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『サガフロンティア2』が発売された1999年4月1日から、20年が経過しました。
もう20年もたったのかと、月日の早さを感じ、当時を思い出しながら『サガフロ2』を再プレイしている方もいらっしゃることと思います。
現在人気を博している、サガシリーズのスマホ向けソーシャルゲーム『ロマンシング サガ リ・ユニバース』においても、4月から始まった期間限定イベントにて、『サガフロ2』の名場面が引用されています。
『リ・ユニバース』上では、原作の一部を切り取って差し込んだ構成になっていたので、『サガフロ2』未プレイの方や20年前にプレイしたっきり忘れてしまったという方のために、引用された場面を振り返ってみたいと思います。
※以下、記事内の画像は全て、『ロマンシング サガ リ・ユニバース』のものです。ご了承下さい。
悲劇的境遇におかれたギュスターヴ13世の幼少期
内容に触れる前に、ギュスターヴ13世の誕生から、幼少期までの経緯についてお話していきたいと思います。ギュスターヴ13世は、フィニー王国の第一王子としてギュスターヴ12世のもとに誕生しました。未来の世継ぎとして、歴代王と同じ「ギュスターヴ」の名を与えられ、祝福の中で育てられました。
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彼は5歳の時、王位継承の儀式に臨みますが、そこで彼には術の素養が全く無いということが知れ渡ってしまいます。『サガフロ2』の世界では、術は社会を構成する重要な要素で、術を使えないということは日常生活すらままならない、「不能者」であるということになります。それを知った父は大いに怒り、ギュスターヴと母親のソフィーを王国から追放してしまいます。民衆からも非難され、差別的な言葉を投げかけられ、亡命した先でギュスターヴはやさぐれて乱暴者に育ってしまうのです。
いつまでもプレイヤーの心に残る、母の言葉と平手打ち
『リ・ユニバース』の今回のイベントでは、ギュスターヴ13世の回想として、母親に叱られる場面が挿入されています。粗暴に育ったギュスターヴは植物や動物など自分より弱いものにあたりちらし、暴力を振るいながら日々を過ごしています。それを見かねたソフィーがギュスターヴを厳しく叱責します。
原作プレイ時、ずっと優しくギュスターヴを庇ってくれていた母ソフィーの強烈な平手打ちに驚かされました。モーションがとてもなめらかで美しく、頬を打った時の「バシッ」という音が意外と大きかったこともあり、驚いて少し笑ってしまった記憶があります。
このときにソフィーの口から語られる「あなたは人間なのよ!ギュスターヴ!!」という言葉は多くのプレイヤーの記憶に残ったことでしょう。印象の強い、本作のテーマの一つと言えます。
ソフィーのこの言葉には、社会の価値観に左右される必要はない、人間は人間であるだけで尊いのだという思いが込められています。実際に、作中でこの後彼は術以外の自分の才能を大きく開花させ、それまでの社会の価値観を引っくり返すことに成功します。鉄と鋼が力を振るう時代を築き、術が何よりも優れているという時代を終わらせることになります。ギュスターヴはその生涯を持って、ソフィーの言葉の通り、その社会の価値観で人間の価値の全てが決まるわけではないということを証明することになるのです。
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背景の情景やキャラの造形など全体的な再現度は非常に高いです。
この一連のセリフは初プレイ時に聞いた際にも非常に胸を打ちました。ですが最後までプレイした後に再度この場面を見ると、その後の登場人物達の生き様を始め、いかに多くの意味を内包した言葉なのかがわかります。何度見ても、思わず「かあさまーーーー」と泣き崩れそうになりますよね。
決してゲームの中だけにとどまらない言葉だと思います。私達の現実世界にも十分に通じることですし、だからこそ多くの人の心に残り、『リ・ユニバース』でも印象的に使用されたのでしょう。
殴られてもあけびを届ける健気な思い。フリンがギュスターヴの本当の友である理由。
本イベントは、ギュスターヴが友であるフリンと再会するところで終わります。原作の『サガフロ2』でも、先述のソフィーから叱られる場面と連続したシーンとして、フリンがあけびを持ってギュスターヴを慰める場面があり、それを踏襲しているところです。
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この場面も多くのプレイヤーの記憶に残ったことでしょう。特にあけびという珍しい果物の名前が出てくるので、初プレイの際には、「あ、あけび・・って・・・?」と目が点になりました。同様の感想の方も多いのではないでしょうか。
このフリンというキャラは、ギュスターヴと同じように術不能者なのですが、その魅力はなんと言っても、健気にギュスターヴを慕ってくれるところです。ギュスターヴはやさぐれてしまっており、フリンに対して理不尽に暴力を振るうことも度々です。しかしそれでも「ギュス様だけは僕の気持ちを解ってくれているんだ」と言って、ギュスターヴを追いかけます。
この関係は非常に面白いもので、実際に本編をプレイしていくと実はフリンこそがギュスターヴを理解してあげることのできる数少ない存在だったとわかります。物語が進むにつれ、ギュスターヴはフリンに心を許していくようになります。フリンこそがギュスターヴの精神的な支えになり、彼はやがて自分自身を肯定することができるようになります。フリンは自分を肯定する力をくれる人物だったと言えるでしょう。
フリン自身は自分の役割の大きさに気づいていないように見えます。彼のその行動がギュスターヴを救っているのだという事実にも気づかないまま、ただただ慕う一心で彼のもとに駆け寄っていきます。あけびを届ける一連のシーンは、そんなフリンの健気さと、隠れた影響力の大きさが感じ取られ、そこに「あけび」というチョイスの意外性が加わって、いじらしく、暖かく、切なく、それでいてどこかおかしみもある、厚みのある場面に仕上がってると言えます。この場面を見た時の、なんとも言えない胸の中がクシャッとなるような感情は、そういった要素の絶妙な積み重ねによって生まれており、作り手の巧みさが伺えますね。
ギュスターヴは辛く悲しい境遇を持っていますが、非常に恵まれた人間関係を持っています。ソフィー、フリン、レスリー、ケルヴィン、シルマールなどなど、どの人物もギュスターヴの存在を肯定し、正面から向き合ってくれる人々です。彼らがいたからこそ、腐らずに自分を成長させ、後の偉業を成し遂げることができたのだと思います。
自分の良いところを肯定してくれる仲間の存在がどれほど大切かわかりますし、これも現代社会に通じるものとしてプレイヤーの心に長く残っていきます。
本当に必要な友の存在。リ・ユニバースの今後の展開にも注目!?
ここまでの背景を知った上で、『リ・ユニバース』での一連の場面を見ると、フリンとの再会がどれほど素敵なシーンなのかがわかります。
しかし、ここで気になるポイントが。今回のイベントの課外授業では、ギュスターヴが周囲の人に認められていると取れる描写があります。学生であるマライアやタチアナちゃんと同行しているウンディーネは「彼の剣は凄腕よ」と述べます。彼は剣技の面で周囲に認められているんですね。これは原作とは異なる設定であり、フリンとの再会の場面も少し意味合いが変わってきます。
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この場面でなんだかちょっと嬉しくなった人もいるのでは?
『リ・ユニバース』のギュスターヴはあくまで同等の立場で支えてくれる友を欲していたということになります。『サガフロ2』では周りの多くの人々から蔑まれ、遠ざけられてきたギュスターヴ。『リ・ユニバース』では周囲から一定の評価を得ていますが、実際に本当の自分を理解してくれる人が必要だったということでしょう。
こうしてみると、『リ・ユニバース』の世界に、友を必要としている人が他にもいるような気がします・・・
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いました!
画像の左上を歩く、本作の主人公のポルカです。今回のイベントでは出番は最後だけで、セリフもありませんでした。
思えば彼もヴァルドーやようせいからある程度評価され、同時に支えてもらっていますし、テリーを始め仲間たちからも慕われています。しかし、対等に近い立場で思いを共有したり正面から向き合ってくれる友はいません。自分の目的のために突き進み、イベント時にはトーマやフリンを塔から開放して仲間同士を再会させるために頑張っていますが、彼自身は実は孤独だったのかもしれません。
今回のイベントのラストシーン、黙ってその場を後にする彼の背中に一抹の寂しさを感じたのは筆者だけでしょうか。
思えば『リ・ユニバース』のメインシナリオはまだ第一章。序盤も序盤です。今後の展開の中で、ポルカは自分を心から理解してくれる友と出会うかもしれません。その時彼は孤独を遠ざけ、自分の力を大いに伸ばして大成するでしょう。今回のギュスターヴとフリンの再会はその暗示かもしれません。
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なんてことを妄想してしまいます。まだまだ『リ・ユニバース』の物語は始まったばかりです。話の合間に挿入される原作準拠のストーリーにも様々な意味を込めていることでしょう。原作を知り、いろいろ想像を膨らませると、『リ・ユニバース』をもっと楽しめることと思います。
まだまだどんな展開があるか全く予想できない『リ・ユニバース』。ポルカと仲間たちの歩みをゆっくりと見守りましょう。そして、原作『サガフロ2』未プレイの方は、この記事を読んで興味を持ってくださったら幸いです。