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“日本最後のイタコ”が語る『鬼ノ哭ク邦』のリアリティ―ゲームでも迷える魂を救済!?

8月22日にスクウェア・エニックスより発売されたPS4/Switch向けアクションRPG『鬼ノ哭ク邦』。輪廻転生をテーマとした本作の魅力を掘り下げるために、青森まで“日本最後のイタコ”に会いに行きました。

ソニー PS4
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突然ですが、読者の皆さんは「あの世」を信じますか?

日本にはお盆という祖先の霊を祀る行事があり、多くの人が死後の世界を信じてきた一方で、あの世とこの世・魂・生まれ変わりなどの考えは、現代では馴染みが薄くなっている部分もあるでしょう。

そんななかお盆を過ぎたばかりの8月22日に、輪廻転生によって命が繁栄した世界で、迷える死者の魂「迷イ人(マヨイト)」をあの世に送る「逝ク人守リ(イクトモリ)」の活躍を描くPS4/Switch向けアクションRPG『鬼ノ哭ク邦』が発売されました。


「人の死を悲しんではいけない。生者の悲しみは死者の魂を縛り、迷わせ、生まれ変われなくする」

“来世への旅立ち”であると希望を持って死を迎え、家族であってもその人の死を悲しんではならない。もしも、死者が今生への強い想い残しを持っていたり、遺族が近親者の死に対して深い悲しみに捕らわれていたりしたら、魂が迷って輪廻転生の輪から外れた迷イ人となり、いずれは魔物と化してしまう――この迷イ人を浄化(想い残しを解決)し、輪廻転生の理を守護する役目が、「逝ク人守リ」の役割なのです。

幼い頃に両親を亡くした主人公は、悲しんではいけないと言われた

前述の通り、輪廻転生が大きなテーマとなっている本ゲームですが、その魅力をつつがなく読者にお伝えするには、スペシャリストに実際にプレイしてもらうのが早いはず……というわけで行ってきたのは青森県八戸市!

そちらで“日本最後のイタコ”と呼ばれる松田広子さん、そして「青森県いたこ巫技伝承保存協会」会長の江刺家均さんにお会いし、『鬼ノ哭ク邦』と絡めたインタビューをさせていただきました。本稿では、その様子をご紹介します。

■松田広子氏
1972年、青森県八戸市生まれ。南部八戸イタコ六世代。現役のイタコでは最年少のため、「最後のイタコ」と呼ばれる。南部一之宮・櫛引八幡宮の流れをくむ非常に信心深い家庭に育つ。幼少の頃からイタコとの縁も深く、中学三年生のときに「イタコになろう」と決意。高校一年生の夏から イタコ修行を始める。1991年7月、恐山の夏の大祭(毎年20~24日)でイタコとしてデビューを果たした。


■江刺家均氏
1949年、青森県八戸市生まれ。郷土史家。東北地方を始めとした地方郷土史の研究を中心にしている。「青森県いたこ巫技伝承保存協会」会長を務め、松田広子さんの恐山デビューからの付き合い。

ちなみに八戸市ではひと世代前まではイタコは身近な存在だったそうです。八戸市内の約30の地区に必ず1人はおり、日頃から人々の相談に乗っていました。アニメやゲームなどによるエンターテインメント化されたイタコのイメージと違い、実際は故人の霊を呼び降ろす「口寄せ」だけではなく、人生相談やお祓い、占い、神事などもします。

松田さんは南部イタコ6世代目に当たりますが、「南部イタコ」は八戸市が発祥で江戸時代以前から口伝で相承され、現在は青森県、岩手県、宮城県の一部の東北地方に残るだけになりました。

松田さんの自宅の祭壇

■そもそもイタコ文化はどのようにして発祥した?


――さっそくですが、イタコはいつ頃からいたんでしょうか?

江刺家均(以下、江刺家):縄文時代以来からあるもんだと思います。現在でもそうですが、人知では分かりかねるような不思議なことがあれば、誰かに聞いて見たくなる。そんな時、神様の声、仏様の声を聞く存在がおそらく「巫女」という存在だったのではないでしょうか?

そこから枝分かれしたのが、亡くなった方の魂を呼んで話を聞くという「口寄せ巫女」で、イタコの原型だと言われています。民俗学者の柳田國男氏も著書で書いていますが、本来は神社など神様を祀るところに仕える巫女と、神の声や亡くなった人の声を聞いて伝える口寄せ巫女があったんです。その口寄せ巫女が里に下り、各集落に存在するようになったわけです。

――当時は各村に一人はいたということですか?

江刺家:集落ごとに、大きな催事の相談や占い、戦勝祈願などの相談先としてイタコが存在したと思っていただければ。

――その役目を担う女性はどのように選ばれたのですか?

江刺家:目が見えない女性が優先的に選ばれました。生活手段として集落における役割を振られた側面があります。目が見えない人は代わりに聴覚が研ぎ澄まされますから、色んな人の声を聞きとりやすい、それが巡り巡って神様の声が聞こえるということになったのだと思います。その時代は目が見えない女性は、口寄せ巫女になる、あるいは三味線を弾いて歌う「瞽女(ごぜ)」になる人が多かった。津軽民謡もそういった目が見えない女性の歌の中から生まれたと考えられています。

――元々イタコは日本全国にいたんですか?

江刺家:日本全国にいたと思いますね。イタコという呼び方は東北の北部に限定されますけど、「神様」や「ごみそ」「おかみさん」など色んな呼び方が各地に残っています。その中でイタコの呼び方が特に周知されているのは、戦後、柳田國男氏を始めとする著名な学者たちが恐山で活動するイタコを中心に研究をして書物に残したからです。

イタコが減少したのは、集落が徐々に都市化していったのと同時に、目の見えない女性に対しての福祉政策や働ける環境が整ったからだと言われています。松田も目が見えておりますし、今活動しているイタコの中で、盲目のイタコは88歳になる中村タケだけです。

――巫女から派生したイタコとのことですが、ルーツとなる宗教は何ですか?

江刺家:八戸のイタコですと、確認できる始まりが山伏の修験道です。目の見えない山伏の女房がイタコを務めたとされています。だから6代目の松田が唱える般若心経は、仏教界の一般的な般若心経と違って、山伏修験の言葉が混じっているんですね。

さらに言うと地域ごとに源流は違いますね。岩手県の北部から青森県の太平洋側の南部地方のイタコ、津軽の方のイタコ、岩手県の方の中部から下部のイタコ、それぞれ中心になる宗派も違います。


■イタコに求められる資質、そして伝承方法とは?


――ところで、イタコの伝承はどのように行われているのですか?

松田広子(以下、松田):狂言や歌舞伎などの口伝と同じように、師と衣食住共にして技や動きを間近で学んでいくんです。

江刺家:最初は仕事の合間に教えてもらいながら、やがて寝食を共にして2~3年で独り立ちします。目の見えない師匠が、目の見えない弟子に教えていくものですから、目の見える人の倍は時間がかかってしまいます。5年かかる人もいれば、10年修業してもダメだった人もいます。

松田:私は目が見えていたのもあったんで、高校生の頃に弟子入りして卒業後の住み込みも含めて5年ぐらい。本当は中学校の時に弟子入りしようとしたんですよ。ところがお師匠さんには今時の子どもは高校ぐらい卒業しなければならないと言われたからね。


「逝ク人守リ」は修行の末、「鬼ビ人(オニビト)」と呼ばれる自我を失った魂を操れるようになる

――具体的には、どのような修行をするのですか?

松田:まずは、たくさんの経文を覚えなくてはいけない。皆さんそれぞれ守護霊が異なりますから、それによって唱えるお経が違ってくる。イタコに必要なのは強い霊感じゃなくて、むしろ記憶力。それから忍耐力。いわゆる「口寄せ」の場合も、依頼者のお話をじっくり聞いて、的確なアドバイスをしなくてはいけない。


――つまり霊感はそこまで必要ない?

江刺家:霊感はそこまで必要ないです。普通の人たちと違う感覚はある程度必要だと思いますが、霊が憑依しやすい体質というのはダメなんですね。憑依した霊が離れなくなりやすいので。イタコは1日に何人もの依頼者のために口寄せすることもありますしね。

――なるほど……。その修行を受けるのに年齢制限のようなものはありますか?

江刺家:制限はないですね。早ければ早いほどいいんでしょうけども。

松田:あんまり年齢が高いと、全部覚えた頃にはそのままお墓に持って行かなきゃになってしまうので。

松田さんが師匠から受け継いだ数珠。数珠の数は自由にカスタマイズするらしいが、重いのは避けたいので可能な限り軽量化するとのこと

松田さんがお師匠にもらった「オダイジ」。師が弟子の身を守るために書いた経文の一節をくるんでいる。正統な南部イタコであることの証でもある

気になるイタコの依頼料は?
《乃木章》

現場に足を運びたい 乃木章

フリーランスのライター・カメラマン。アニメ・ゲームを中心に、親和性のあるコスプレやロリータ・ファッションまで取材。主に中国市場を中心に取り上げています。

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