』

主人公である高校生の御門武と、転校生の高原万葉が出会うことで、本作の物語は幕を開けます。しかし彼らの物語は、1,000年の時を超える平安にまで遡ります。本作に登場する主要人物は輪廻転生を繰り返しており、平安・元禄・幕末と、それぞれの時代で各々の人生を歩んできているのです。
彼らの周りで巻き起こる猟奇的な事件や武が悩まされる悪夢も、平安から続く出来事の中で生まれ、積み上げられたものが影響しています。その歩みを辿ることで、過去から現代へと続く壮大で物悲しい恋物語の来し方を理解し、そして行く末を見守ることとなります。

物語の内容に触れるとネタバレになってしまうのが難しいところですが、各時代ではそれぞれの関係も変化するため、厚みのある物語が進行。恋だけでなく、より幅広い人間関係が濃密に描写されたのも、好評を博した点のひとつです。
またドラマだけでなく、時代ごとに異なる風習や世相などもしっかりと描き、当時の有り様を連想させる確かな筆致も魅力的で、“文字から世界を想像する”という楽しさも存分に味わえました。もちろん、想像のきっかけとなる美麗なグラフィックの数々も、欠かすことができないポイントのひとつです。

ちなみに、キャラクターボイスはありません。正確には、後の展開でボイス付きの作品がリリースされましたが、それまでは各キャラの声もプレイヤーの想像に委ねられていました。とはいえ、当時はまだフルボイス前提という時代でもなく、また「声がないからこそ想像力がかき立てられる」といった意見もあるため、明らかな欠点というほどではありません。
いくつもの時代を経て、その結果が現代に向かって集約される恋物語。この厚みを描ききった膨大なテキストは、1ルートを攻略するのに数十時間かかることも。様々なドラマが折り重なる人間関係の変化と結末が、プレイヤーの関心を惹きつけて止みません。
◆その歴史は、20年の時を経て今に続く─『久遠の絆』を遊ぶ方法は今も豊富

発売当時はネット環境もなく、口コミで評判が広がり、人気を博した『久遠の絆』。その勢いはプレステ版だけに留まらず、対応プラットフォームも広がり、様々なバージョンへの発展を遂げました。
まずは、新シナリオを加えた『久遠の絆 再臨詔』が、ドリームキャスト向けに登場。続いてPS2版もリリースされました。さらに、モバイル版やPSP版、成年向けとなる『久遠の絆 THE ORIGIN』などを経て、直近では2017年2月にiOS/Android版の配信がスタート。プレステ版から19年かけ、『久遠の絆』はスマホ版へと辿り着きました。
本編の展開と比べるとあっという間かもしれませんが、まだ日が浅いゲーム史として考えると、ひとつの作品が定期的に展開して歩み続けた年月としては、この19年はかなりの長さと言えるでしょう。

この名作をもう一度遊びたい人や、未プレイだけど興味を持ったという方は、いくつかの手段で『久遠の絆』にアクセスすることができます。まず、原点とも言えるプレステ版のアーカイブスが配信されており、PS3/PSP/PS Vitaでプレイ可能。
また、PC向けには『久遠の絆-THE ORIGIN-』と『久遠の絆 再臨詔 フルボイス版』がリリースされています。ただしPC版は、Windows XP/Vista/7向けなのでご注意を。また『-THE ORIGIN-』は、18歳未満の方は購入ならびにプレイができません。
対応プラットフォームを含めて現時点で最も気軽に楽しめる選択肢は、iOS/Android版でしょう。買い切りなので初期投資だけで全て楽しめますし、価格も1,400円とお手頃。グラフィックの高画質化なども施されているので、場所を選ばずに遊べる点も含めてお勧めです。価格面を最重要視するならば、アーカイブス版の617円も魅力的。自身のプレイ環境と合わせて、ご一考ください。

ちなみに『久遠の絆』は、ドラマCDや関連書籍などが発売されたものの、続編などはリリースされていません。「描写すべき彼らの物語はゲームの中で全て描かれている」といった姿勢も、好評を博した理由のひとつかもしれません。
【関連記事】
・『R-TYPE Δ』本日11月19日で20周年! 自機の選択やΔ-ウェポンなど、シリーズに新たな魅力を加えた意欲作
・『サンパギータ』本日10月15日で20周年! 名台詞も忘れられない「やるドラ」3作目は、エキゾチック・バイオレンスが展開
・『御神楽少女探偵団』本日9月17日で20周年─GAMEOVERを「推理トリガー」で乗り越える、美少女+骨太推理ADV! 実は3作品目も展開
・『どきどきポヤッチオ』本日9月10日で20周年─“パンの配達”と“ひと夏の恋”に少年は大忙し! notスローライフは眩しく刺激的
・『アストロノーカ』本日8月27日で20周年─“宇宙野菜”を育てろ! プレステ時代を代表する「SF+農業」な良作SLG
・『ダブルキャスト』発売から今日で20周年! 爽やかな展開から陰惨なバッドエンドまでフルアニメで描く意欲的なADV
・『双界儀』本日5月28日で20周年! 現代日本を舞台とする3Dアクションの先駆け─操作性だけが惜しい!
・『GUILTY GEAR』20周年! 個性を詰め込み2D格闘ゲーを再燃─石渡太輔氏も公式サイトで思いを語る
・愛され続けるケモノ系ACT『テイルコンチェルト』が20周年! 世界観を共有する新たな展開にも期待大
・PS『パラサイト・イヴ』が20周年! アヤ・ブレアの数奇な運命はここから始まる
・サウンドノベル第3弾『街 -machi-』が20周年! 実写を導入する英断で注目を集めた名作を繰り返る