スクウェア・エニックスのPS4/ニンテンドースイッチ/iOS/Android向けソフト『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル リマスター』は、瘴気が蔓延する世界でキャラバンを率いて旅をするアクションRPGです。
プレイヤーは、瘴気を晴らすクリスタルに命を紡ぐ「ミルラの雫」を手に入れるために故郷の村から旅立ち、様々な土地を冒険することになります。
プレイヤーが主人公を実際に動かすのはダンジョンや街の中のみ。ダンジョンから街へ、街からダンジョンへと各地を渡り歩く際はワールドマップの画面で行われます。そして、ワールドマップ上で行きたい場所に到着するとロード画面を挟み、実際のエリアの中に入ります。
このようにオープンワールドゲームとは違って煩わしい工程があり、ゲームシステムや世界設定ともにシームレスな世界ではないのですが、本作は、本当に「旅をしている」気分が味わえるゲームでした。
大体のオープンワールドゲームでは、シームレスで広大なフィールドを渡り歩き、見知らぬ土地を探検するという旅の醍醐味を味わうことができます。しかし、「旅」とはそれだけなのでしょうか?
本作には、旅ならではの数々の要素が備わっています。今回は、それについて綴ろります。
そもそも旅は終わるもの
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遠足は帰るまでが遠足というように、旅は故郷に帰るまでが旅だと思うのです。
主人公がキャラバンを率いて旅をする目的は、故郷の村のクリスタルに「ミルラの雫」を与えるためです。1年が終わると主人公は故郷に帰り、久しぶりに再会した仲間や家族と宴を楽しみ、つかの間の休暇を享受します。
旅ってワクワクして楽しいですけど、疲れません?疲れたら帰りたくなりません?
旅人にとって故郷は何よりの宝物であり、故郷の人々と再会すると安心するものです。故郷に帰ると旅の終わりを感じるだけではなく、旅そのものをしたという実感が得られました。
日記の朗読で経験した事が旅の思い出になる
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宴では、この1年に起きた出来事を綴った日記が読まれるのですが、肝心の回想シーンは流れません。しかし、プレイヤーはその旅を経験してきたのですから日記で綴られる文章だけで、これまでの記憶が呼び起こされ、自然と1年間の記憶が回想されます。
日記の朗読のシーンを通して、これまでの経験が「旅の思い出」として変わり、余韻に浸ることができるのです。まさに「自分はこの1年にこれだけの旅をしてきたんだ」という気分になりました。
故郷から送られてくる他愛もない手紙
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ダンジョンにいるボスを倒すと、故郷の仲間から手紙が届きます。その内容は、他愛のないものばかりなのですが、実家の両親からくるLINEやメールってそんなものじゃありません?でも、他愛のないメッセージがきたら、遠く離れた故郷と繋がっていると感じられる一方で、故郷から遠く離れた場所にいるのだとも実感させられます。
旅って色んなものが待ち受けていますけど、たまに故郷の家族に無性に会いたくなって寂しい気持ちにもなりますよね。
実は、いつでも故郷には戻れるのですが、戻るには瘴気ストリームと呼ばれるエリアを数回も通過しなけれなりません。しかもそのたびにロード時間も挟むので非常に面倒。特に本作はファストトラベルがないので、故郷との距離がより感じられるのです。
その面倒が「手紙を読むと故郷の仲間たちに会いたくなる。でもまだ旅は終わっていないので今は故郷に戻ることはできない」という気持ちにさせてくれます。
旅の始まりを知らせる「いってらっしゃい」
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旅の出発には、必ず村長のローランが見送りにきて優しい言葉をかけてくれます。ローランにとって主人公は、村を救う英雄ではなく、幼少の頃から見守ってきた子供のような存在なのでしょう。出発の際にかける言葉はどれも優しさに満ち溢れています。そして最後には「いってらっしゃい」という言葉を送ってくれるのです。
この言葉を聞くと、絶対に故郷に戻り「ただいま」という返事を言わなければならないという気持ちになり、身が引き締まります。
この瞬間、新たな旅が始まったと心の底から思いました。
このように本作では、オープンワールドにはない数々の要素によって旅をした気分にさせてくれます。
旅というのはついつい出会いや冒険など過程に注目してしまいがちですが、むしろ旅というのは、始まりと終わりが大切なのではないでしょうか。そして故郷から離れる寂しさも旅の醍醐味だと感じました。
もちろん本作には、出会いや冒険も待ち受けていますが、本記事で綴られたことを心に留めてプレイしてみると、旅をした気分がより味わえると思いますよ!
※UPDATE(2020/09/14 17:30):日記の記述について誤りがあったため訂正しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございます。