話題のマーダーミステリー「ランドルフ・ローレンスの追憶」について
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──それでは、マーダーミステリー界で話題になっている佐藤さん作の「ランドルフ・ローレンスの追憶」について、率直な感想をお願いします。
久保「ランドルフ・ローレンスの追憶」は、まだヒット作ではないと思っています。なぜなら体験人数が少ないから。逆に言うと、少ない体験人数でこんなに口コミになっているのはすさまじいと思っています。プロモーション的な感覚としては、これは伝説的な何かにしたいし、何かになるなと。
作品としてはとても計算されていると思います。みなさんの多くは佐藤さんのことを天才と言いますが、実はめちゃくちゃ努力家で秀才なんです!感情や人々の気持ちを計算して設定されているので、プレイをした時に感動はもちろんしたのですが、「佐藤さんって努力家なんだな」という風に見えましたね。これから本作をプレイされる方も多いので具体的なことは言えないのですが、私が先ほど伝えた「体験感・没入感・納得感」がしっかり盛り込まれている作品ですよ。
一方で、マーダーミステリーなのかというと、すごくふわふわした立ち位置だと思います。なぜかというと、TRPGの感覚に近いと思ったので。物語体験であり、没入もでき納得感もあるけれど、いろんなジャンルを超えた新しいところにいる作品だなという感覚です。
私はよく、「マーダーミステリーのなかでどれが面白かったか」と聞かれることがあるのですが、その時に1位は「双子島神楽歌-ハルカゲカグラウタ-」で、マーダーミステリーが好きな人たちが絶対ハマるであろう新ジャンルとして「ランドルフ・ローレンスの追憶」は面白いですよとお伝えしています(笑)。
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──「ランドルフ・ローレンスの追憶」がここまで話題になっていることについて、佐藤さんとしてはいかがでしたか?
佐藤最初に盛り上がりが始まったのは、2019年11月に東京の人狼倶楽部さんで3公演だけ行った時です。参加された方が「めちゃくちゃ面白かった!」と凄い勢いで拡散してくれたんですよ。また久保さんや、マーダーミステリーGM(ゲームマスター)の江波さんなど影響力の強い方々が拡散に協力をしてくれたのも大きいですね。
そして参加者がたくさん口コミを広げてくれた理由については、「ランドルフ・ローレンスの追憶」の物語において、一番盛り上がるタイミングがエンディングになるように設計されているのは大きいと思います。参加して「面白かった!楽しかった!」という感情が最大になっているタイミングで帰るから、感想をつぶやきやすいんじゃないでしょうか。
久保前半でキャラクターとプレイヤーの紐付けが上手いのもあるかなと。マーダーミステリーって、プレイヤーがキャラクターの台本(キャラクターシート)をインストールしてスタートするのですが、そのすり合わせをしていくのが上手です。だから、後半の盛り上がりのための前半が肝になっているのかなと。
佐藤畑を耕す作業ですね(笑)。
久保そうそう!きちんと「私が耕してる!」という実感があるので、「私は農家!」って理解できるみたいな(笑)。
──酒井さんはいかがですか?
酒井佐藤さんは「約束の場所へ」だけをやって作られたという話がありましたが、「こういうものだったら僕が作ってきたものにこんな形で応用できるよね」と、ご自身の今までの経験値をフル活用されて作っている。だから東京で僕らが作ってきたマーダーミステリーとはアプローチの仕方が違うんですよね。それが良い方にすごく触れた形で、オリジナルのジャンルを作り上げたと僕は見ています。
僕は「ランドルフ・ローレンスの追憶」をプレイした段階では40~50作品のマーダーミステリーをやっていましたが、その時の僕の気持ちを言葉にすると、「ずっとカニを大好きだと思って食べ続けていたけれど、本作はタラバガニ(ヤドカリ科)だった!でもカニで大好き!」みたいな感覚です。
久保分かりづらいよー(笑)。
酒井それぐらいある種同じもので、でも違うものという感じだったんです(笑)。東京のマーダーミステリーの流れの中にいなかったからこそ、自分の作ってきたコンテンツを下地に「ドン!」と前にいけたのかなと。これはどのマーダーミステリークリエイターもそうだと思うのですが、僕だったらお化け屋敷や街遊び、そして演劇を作ってきた感覚があったから「双子島神楽歌-ハルカゲカグラウタ-」を作れたみたいな。
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佐藤自分が作ってきたコンテンツにマーダーミステリーの要素を突っ込んでいるので、形が違うとは思いますね。
酒井マーダーミステリーを使って「なにか」を作ろうとした感じですよね。
──「ランドルフ・ローレンスの追憶」はGMの役割が大きい作品だと思います。これまでは佐藤さんがGMを行い、自身でゲームをコントロールされてきましたが、2020年2月からはラビットホールで公演がスタートしました。その点について佐藤さんはどう感じられていますか?
佐藤よく公演したいと言ってくださったなと思いました。まず、逆の立場だったら、私は「ランドルフ・ローレンスの追憶」のGMをやりたくないです(笑)。GMのアドリブが多い作品なのですが、私は制作者なので、どこまで良くてどこからだめなのかを100%把握しています。だから制作者以外がGMをやるのはハードルが高いと思っています。
そのため、やると決断してくださったことに本当に感謝しています。また、酒井さんが日本でも十指に入る「ランドルフ・ローレンスの追憶」好き、というのもGMをお願いできた理由ですね。愛がなければ、この作品のGMは絶対に務まらないと思います。
──酒井さんがやると決断された意図、そして公演となると膨大な時間的なコストがかかると思ったのですが、それについてどうお考えだったか伺えますか?
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酒井ビジネス的に考えたら、1公演に5時間近くかかり8人しか参加できないので、どうやってもコストとリターンが噛み合わないんですよね(笑)。そうした視点から考えるとやるべきではないのかもしれません。一方で、佐藤さんは常に東京にいる方ではないので、「ランドルフ・ローレンスの追憶」というコンテンツを東京でやれる機会を、定期的に作り続けるためにやるべきだと思いました。
ラビットホールでやる場合は、佐藤さんがアドリブでGMを行われている部分を全部書きだして、台本を仕上げて日々追記を入れています。そうすることでやっと僕のなかに世界が落ちてきてくれるんですね。そうしたコストをかけても、ランドルフのGMをやった経験は自分が今後作る作品に踏襲できますし、GMをやると見えてくるものもあります。次のフェーズとしては、このGMとしてのスキルを他の店長に引き渡しができるようにして、ラビットホール全店でノウハウを共有することですね。
久保でも儲かるかって言ったら……?
酒井それは無理です(笑)。
久保以前3人で話していた時に、酒井さんがランドルフを持っていきたいと言い出したんですね。私は「持ってくるのはいい。ただ、アニメーションを描けるといっても宮崎駿さんみたいにできるわけではなくて、ランドルフのGMも佐藤さんの頭の中にしかない。やり方は覚えられるけれどもベストかどうかわからないが、それでもやるか?」と聞いたら、酒井さんはやりたいと。
だから、「佐藤さんの作品をやるのであれば、本気でトレースして本気でハッタリをかまし続けないと、ユーザーは満足しませんよ」とアドバイスをしました。そこで、佐藤さんの公演予定を全部もらい、公演場所を提供している江波さんにも協力してもらいながら見学ができる回を確認して、酒井さんとラビットホール新宿店の店長の中島咲紀さんがめちゃくちゃ勉強しました。
でも、正直それにメリットがあるかといったら、GMのノウハウの蓄積はあるけれどもランドルフでなくてもいい。ランドルフは最高難度なので、そこに行き着くまでに力をつけられちゃうんですよ。だからいろいろ言っているけれど、本人(酒井さん)がやりたいだけだと思うんだよね(笑)。
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──そうしたコストをかけてでも、動かしたいという熱量があったのですね。
久保私が思っていることは、「ランドルフ・ローレンスの追憶」の公演を月に30回うっても30回満員になる。ただ、ランドルフはキラーコンテンツになるしブランドとしてすごく優秀です。そのため、コンテンツとして安くならないように、特別な体験感であるべきと考えていたので、毎週5回公演をするみたいなのはやめてくださいとは言いました。せめて月に2回か、3回ぐらい(笑)。
酒井売れば売るほど売上が落ちていくんですよね(笑)。
久保悪魔のコンテンツじゃん(笑)。
酒井なのにGMはやればやるほど疲弊していくんですよ(笑)。でも、「ラビットホールって面白いコンテツがいっぱいあるんだな」を作るうえでは、面白いものがあってもらわないと困るので。参加できないけどなんかすごいやつあるらしいも大事だと思うんですよね。
──ありがとうございました。
以上、マーダーミステリーのトップランナーたちによる対談の第1回をお届けしました。
第2回は、マーダーミステリーのクリエイターに向けた作り方のアドバイス、初心者におすすめの作品などついて伺いました。3月9日(月)に公開を予定していますので、お楽しみに!
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また、3月11日(水)には、「マダミ談義」という、マーダーミステリーに関するトークイベントも実施予定。こちらは「マーダーミステリーの光と闇」と題し、作品・店舗・GM(ゲームマスター)などについて大激論が行われるとのことです。気になる方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。