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「わたしのこと…愛してる?」
今回紹介する「石のような物体」は、1998年にアーケード版稼働&セガサターン版発売をはたしたトレジャーの横画面 縦スクロールシューティングゲーム『レイディアントシルバーガン』のラスボスです。
物語の舞台は西暦2520年。地球連邦軍は古代の地層で「石のような物体」を発見します。その近くから、現在の最新モデルであるロボノイド(ロボット)・クリエイタの同型機の残骸も発掘されたことが物議を醸しますが、調査を始めた矢先に石から放たれた閃光で地球上の全人類が瞬く間に消滅します。
それをかろうじて逃れたのは、巡航中だった宇宙巡洋艦テトラのテンガイ艦長と、それをサポートするクリエイタ、そして戦闘機シルバーガンのパイロットであるバスター、レアナ、ガイのみでした。このうち、バスターが1Pの操作するシルバーガンのパイロット、レアナが2P側のパイロットです。
惨劇の日から1年後、食料とエネルギーの枯渇が間近に迫ったテトラは衛星軌道上から再び地球へ。敵性飛行物体の大群との衝突を繰り返しつつ、「石のような物体」に関する情報が残されている可能性のある司令部の跡地を目指します。
その過程で「石のような物体」とニアミスした一行は巡洋艦テトラとテンガイ艦長、そしてガイを失い、ついに残るはバスター、レアナとクリエイタのみに。2人は亡き仲間たちに背を押されるように決戦に臨みますが、激闘の末に追い詰めたかと思った矢先、そこから放たれた閃光の前についに最後の人類である2人も消滅します。
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そしてその少し前、クリエイタは残された司令部のデータから「石のような物体」の正体を突き止めていました。この物体は文字通りの人類の生みの親で、人類が意図しない方向に進化を遂げるたび、それを絶滅させて人の歩みをリセットする存在だったのです。
自分たちが過ごしてきた日々が、そうした大きなサイクルの一巡であることを知ったクリエイタは、決戦に赴く前のバスターとレアナからもらっておいた髪から2人のクローンを作成。20年をかけてかつての2人と同じ背格好にまで培養したところで、笑顔を浮かべながら機能を停止します。「次」こそは、人類があの物体と共存できることを祈って……。
「Feel visible matter.Feel invisible matter.There is life everywhere.(目に見えるものも、目に見えないものも感じ取りなさい。命はいたるところに存在します)
「But I believe the day when you understand yourself and live together would come.(しかし、私は信じています。あなたたちが自らの力でこのことに気づき、私と共存できる日がくることを)」
石のような物体は、バスターたちと戦いながらこのように何度も言葉を発してきます。その最後ともいえる言葉が、冒頭にもある「私のこと、愛してる?」でした。効率だけを追い求め、不要なものを切り捨てる文明社会への警鐘――この物体は、そんな概念が具現化したものでもあるのかもしれません。
ここまででも骨太なストーリーとして楽しめますが、本作の企画やディレクションを手がけた井内ひろし氏によると「石のような物体」の言葉には「今日の(シューティング)ゲームは、かつてのような多様性を失いつつあるように思う。ありきたりなゲームばかりになり、さらにそれも飽きられてしまったら何が残るのだろうか」というようなメッセージも込められていたとのことで、二重の意味で話題となりました(注:カッコの中は筆者の解釈も含むもので、井内氏がそのままの発言をされたわけではありません)。
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そんな本作は、赤、青、黄にカラーリングされた敵を特定の色だけ続けて撃破したり、特定の順番で撃破したりすることでチェーンをつないで高得点を出し、得点を稼ぐほどに武器が強化されるという独特のシステムを採用。パズル性が極めて高く、「パズルシューティング」ともいえる独自の魅力を放っていました。
続く2001年に井内氏とトレジャーがリリースしたSTG『斑鳩 IKARUGA』は、和風の趣が強い世界設定ながら本作の「石のような物体」が「産土神黄輝ノ塊(うぶすなかみおうきのかい)」として登場。システムは異なれど、世界設定という意味では「やり直したあとの人類」を描く、本作の直接的な続編でした。
また、井内氏は2022年4月現在エムツーに所属しており、現在制作中であるSTG最新作のタイトルは『ウブスナ UBUSUNA』であると発表しています。そのタイトルから『レイディアントシルバーガン』~『斑鳩』とのつながりに期待したくなりますが、どのようなゲームになるのでしょうか。
『レイディアントシルバーガン』は2011年にXbox Live Arcadeでリマスター版が配信されており、Xbox One、Xbox Series X|Sにも対応しています。