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目黒将司×LAM 無二の個性派クリエイター対談-「目黒サウンド」「LAM絵」と称される“キャッチーさ”はどう育まれた?

『ペルソナ』『真・女神転生』シリーズのサウンドコンポーザーとして知られ、2021年9月末にアトラスを退社した目黒将司氏。様々なメディアミックスプロジェクトやVTuberのキャラクターデザインを手掛けてきたLAM氏。意外にも共通点の多い両者の対談の模様をお届けします。

ゲームビジネス 開発

世の中には、ジャンルにその人の名前が冠されるほど、その強烈なクリエイティビティが広く認知されるクリエイターがいます。「目黒サウンド」と呼ばれるポップで印象的なゲーム音楽を、主に『ペルソナ』シリーズで手掛けてきた目黒将司氏もその一人です。

そんな同氏は2021年9月末をもって、新卒から勤め上げたアトラスから独立したことを発表。インディーゲーム作家支援プロジェクト「講談社ゲームクリエイターズラボ」のサポートを受け、個人で新作ゲーム『Guns Undarkness(ガンズ アンダークネス)』を開発中であることを併せて告知し、国内外のゲームファンが大きく騒めきました。

ところで筆者は、類まれなるクリエイティビティを持つ、アトラス出身のクリエイターをもうひとり知っています。固定観念に捉われないビビットな色遣いと、胸を衝くようなインパクトに満ちた「目」の表現。様々なサブカルシーンのメインストリームで、アートワークを手掛ける人気イラストレーターのLAM氏です。かつて同氏はUIデザイナーとして、目黒氏と職場を同じくしていました。

「目黒サウンド」と「LAM絵」という個性。そして同じゲーム会社から独立しつつ、なおも活動の幅を広げんとする創作意欲の源泉はどのようなものなのでしょうか。約3年半ぶりの再会となるふたりに、特別対談をしていただきました。

再会と、開幕早々に知らされた衝撃の事実

LAM:まずは、お久しぶりです(笑)。

目黒:ホントに久しぶりだね(笑)。

LAM:いやビックリしましたよ。あの制作されているゲームってもしかして……。

目黒:「アレ」ですよ……!

LAM:ですよね!ね!トレーラーを見て「ええーッ!!」と思いました。

目黒:アレを8年間かけて作ってる(笑)。

――早速、置いてきぼりなのですが……!「アレ」とはなんなのでしょうか?

LAM:実はですね……。アトラス在籍当時の僕は、目黒さんがディレクターを務める少数チームへ参加していたことがあったんです。日の目を見なかったんですが、一緒にゲームを作っていました。

目黒:それを再始動したのが『Guns Undarkness』なんです。「Unreal Engine 4 で極めるゲーム開発」という教本を元に、イチからUnreal Engineを学びながら今まで作ってきました。

LAM:それはサウンド制作と並行して……?

目黒:そうそう。『ペルソナ5』を作りながらね。改めて会社にプレゼンしたところ、僕の本気は認めてもらえたんだよね。それで「目黒さん個人がプライベートでゲーム制作をするのは自由なので」って。

LAM:全然知らなかった! 当時、僕はUIデザインとグラフィックを担当させていただきましたよね。あとはキャラクターのリファインとか。入社から3年目か4年目ぐらいで……。

目黒:コンセプトはそのまんまなんだけど、個人で作るのに会社のアセットは使えないから。シナリオから何から全部自分でやろうと、まるっと作り変えてね。

『Guns Undarkness』開発中画面

――LAMさんが『Guns Undarkness』の原型となるプロジェクトと関係があったとは驚きです……!アトラス在籍時のLAMさんにとって、目黒さんは大先輩であり上司であったと思うんですが、お互いの初印象を覚えていますか?

目黒:覚えてる?

LAM:覚えていますよ。そりゃもう……席ですよ。

目黒:おぉ、席!そうそう。覚えているんだ(笑)。

LAM:社員に配られる座席表ってありますよね。目の前の席に「目黒」って書いてあって「『ペルソナ』シリーズで有名な目黒さん以外にも目黒さんがいたらややこしいな」って当時は思っちゃったんですよ。

というのも、僕に割り当てられたのはごく普通のグラフィックデザイナーとしての席で、まさかサウンドチームの有名人がいるはずないと考えていたんです。そしたら隣の席の先輩から「その目黒さんだよ」と言われて、「……え?」って(笑)。

目黒:それさ、その席に座って何日目のこと?

LAM:えっと……2日目ぐらいですね。

目黒:僕が初日で覚えていることなんだけど、席に座って作業をしていたかと思えば、急に立ち上がってね。「○○(先輩社員)さん、どこにいるか知ってます?」って言われたの。

LAM:誰にですか?

目黒:君にだよ!

LAM:えぇーー!そんなこと言ってました、僕!?

目黒:驚きながらも「いやぁ……知らないッス……」って答えたよね(笑)。

――同じ職場で働くなかで、印象が変わったことはありますか?

LAM:そもそも目黒さんはサウンドチームのトップの人で、対して僕は一般社員だったので、なんというかフィクション上の人物に近い感覚ですよね。入社からしばらくは直接やり取りする機会はあまりなくて。ちゃんとコミュニケーションを取れたのは、先ほどの話に出た少数チームに配属されていた時ですね。

目黒:僕はね。そのちょっと前ぐらいからすげー新人がいるって聞かされていたんです。「キャラクターを描くのがすごく上手くて、めちゃめちゃデキるやつ」と言われていてね。

LAM:それ、ホントに言われてました!?

目黒:キャラクターデザインのリファインも、最高に素晴らしかったよ。

LAM:ありがとうございます。キャラクター原案が既にあって、それらをどうクオリティアップしていくのか目黒さんと話し合いましたよね。あとはテクスチャやら、本当になんでも屋みたいな動きをしていたのを覚えています。

でもそれは目黒さんもそうで。チームでご一緒した時にすべての工程をチェックしているのを見て、音作りの人であるのと同時に、ゲーム作りの人なんだと驚かされました。

目黒:それが楽しかったのが原体験として、今に繋がっているのかもね。

そういえば、LAMさんとのエピソードで嬉しかったことがあってね。デザイナーに参加してもらう際に、まずゲームの世界観を説明するじゃん。このプロジェクトはどの辺りをターゲットにしているのかを、縦軸と横軸を引いて……たしか「男臭さ or 萌え」「年齢層高め or 低め」みたいな形で、当時流行っていたアニメを引用しながら。

LAM:覚えています!

目黒:それで「我々はこの辺りを狙っています」と話したら、「すごく分かりやすい資料で、一瞬で理解できました」と返ってきたのがすごく嬉しかったんだよね。

LAM:話は戻りますが、僕がアトラスに入社したい!と思ったきっかけは、目黒さんと副島さん(*1)、須藤さん(*2)だったんですよ。3以降の『ペルソナ』シリーズが醸し出す“カッコよさ”や“ポップさ”がすごく好きで、ちょうど中高生の頃にドカンと突き刺さったのがそのグラフィックと、目黒さんが手掛けるサウンドだったんです。

(*1)アトラス所属のイラストレーター・キャラクターデザイナーの副島成記氏。『ペルソナ』シリーズでメインキャラクターデザイン・アートデザインを務める。

(*2)アトラス所属のUI専属デザイナーである須藤正喜氏。『ペルソナ』シリーズや『キャサリン』を担当。


だからこそ僕……ぶっちゃけますけど、入社してから半年ぐらいは、目の前の席の目黒さんが本人だと信じ切れなかったというか、少しフワフワしていたんです。「本当にこの人が目黒将司さんなのか?」って。

目黒:そうだったんだ(笑)。

LAM:その後「PERSONA SUPER LIVE 2015 ~in 日本武道館」を観覧させていただく機会がありまして。“目の前の席の目黒さん”がギターを弾いていたんです。そこでやっと一致しました。

目黒:ようやくリンクしたんだね。

LAM:そうですね。「目黒さんだ!」と。

――LAMさんはメディアミックスプロジェクト『takt op.』『テクノロイド』など、活躍の幅を大きく広げられています。先ほど当時からアウトプットが目立っていたと話されてましたが、現在に繋がるような片鱗は見せていたのでしょうか?

目黒:僕のチームで絵を描いてもらっていた時は、キャラクターデザイナーがアップしてくれた真正面の硬い表情のものを、ゲーム向けのバストアップにリライトしてもらっていたんですが、割とハード路線のキャラクターでも、すごくキャッチーな可愛さを加えてくれました。

「僕、女の子の絵を描くのが大好きなんですよ!」ってバーっと仕上げてくれた当時のチームメンバーが、気づいたらHAL東京のCMですごい活躍をしていて。そういえば、まだ途中だけど『takt op.』のアニメも見ましたよ。

LAM:ありがとうございます! 最終話までぜひ見てください。

『takt op.』公式サイト:https://anime.takt-op.jp/


目黒:
それにしても今は、完全にLAMさんの絵として完成しているよね。過去に「同人界ですごく有名になっているよ」と耳にしたことがあったんだけど、その頃はどんな絵を描いていたのか知らないんだよね。

LAM:今とあまり変わらないですよ。顔周りにしても色遣いにしても。

目黒:あとLAMさんって美大出身じゃないですか。美大ってすげーんだなぁというのは思ったよね。アニメ放送中の『ブルーピリオド』とか見ながら(笑)。アカデミックなことを学んで今に至っているんだなと。

ところで『東京クロノス』のインタビュー記事を読んだんだけど、LAMさんの起用理由になるほど納得しつつ、その案件が決まってから独立を決めたんだよね?

LAM:悩みましたけどね。当時、社内で取り組んでいたタイトルもありましたし。

――逆にLAMさんは、目黒さんが独立を発表された際にどんな印象を受けましたか?

LAM:いや、ビックリしましたよ。本当にビックリしたんですが、それよりも『Guns Undarkness』。これって……これって……!っていう感動がすごかったですね。一般的に目黒さんは、サウンドクリエイターとして認知されていますが、ゲーム開発自体へのモチベーションが高かったことを僕は知っていました。そうだとしても、まさかあのゲームを個人で作り続けていて、果てには賞をとって独立するとは!

目黒:おかしな話だよね。

LAM:目黒さんが今後もアトラスと関係を続けられるということに、いちファンとしてはホッとしつつ、本当に衝撃でしたね。目黒さんの「これをやりたいんだ!」っていうゲームへの情熱が形になれば、きっと素敵な作品になると思います。

あと実は一番葛藤があったのがTwitterでして(笑)。独立を発表されて、錚々たる方々から祝福されていたじゃないですか。僕もリプライを飛ばしたかったんです。

目黒:別に送ってくれればいいじゃん(笑)。

LAM:いや、「なんか知らない人からリプライ来た」と思われるかなと考えてしまって。まさか僕をLAMだと認識してくださっていると思っていなかったですし。だけど、どこかでお祝いだけはどうしても伝えたかったんです。ちょうどそんなことを考えていた時、今回の対談企画の依頼をいただきまして「とにかくお会いしたいので是非!」と(笑)。

――企画打診時、目黒さんもLAMさんも同じように驚かれていたのが印象的でした(笑)。ところで改めてになりますが、目黒さんの独立経緯をお訊かせいただけますか?

目黒:先ほどお話ししたように中止になったタイトルを、ちまちまと一人で作り直していたんです。最初はそれこそ、フリーソフトとして配布しても良いかなと思っていました。実際にプロトタイプ版は「ふりーむ!」というサイトで公開していまして。Steamは無理かもしれないけど、いずれは小さく同人で売ったりしたいなと。

そんななかで2020年10月頃に、講談社さんの「ゲームクリエイターズラボ」に応募したところ、最終選考まで残ったうえサポートをいただけることになりまして。2021年1月頃には担当の方もついてくれて、ここまで大きな規模でできるのだったら……という感じですね。

LAM:目黒さんとしては、サウンドクリエイターとしても引き続き活動していきたいのですか?それとも大きく、ゲーム開発者へシフトしていきたい?

目黒:面白そうな仕事であれば、作曲の仕事も是非やりたいよね。ただゲーム音楽はねぇ、例えば初めましてのゲーム会社さんと新たに関係を構築して、新しいゲームの音楽を作るぞ!というのはもう良いかな。引き続きアトラスのタイトルは一緒にやっていきたいと思っているけど、それ以外のコンシューマー系はどうだろうなぁ。

“してやったり”な独立発表―開発ゲーム『Guns Undarkness』の反響は?

――ちなみに目黒さんへ。独立発表と『Guns Undarkness』のトレーラー初公開時の反響はいかがでしたか?

目黒:やっぱり根底には僕のことを知っている方々を驚かせてやりたいという思惑があったので、“してやったり”ですね(笑)。それと「音楽家がゲーム制作なんてできるの?」といった懐疑的な反応もあるだろうとは予想していて、そういうのも含めて驚いてくれて良かったなと思いますね。

――その「音楽家がゲーム制作すること」について。目黒さんのサウンドクリエイターとしてのノウハウはゲーム制作にどう活かされているのでしょうか?

目黒:作曲に関しては『ペルソナ』にしても『真・女神転生』にしても、そもそも起案したのは僕じゃなく、そこにはディレクターやプロデューサーがいて、大元であるその人たちが一番の責任を背負っている……ということで一歩引いた感覚に近いんです。その作品の音楽について100%答えることはできても、シナリオやシステムについて答えられることはありませんよね。

対して今回のゲーム制作は大元が僕だから、音楽もシナリオも含めた全部について答えられる。音楽制作はディレクター・プロデューサーのリクエストに対して方向性を定めていくという、“下流から上流に向けた”考え方が必要ですけど、ゲーム制作は“上流から下流に向けて”という考え方で、その下流で指示を受けるのも自分自身ではありますが、だいぶアプローチは異なりますね。

――同じく元々UIデザイナーだったLAMさんについても、今の活動に繋がるものをお伺いしたいです。

LAM: UIデザイナーとしての先輩であった須藤さんが本当にすごい人で、考え方やデザインセンスを少しでも吸収できたらと常々思っていました。UIデザインはユーザーの目に触れる機会が多い要素なので、カッコいいだけじゃダメ。見やすさ・使いやすさを前提に、画面のカッコよさに貢献するバランス感覚が問われるんです。

『ペルソナ』だとメニュー画面を開いた時のインパクト。画面がもたらす情報の強弱をコントロールし、どこにユーザーの目を向けさせるかというUIデザイナーとしての意識は、僕のイラスト制作にすごく活かされていると思います。

Twitterをフリックすると、ずらーっと色んな情報がタイムラインに流れますよね。そんななかで「おっ!」って目に止めてもらうのは、いかにキャッチーであるかが重要で、その人の0.5秒を奪えるかを、UIデザインの考え方で絵に落とし込めているのかなと思いますね。大学時代は絵よりもグラフィックデザインを学んでいたので、他の人と比べて特別絵が上手いわけではありませんでしたが、そのノウハウは強みになっていました。須藤さんから学んだことは、今の絵に活きているかもしれません。

――いまお話しされたことをより掘り下げたく。“キャッチ―”な作風というのはおふたりの重要な共通点で、よく「目黒サウンド」「LAM絵」と呼ばれますよね。一種のステレオタイプが出来上がることで、やりたいことと求められることにギャップを感じることなどはあるのでしょうか?

目黒:確かに理想を言えば、「目黒さんはどんなジャンルでもいけるよね」「ロックもクラシックも作れるよね」と言われたくて。「目黒さんっぽい」と言われることがベストとは思っていなかったんだけども、『ペルソナ』のブレイクを経験し、皆さんのご期待に添えるようなものを作ることも大事だなとは、年を重ねて思うようになりましたね。

LAM:やっぱり、ファンが好きと言ってくれるところを尖らせれば尖らせるほどニーズはそこに集中しますし、やりたいことと求められることへのギャップを感じることはクリエイターならよくあることだと思いますね。クライアントが僕のイラストに求めることは、「クールさ」や「カラフルさ」であることが多いんですが、求められるものがあるというのは嬉しいことでもあります。

基本的に“依頼には時差がある”と思うんですよね。僕があるイラストを公開したとしましょう。それを好きと思ってくださった上で、「仕事で同じテイストの絵を描いてほしい。よし、機会が回ってきたのでイラスト制作をお願いしよう!」となるまで、結構時間が経っているんですよね。その時の僕が、当時のような気持ちで当時のような絵を描けるのかと言われたら難しいかもしれませんが、その時間差を埋めるのがプロかなと思っていまして。クライアントの希望を汲み取りつつ、今の僕が「こういう絵がいま一番カッコいいと思うんですけど」という再提案をさせていただくこともありますね。

目黒さんもおっしゃっていましたけど、ファンの方々がどのぐらい喜んでくれるか、驚いてくれるかというのが一番かな。僕は『ペルソナ3』の音楽に衝撃を受け、『ペルソナ4』の音楽にドハマりして、クリエイター側として『ペルソナ5』と関わって……と辿ってきました。僕が『ペルソナ3』と出会った時のように、HALのCMで「なんだこの絵は!?」と知ってくださった方がいる。時間経過とともに、その人たちにとってLAMという存在はお馴染みなものになっていくと思うんです。『ペルソナ4』『ペルソナ5』のように、彼らのニーズに応え続けながらも新鮮な驚きを提供し続けることが大事だと思いますね。

目黒:いわゆる“LAM節”は、形は変えつつも基本があるわけじゃない?その最初の取っ掛かりは、いつ頃に出来上がったの?

LAM:『東京クロノス』のご依頼をいただく一年前くらいですね。イラストレーターとして独立したり、社内でキャラクターデザイナーとして出世したり、そういうことに対する憧れがあったので、仕事と両立しながら絵のことを勉強したり描いたりという日々を送っていました。そんななかで急に出来上がったんですよ。

イラストは一般的に、「線」「色」「陰影」「効果」とレイヤーを分けて順々に描き進めていくんですが、そのままの意味で絵があまり上手くなかった僕は、後半にミスが見つかることが多かったんです。そうすると線画から修正しなければいけなくて、それを修正すると他のデータも修正する必要が出て……と、とにかく面倒くさくて一回発狂しちゃったんです(笑)。

それですべてのレイヤーを統合して、一枚のキャンバスに描く油絵みたいにしてみたら、消したい所を消しゴムでスーってなぞって全部消えるのがめちゃくちゃ気持ちよくて。子供のお絵描きみたいに好き勝手描いちゃえ!という気持ちで、髪の毛は黒髪なのに赤く塗ってみたりと、本当に勢いで描いたものが褒めてもらえたんです。

目黒:へぇ~。

LAM:その成功体験が大きかったかもしれませんね。やっぱり「塗りはハミ出しちゃダメ」「不純物があってはならない」「キレイな線が正義」なんて思っていたんですけど、全然そんなことなかったんですよ。主観と客観がズレていたというか、厳密には今まで気づかなかった客観が存在していました。荒くても良い、とにかく面白いと思ったことをなんでもやっちゃえ!と積極的に色んなカラーを入れたりしていたのが3~4年前くらいで、それから徐々に自分のスタイルが確立していきましたね。

目黒:なるほどね。そうやって発見したんだ。

――より具体的に、いわゆる“節”が世間で認知されるようになったきっかけの作品は、どの辺りになりますか?

目黒:やっぱり『ペルソナ3』だと思いますね。本作が引っ張り上げてくれたっていう感じです。

LAM:僕のきっかけとして大きいのは『FGO(Fate/Grand Order)』のファンアートですね。

2時間くらいで描いたイラストに過去一の反響があったんですよ。Twitterのフォロワー数が万単位で急増するくらいに。それが僕のなかで衝撃的でした。

それまでの僕は一枚のイラストに一週間かけないと完成しないと思っていたんです。2時間で描いたイラストが一週間血眼になりながら描いたものよりもバズる……、もちろん大人気のキャラクターだったという要素もあるんですけど、Twitterではそういうことが往々にして起こるんだ!というのは、転機と言えるくらいの気づきで、そこからSNSと僕の活動は切り離せないほど密接になりましたね。

――対して、目黒さんはSNSを活用されていますか?

LAM:アカウントは拝見していますよ。結構呟かれていますよね。

目黒:そうそう。ゲーム制作をするようになってから、進捗を報告する場としてね。それとキャラクターデザイン担当のイリヤ・クブシノブさん。彼にお願いすることになったきっかけもTwitterのタイムライン上でイラストが飛び込んできて、「すっごいなコレ!」と思ったからなんだよね。それからすぐに『攻殻機動隊』関連で繋がりのあった講談社さんから紹介してもらって。

それと主題歌のボーカリストのたき まことさんはYouTube経由ですね。そもそもは人をインペグ屋さんから紹介してもらおうと、その依頼に必要なサンプルを探していたところ「あっ、こういう声質いいな」と発見して。「じゃあこれをサンプルに……いや、直接この人に頼んじゃおう」という経緯ですね。

LAM:イラストには著名なイラストレーターであるイリヤさん、サウンドにはたき まことさんという新鋭のクリエイターを起用する。目黒さんが「良いな」と思ったのが、たまたまそのおふたりだったんですね。

目黒:完全にフラット。そういうスタッフィングもすべて僕自身で決められるのが、インディー開発らしいよね。ちなみに講談社さんと「今すごく有名なLAMさんが知り合いで、頼むとかできなくはないけど、どうする?」「ただ忙しそうだし、無理かもなぁ……」みたいな会話も実はあったよ(笑)。

LAM:名前を挙げてくださっただけでも光栄です!ところで、すべて目黒さんが決めているということですが、有志を集めてチーム化しようというのは考えていますか?

目黒:それは無いかな。というのもずっと一人でやっている一番大きな理由はね。プログラムからレベルデザインから、すべての作業がね。楽しいのよ。

LAM:確かに進捗報告のツイートを眺めていると、本当に生き生きとされているのが伝わってきます。髪の毛のシェーダーをジョリジョリいじってるなぁと。

目黒:そうそう!楽しいんだよねえ。

LAM:そろそろ僕をフォローしてくれないですかね(笑)。

目黒:そうだわ!忘れてた。え、でもフォローはしてくれてる?

LAM:してますよ!

目黒:あ……本当だ。独立を発表して、750人くらいのフォロワーが一晩で10倍以上に増えたから、もうわかんなくなっちゃって(笑)。

LAM「常にストップウォッチがある感覚」

目黒:ところで、最近はどうなの?やっぱり忙しいの?

LAM:そうですね……。今は一日につき1~2件くらい締め切りがあるので、脳内に常にストップウォッチがある感じですね。それが独立してからずっと消えることがなくて。

目黒:なるほどねぇ。そんなに大変で仕事は楽しいの?

LAM:楽しいんでしょうね(笑)。いや本当に、絵を描くのは楽しいですよ。時間ができたらやりたいことはあるかと聞かれたら、絵を描きたいと答えます。ただ、仕事は達成する喜びがあるんですけど、そこからは接種できない栄養もあると思うので、そろそろ新しい栄養が欲しいという欲求はありますね。仕事以外の趣味の絵や、それこそ好きなゲームシーンやVTuberさんのファンアートなどを描きたいです。

逆に目黒さんはフリーとして活動されてから、決まったお休みは作られていますか?

目黒:(講談社の担当に視線を向けながら)……ごめんなさい(笑)。普通に休んでいます。今日も10時起きです。別に休日を決めようとはしていないけど、普通に休んじゃうなあ。

LAM:あ、でも休むというのは僕もそうですよ。毎日不眠不休で絵を描いているわけじゃなくて、むしろ普通に寝ちゃうから締め切りがヤバいっていう(笑)。ただ、家から出ないので季節感はわからなくなります。この前、半袖で外出たら寒くてびっくりしました。

目黒:ヤバいじゃん。じゃあ起きている間は、常に仕事?

LAM:いや、ゲームをしたりマンガ読んだり「あー!やりたくない」とウダウダしていることもあります。ありますあります。

目黒:ただ、ストップウォッチは常にある……?

LAM:そうなんです。ただ絵で悩んでいる時は、いい絵を描くことでしかスッキリできないから、そんなことをしていてもストップウォッチは消えないんですよね。

目黒:カッコいいなあ。ただ僕はもう50だから、頑張りすぎると死ぬっていうのはあるよね(笑)。だからそこは、自分の体調と相談しながら働くようにしているよね。

――おふたりに憧れている、ゲーム・音楽・デザイン畑の若手クリエイターがたくさんいるなか、彼らはどういう研鑽を積めばいいのか、アドバイスなどをいただけますか?

目黒:研鑽かあ……。ちょっと考えるのでお先にどうぞ(笑)。

LAM:月並みですが、楽しめるかどうかですかね。目黒さんも楽しいからゲーム制作を続けていますし、僕も絵を描くのが楽しいから、上手く描けるようになりたいというモチベーションが続くんですよね。

とはいえクリエイティブワークって、ハッピーなことばかりじゃないと思うんです。作る対象、描く対象が好きなものとは限らないですし。そんなことが往々にしてあるなかで、どうやって楽しめるかが重要かなと思います。僕がこれだけ締め切りに追われながらも絵を描き続けられているのは、きっと楽しむ能力が高いだけで、楽しんで取り組めていなかったら良い絵に、良いクリエイティブになっていなかったと思います。とにかく楽しんでもらいたい。実力は後から付いてきますので。

アトラス時代に知り合ったイラストレーターさんはみんなフリーランスで、平日に僕がUIの仕事に取り組んでいるなか、ずっと絵を描いて実績を重ねているわけじゃないですか。この人たちに追いつくにはこの人達の2倍描かなきゃだめだと思い、その頃はとにかく燃えていましたね。

目黒:僕も思うことは、本質的には同じだけど。僕は「ゲームをやっちゃおっかな……」と思っちゃうタイプの結構怠け者で、そういう欲求に対して「だめだ、だめだ。これをやらないと」と、技術を磨ける姿勢を持たないといけないよね。

表現したいものがあったとしても、積み重ねた技術力がないと100%形にできないですし、本当はもっと良い曲にできたのに……なんてことがあったりするので、やっぱり日々の積み重ねが大切かと思います。テレビを見たいしゲームもやりたいよね。それをなんとか抑えよう、と言いたいです。

典型的ななまぐさな怠け者の僕でもできるんだから、多分皆さんもできると思うので頑張りましょう。それにLAMさんの楽しむ能力が加われば、継続できるんだなと教えられました。

――すっかりお時間になってしまったので(笑)。対談の締めとなるメッセージを、最後にそれぞれお願いします。

LAM:かなり話し込んでしまいましたが、改めて今回の対談を企画いただきありがとうございました。今でも僕にとって雲の上の存在のような目黒さんが、立ち止まる暇もなくクリエイターとしてバリバリ突き進んでいく姿に改めて感銘を受けました。僕自身もゲーム業界だったりサブカルチャーだったりといったコンテンツのなかで一生懸命頑張っていくので、ぜひぜひ活躍を見てもらえると嬉しいです。

あともうひとつは“縁”というのは繋がるんだなと。たまたま過去に僕が目黒さんのチームに配属されたことがあって、そのことを公にしていないのにたまたま今回お声掛けをいただいて、さらに発表されたゲームがたまたまそれと関係深くて……本当に“奇縁”ですよね。

読者さんの中には、今いる環境から別の場所へ行きたいと考えている人もいるかもしれません。こんな風にそこで知り合った人と、後々別の何かで繋がることが起こりうるので、ご縁を大切にしてほしいです。僕もいつか目黒さんとお仕事できたらなと思います。

目黒:僕はなんと言いましょうか、LAMさんが会社にいた頃の尖った、ぶっ飛んだ姿を懐かしく思いつつ……。

LAM:未熟者でした(笑)。

目黒:僕が新人の頃の重なる部分もありつつ、でも、僕はもう尖っているだけでダメな社員だったんだけど。久しぶりに会っても、その“憎めない尖ったキャラクター”は変わっていなくて安心しました。

ただこうやってお話をしたら、アトラス時代からすごく努力をしていて、今も常に脳内にはストップウォッチがあって、ストイックで芯のある人だなと思い知らされましたね。対談前は「どういうスタンスで話すのがいいんだろう、上司ヅラするのもなあ」とか考えていたんだけど、いい意味ですごく裏切られたというか、やっぱり人気者はなるべくしてなるんだなって。

それと僕はゲーム作りに関しては一年生なので、そこまでのクオリティについては皆さんご期待し過ぎないでもらいつつ(笑)。ゲーム制作一年生の50のおじさんがゲームをどう作り上げるのか、温かく見守ってほしいなと思います。精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

<企画・取材・執筆:矢尾新之介/撮影:トモノユウ>


Steamストア『Guns Undarkness』:https://store.steampowered.com/app/1801140/Guns_Undarkness/

《矢尾新之介》
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