◆『火吹山の魔法使い』は、判断と結果の連続! そこから生まれるのは、自分だけの冒険譚
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アレクサンドラの冒険は、もっと様々な出来事と遭遇しましたし、バトルも数多くこなしましたが、本作の特徴のひとつを分かりやすく伝えられる部分に集中して抜き出してみました。そして、前述の【】でくくった部分は、初回のプレイで筆者が選んだ選択と、それにまつわる結果です。
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例えば初遭遇のオークは、このままやり過ごすこともできますし、正面から戦うことも可能。戦えば戦利品が得られるものの、体力を削られますし、死の危険も当然あります。今回下した判断は、戦闘をする上ではかなり良い判断だったようです。これはドアの一件も同じで、突撃していたら落下してダメージを受けていたことでしょう。
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逆に、蛇の入った小箱を開けたのは、好奇心に負けて危険を呼び込む形となりました。開けなければ中は分かりませんが、行動が常に良い結果に結びつくとは限りません。この場合、リスクが発生しても耐えられる体力を維持した上で行う、というのがベターな選択でしょう。もちろん、二度目以降のプレイでこの経験を活かし、賢く立ち回るのも大事な点です。
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そして、オークの武具を身に着けての変装。ここも、判断力が問われるところでした。技術が下がるデメリットと、戦闘を避けられる可能性があるメリット、いずれを取るか悩みものでしたが、敵地という点を考慮して着用。その狙いが功を奏した場面もあったようなので、「よし!」と思ったのもつかの間、囚人には敵と見なされてしまい、結果的に彼を殺してしまう展開も招いてしまいました。オリジナル版にも挿絵つきで登場する、印象深いキャラクターだっただけに、これは苦い結末・・・。
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5人のスケルトンとの遭遇も、なかなか刺激的な体験でした。本作は、敵が複数いると1ターンでガンガン体力が削られる恐れがあるので、集団戦は避けたいところ。今回はハッタリをガン押しして、戦力の40%を削ることに成功。まずまずの成果でしたが、後のプレイで更に上手い立ち回りがあることも判明しました。
そんな初回の冒険は、戦闘での体力減少ではなく、ある選択肢による死亡で幕を閉じました。選択肢だけで死ぬなんて・・・と思われる方もいるかと思いますが、時に判断ミスだけで死んでしまうのは、ゲームブックではそれなりによくあること。ちなみに本作は、体力が尽きた時も含め、3回までチェックポイントから復活可能。ちょっとミスして即ゲームオーバー、とはならないのでご安心ください。
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このように、本作には様々な選択が用意されています。一言でまとめるならば、プレイヤーの「判断」と、その選択で大きく変化する「結果」の連続こそが、本作の醍醐味です。
物語を進めるためには、いくつも並ぶ選択肢の中からひとつを選ばなければなりません。ひとつ選ぶごとに、その結果が提示され、新たな場面に進展。そして、判断と結果を積み重ねることで、物語のエンディング(もしくは無慈悲な死)へと辿り着けるのです。
物語と言いましたが、和製RPGなどに良く見られる、起伏に満ちた起承転結のストーリーが展開する──といったことはありません。選択できるキャラクターはいずれも、背景や火吹山に挑む理由などがありますし、それが冒険の中で反映されるシーンもありますが、メインストーリーは「火吹山の支配者である魔法使いを討伐する」、ただこれだけ。
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しかし、本作の物語が薄味なのかと聞かれれば、筆者は「NO」と答えます。あっさりしているのはあくまでストーリーであって、今回アレクサンドラが辿った道筋だけでも濃密な出来事に満ちています。本作における物語は「冒険」を描くものであり、冒険とはハプニングとの出逢いです。
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角の向こうにオークがおり、部屋の真ん中にサイクロプスの像があり、地底を流れる川のほとりには渡し守を呼ぶ鐘が置かれている。そんなハプニングが次から次へと起こるので、そのひとつひとつに判断を下し、その結果を受け入れる。この繰り返しが冒険の道のりとなり、プレイヤーだけの物語を形作っていくのです。時には、死という結果が結びを飾りますが、その死を幾度も重ねていくと、ゴールへと繋がる階段になります。
先が見えない数多くの選択肢と向き合い、リスクとリターンを予想して判断し、そして階段を重ねていく。それが本作の特徴と魅力のひとつであり、これを人は「冒険」と呼ぶのだと筆者は思います。
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敵を倒して経験値を稼いでレベルアップし、起伏に満ちたストーリーを楽しみながらエンディングを目指す。それも無論面白いですし、判断と結果を積み重ねていく冒険もまた、プレイヤーを魅了する要素でしょう。この『火吹山の魔法使い』は、後者の欲求を存分に満足させてくれる一作だと、個人的に強く推させていただきます。
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