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「僕たちのしたことは、本当に正しかったのだろうか…」
1989年にPC-8801対応ソフトとして日本ファルコムから発売された『ドラゴンスレイヤー 英雄伝説』のラスボスである破壊神アグニージャは、かつて人類を滅亡寸前まで追いやったとされる竜の姿をした悪神です。
そんなアグニージャの復活が目前に迫っていることを知り、主人公のセリオス王子たちはその打倒を旅の最終目標に定めます。
そしてセリオスは仲間と力を合わせてついにアグニージャを倒しますが、その口から語られたのは「他の生き物の命を奪い、大地を汚し、世界を我が物顔で支配する人間こそが真の世界の破壊者。その人間を滅ぼし、世界を守るのが私の役目だ」という、破壊神という異名には似つかわしくない言葉でした。
二度と自分が必要とされないよう、今一度機会を与える…と言葉を残してアグニージャは絶命。その真意を知ってセリオスが自問自答するように発したのが、冒頭の言葉です。
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本作をプレイしていない方は「そんなこと言ってもファンタジーの世界だし、人間も生きるために最低限度のことをしているだけでしょ?」と感じたかもしれません。ここでタネ明かしをしますと、本作と、その約20年後に起きた物語を描く『ドラゴンスレイヤー 英雄伝説II』の2作品は「ファンタジーの皮を被った遠未来SF」なのです。
『英雄伝説』でセリオスたちが訪れる「水晶の塔」にはカードキーとエレベーターが登場しますし、その後、彼らがアグニージャに対抗するために古代の文献を紐解いて蘇らせた「光の剣」は、専用の柄にレーザーでできた刃を出現させるという、プレイヤー目線で見ればライトセーバーも同然のシロモノでした。
さらに『英雄伝説II』では、OPデモで登場する地底人がガッチガチの防護服を着こんでいるところから始まり、ついには地上の人々が信仰してきた女神フレイアの正体は人格を備えたスパコンで、その僕(しもべ)と伝えられるヨシュアの正体は人工衛星であったなど、怒涛のSF展開が吹き荒れます。
そして、アグニージャがかつて滅亡寸前まで追い込んだのはそうした文明であったことが明らかになります。光の剣やフレイアを見るかぎり現代の科学技術よりもずっと先を行っていますし、もしかしたら大気汚染や環境破壊も深刻だったのかもしれません。『英雄伝説II』をプレイすると、プレイヤー視点で見ても「アグニージャは人類の敵かもしれないが、はたして悪といえるのか?」とセリオスと同じ気持ちになってきます。
初期の『英雄伝説』シリーズは、このような「続編を遊ぶことで前作の見え方が変わる」ストーリーテリングが特に秀逸で、世界設定・舞台を一新して壮大な物語を描いた「ガガーブトリロジー(『英雄伝説III』~『V』の三部作)ではそれにさらなる磨きがかけられました(そちらは今回紹介した2作のようにSF設定が深く絡むわけではないのですが)。
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「剣と魔法のファンタジーと見せかけ、実は科学文明が一度滅んだあとの世界を描く遠未来モノ」という設定やシナリオは、もちろん本作が初というわけではありません。1980年代初頭の名作RPG『ウルティマ』や『ハイドライド』シリーズにもSFネタがあったそうですし、本作に2年先駆けて1987年にシリーズ第1作が発売された『ファイナルファンタジー』も、ミラージュの塔~浮遊城関連にロボットやワープキューブといったSF要素が見られました。
とはいえ、SF設定が物語の根幹に深く関わる作品に筆者が初めて触れたのは本作のPCエンジン版(1991年発売)でしたので、今も印象に残っているというわけです。みなさんにとって初めての「実は遠未来モノ」はどの作品でしたか?
『ドラゴンスレイヤー 英雄伝説』は、レトロゲーム配信サービスのプロジェクトEGGでPC-8801版、PC-9801版、MSX2版が配信中です。また、日本ファルコムは著作権を保持しつつもユーザーが同社の楽曲を自由に利用できる「ファルコム音楽フリー宣言」を発表しており、本作もさまざまなプラットフォームでの楽曲が「Falcom Music Channel」で配信中です。筆者が思い出深いPCエンジン版はオリジナルのPC版にはなかった中ボス戦時の楽曲が新たに追加されており、その曲もお気に入りでした。