……早いもので、4月も半ばに突入です。
桜前線はついに青森へ到達しましたし、沖縄県に至ってはすでに海開きが行われています。
沖縄の海といえば色とりどりの熱帯魚たちが何よりの魅力ですが、中でも一番人気はこの魚でしょう。
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クマノミ!
ちょうど4月から『あつまれどうぶつの森(以下、あつ森)」の北半球でも出現するようになりましたね。
かわいいカラーリングが印象的な、南の海のアイドルフィッシュです。
『あつ森』で釣れるのは「カクレクマノミ」!
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ところでクマノミと一口に言っても、実はいろいろな種類があるのです。
クマノミ、ハナビラクマノミ、ハマクマノミなど世界の温暖な海から30種ほどが確認されています。
『あつ森』内での表記のように単に「クマノミ」と書く場合、クマノミ類全体の総称を指すケースと、ひとつの種としてのクマノミ(Amphiprion clarkii)を指すケースとがあります。
なお、後者のクマノミは黒っぽい身体に白い帯という、クマノミ類としてはやや落ち着いたカラーリングをしています。
しかし、『あつ森』に登場するクマノミはメリハリの効いたオレンジ色と白の、それそれはキュートでビビッドな配色です。この「クマノミ」のモデルは……?
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はい!ご存知の方も多いと思います。
某アニメ映画で有名なカクレクマノミですね。
このカラーリングがクラウン(道化師)の化粧や衣装を思わせることから、英語では「クラウンアネモネフィッシュ」と呼ばれることもあります。
ここでいうアネモネとはシーアネモネ、すなわちイソギンチャクのことを指します。
イソギンチャクとともに生きる
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ご存知の方も多いでしょうが、クマノミの仲間はイソギンチャクとともに暮らします。
その様子はまるでイソギンチャクを家にしているようですらあります。
イソギンチャクの触手には毒があるため、クマノミを襲う他の魚やタコ、甲殻類などから身を守る最強のバリアとなります。なお、クマノミたちは小さな頃からイソギンチャクと暮らすことで毒に対する免疫を獲得するのだとか。
クマノミも世話になってばかりではなく、クリーニングをしたり食べ物を供給したりとイソギンチャクサイドへ恩返し(?)をしていることがわかっています。つくづく上手くできていますね。
※こうした関係を「相利共生」といいます。
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性転換する!!
また、クマノミはなんと性転換を行うことが知られています。
彼らは一つのイソギンチャクに数匹が群れて生活するのですが、その中で繁殖に参加できる者は体の大きさを序列にワンペアのみと決まっています。
具体的には一番大きなものが雌、二番目に大きなものが雄としてつがいになっているのですが、もしも何らかの理由で雌が不在になると……。それまで二番手だった個体、すなわち雄が雌へと性転換するのです!
さらに群れの三番手だった個体が雄として繁殖に参加することで、群れが維持されます。
すさまじい話です。
…あれ?
これってあの某クマノミアニメ映画に照らし合わせると…。
冒頭でお母さん(群れ唯一の雌個体)がさらわれる→必然的にお父さんが性転換してお母さんに、そして息子はいずれそのつがいに……という具合にまったく違うベクトルでドラマチックな展開になってしまうわけですね。たいへんだ。
あるいは、そんなドロドロした事態を意地でも回避するために必死の冒険活劇を繰り広げているのだとしたら、ある意味つじつまが合うやもわかりませんね。
あまり現実的に考えるのはやめましょう!夢が壊れる!
なんにせよ、容姿から生態まで興味の尽きない魚であります。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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