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「変えちゃおう!クロノが私を助けてくれたみたいに!」
1995年にリリースされたRPG『クロノ・トリガー』のラスボスであるラヴォスは、端的に説明すると「宇宙から飛来して星の地中に潜み、数千万年もの時間をかけて星を内側から食らい、やがて地表にあらわれて最後にその星を滅ぼす生命体」です。
主人公のクロノたちは自分たちが生きるA.D.1000の遥か未来であるA.D.1999にラヴォスが地中から現れて世界を滅ぼすことを知り、仲間であるガルディア王女マールの発案で未来の変革を決意。現代、中世、未来、原始、古代と数多の時代を駆け巡る冒険へ旅立ちます。
ラヴォスはゲーム中で一切言葉を発しません。クロノたちと戦い、追いつめられるにしたがって人のような形態を取ることもありますが、それが高い知能を有しているからなのか、目の前にいるクロノたちをなんとなく模しているだけなのか、その区別もつきません。
しかし、それが底知れなさと言いようのない恐怖をプレイヤーに感じさせます。創作における王道演出のひとつですが、「言葉によるコミュニケーションが取れない、何を考えているか分からない屈強な生命体」ほど怖いものはありません(筆者は幼少期に見た映画「エイリアン」でそれを思い知らされました)。
そして、ラヴォスの存在感を際立たせるもう一つの特徴が「ラヴォスに苦しめられる者たち」の描写が秀逸であることです。そう感じたイベントを2つ紹介したいと思います。
クロノたちがラヴォスの存在を初めて知ったのは、ラヴォスに文明が崩壊させられて久しいA.D.2300年の世界でのことでした。そんな世界でも人間は少数がかろうじて生存しており、マールは生きながらえてきた人々とその指導者であるドンに「自分たちもできることをする(ラヴォスがもたらしたこの絶望の未来を変えてみせる)から、何とかあきらめずにがんばってほしい」と励まします。そして、その前向きでひたむきな感情を前に、ドンは目を白黒させるのでした。
「あんた達は不思議じゃ。何かこう、私らとは…」「元気ってコト?」
「元気?聞いたことがない言葉だが、なんだか気持ちのいい響きだ…」
筆者はこのかけあいに大きな衝撃を受けました。ラヴォスがいかに恐ろしい存在であるかということ。そして、こんな短いテキストでここまで読む者の感情を揺さぶれることにです。言葉はそのまま通じるのに、「元気」という言葉がなくなって久しい未来の世界。どれほどの絶望なのか。それでも命をつなぐ人間のなんとたくましいことか。込められた情報の多さに、なかなか感情がついてきません。
もうひとつは、ゲーム後半に発生するサブイベントです。クロノたちと数百年もの間離ればなれになっていた仲間のロボット・ロボは、再会を祝うささやかな宴で、自分たちの前にたびたび現れるタイムゲートは「誰かが何かを見せたかったから(できたもの)」なのではないかと語りだします。
そしてそれを聞いたクロノたちは、タイムゲートはラヴォスに内側から食い尽くされ、死に瀕しているこの星が見ている「走馬灯」のようなものなのかもしれない、と推測します。
さて、本作にかぎらず『ゼノギアス』などにも見られることですが、当時のスクウェア作品の中には「セーブ画面で、今進めているイベントのサブタイトル(のようなもの)が表示される」という仕様がありました。データロード時に各データの大まかな進行具合を確認できるUI的な役割と、フレーバー的な演出を兼ねたものといえます。
そして、本作でラヴォスを倒すための準備を終え、いざ最終決戦に臨むときのサブタイトルが「星の夢の終わりに」であることに気が付いたとき、最高にシビれました。「クロノたちの推測はきっと正しかったんだ」という実感、「ここで勝たなければ星の命が終わってしまう」という覚悟、「メインストーリーではない、サブイベントとセーブ画面に仕込まれた描写」に気付けた嬉しさ…さまざまな感情がないまぜになって、テンションが上がりに上がったのをよく覚えています。
繰り返しになりますが、ラヴォス自身は終始言葉を発しません。しかし、こうしたさまざまな描写でその輪郭が丁寧になぞられて浮き彫りになることで、この上なく印象的なラスボスとして描かれていたと思います。
本記事はスーパーファミコン版『クロノ・トリガー』をプレイした1995年当時の感想を基にしたものですが、初代PSでリリースされ「Nintendo Direct 2022.2.10」でリマスター版が発表された『クロノ・クロス』や、ニンテンドーDS版で追加された『クロノ・トリガー』の追加要素も遊ぶと、また見え方が変わってくるのがラヴォスのおもしろいところであり、魅力でもあるとも言えそうです。
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