三月になりました!長い冬を終えて、いよいよ季節は春の入り口へ。『あつまれどうぶつの森(以下、あつ森)』の世界でも北半球であの地味ながらもキュートな魚が釣れるようになりましたよ。
そう!「ドジョウ」です。
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日本人の心の友
ドジョウは童謡「どんぐりころころ」やいくつもの昔話に登場する、日本人にとって馴染みの深い淡水魚です。
大きさは10センチほど、太さはせいぜい指ほどの小魚で、退職は灰色で地味。それでも誰もがその姿を思い浮かべることができるあたり、やはりニョロニョロとした体型やちょっととぼけたようなひげ面が愛されているのでしょう。
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ドジョウを対象とした漁法といえばドジョウ掬い。川底に潜るドジョウの習性を利用し、砂や泥ごとザルで掬いつつふるいにかけるという合理的な伝統漁法です。
同時に、ドジョウ掬いは島根の郷土民謡である「安来節」の題材でもあり、やはり文化面へのドジョウの浸透が感じられます。
なお、『あつ森』内でプレイヤーはドジョウ掬いではなく釣りでゲットすることになります。
しかし彼らはかなりのおちょぼ口。小さな針とミミズの細切れなどを駆使すれば釣れないことはありませんが、効率の悪いことこの上なし。漁獲量を重視するなら、わざわざ釣りで挑むメリットはありません。
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それでも今から60年以上前に出版された釣りの教則本にはちゃーんとドジョウ釣りのハウツーが載っていました。釣りにくいものをあえて技巧こらして釣る、というのが日本人の釣り魂を揺さぶるのかもしれませんね。
ドジョウはおいしくて体にいい
作中でフータさんも触れていますが、ドジョウというのは味が良く、古くから食用にされてきました。里川に生息する小魚の中でも特に有用な存在なのです。
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もっとも有名な食べ方は、浅草名物にもなっているドジョウ鍋でしょう。清浄な水でしっかりと蓄養したドジョウは臭みもなく、それでいてコクと旨味を備えた優れた食材と言えます。
また、ドジョウには薬効があるとも信じられてきました。ドジョウには解毒、酔い覚まし、滋養強壮などといった効果が期待できるとされ、ドジョウ鍋は単なる美食ではなく薬膳料理として親しまれてきたのです。
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実際にそうした薬効がどこまで真実かは判断しかねますが、栄養面に優れているのは間違いないようです。
同じく滋養強壮を謳うスタミナ食材であるウナギと比較してもビタミンB2、B12や鉄分、カルシウムやその吸収を助けるビタミンDなど多くの栄養素において含有量で優っているとされています。こうした豊富な栄養素が身体の不調を治してくれるのかもしれませんね。
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また、ドジョウの仲間はアジアを中心にヨーロッパやアフリカまで実に多くの種が確認されています。日本には33種ものドジョウが分布しており、今もなお研究が進められているのです。
中には模様の美しいシマドジョウ類や丸っこい顔がかわいらしいホトケドジョウ、太くガッチリしたドジョウらしくない体型をしたアユモドキなど、バリエーションに富んだ顔ぶれも。
ぜひ「どうぶつの森」シリーズ次回作ではこうしたドジョウたちにも登場してほしいものです。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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