◆登場と同時に「魔導」が一瞬で環境に
遊戯王において、手札と場の充実度は基本的に反比例の関係にあります。特に2013年は、今ほど強力なカードは少なく、その傾向が顕著でした。
そのため盤面を大きく動かそうとすれば、その分手札のリソースは枯渇して当然です。逆に「毎ターン、展開しながらサーチやリクルート」のできる「水精鱗」「3軸炎星」などが強力テーマとして、Tier1扱いだったのです。
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しかし、そんな時代に「神判」は“好きな時に発動でき”、“他の魔法カードをつかうだけで”、“複数のサーチと特殊召喚を行える”という、何をどう考えても狂気としか思えないカードパワーを持っていました。「デッキからカードを引く」というようなランダム性さえなく、もはやリストバンドにカードを仕込む行為さえ可愛く見えるほどです。
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しかも「魔導」は飛び抜けてこそいませんが、「魔導書」をサーチする「グリモの魔導書」や、墓地コストを使ってカードを除外する「ゲーテの魔導書」といった、優秀なカードを多く持っています。
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一応「神判」が初手に来ない可能性もありますが、「魔導」には「グリモの魔導書」に加え、召喚・リバース時に「魔導書」魔法カードをサーチする「魔導書士 バテル」もあり、先行1ターン目から「神判」をサーチできるカードを6枚も持っていました。ちなみに「灰流うらら」はまだありません。
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この結果、「魔導」はほぼ1ターン目から、大量にモンスターや魔法・罠を展開しつつ、無尽蔵に手札を充実させるデッキへ変貌しました。当然こんなデッキが弱いわけがなく、パック発売初日の大会で即優勝。遊戯王のデッキを「魔導」と「それ以外」に分裂させました。
とはいえ「神判」のすさまじさは発売前から知れ渡っており、プレイヤーからは「やっぱりな……」という雰囲気さえ漂っていました。わからなかったのは「なぜこれが刷られたか」という点です。
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しかしさらに驚きだったのは、同じパックに「魔導」と互角以上に戦える「征竜」がいたことでしょう。詳しい事は省きますが、「征竜」と名の付く8種類のカード全てが1度は禁止カードになっていると言えば、その恐ろしさが伝わるかと思います。
◆突如注目が集まった「トゥーンのもくじ」
発売後、そんな「征竜」に対抗するため、「神判」を活用する方法が研究されました。
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個人的に一番面白かったのが、「トゥーン」カードをサーチできる「トゥーンのもくじ」を使い、「トゥーンのもくじ」から「トゥーンのもくじ」をサーチし魔法カードの使用回数を増やす方法です。このコンボによって、それまでほとんど需要のなかった「トゥーンのもくじ」が急にカードショップのケースに入って売られ始めました。
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そして研究の結果、7月から新たに禁止となる「虚無空間」を内蔵したモンスター「昇霊術師 ジョウゲン」などを特殊召喚する戦法などが確立。もはや「征竜」以外のデッキでは何をしても無意味となり、遊戯王は「征竜魔導」環境と呼ばれる時代に突入しました。
無論、こんな状況が許されるはずもありません。「神判」は登場から197日後の制限改定で禁止指定を受けます。当時、制限改定は半年に1回しかなく、神判発売後の直近の制限改定は2週間後の3月1日だったため、考え得る限り最速での禁止カード行きとなりました。
また「征竜」からも4枚のカードが禁止となりました。そのため合計5枚の無制限カードがいきなり禁止になった事になります。相当の異常事態ですが、当時の環境は異常事態というレベルではなかったので、妥当というしかありません。
◆「魔導書の神判」はどうなる?
しかし、この規制後も2年近く環境に居座り続けた「征竜」に対し、魔導は「神判」のみの規制で、一瞬で環境から姿を消しました。逆に言えば、魔導はほとんど「神判」の力だけで環境にいたのです。
その後も、筆者は強力な新規カードを何枚も見てきましたが、「神判」ほどの衝撃を受けたカードは“ほぼ”ありません。
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そういうわけで個人的に「神判」は、宿儺の指2,000本くらいの特級呪物であり、未来永劫禁止カードの中に閉じ込められてしかるべき1枚だったので、正直、制限復帰には困惑しています。
一応、近年の新規テーマのおかげで「魔導」のカードパワーは相対的に下がっており、1枚だけで環境に返り咲くのは、まず難しいと思います。今は「うらら」などの手札誘発もありますし、かなりの確率で妨害されるでしょう。
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ただ、それでも全盛期の世紀末っぷりが目に焼き付いているだけに、「神判」を使えるという事態その物が信じられないんですよね……。実際、「神判」は「魔法使い族」サポートとしても十分使えると思うので、うまく「ドラグマ」や「召喚師アレイスター」と組み合わさった場合、何が起きるのか想像もしたくありません。
何はともあれ「魔導書の神判」、せめて10月の制限改定をクリアして、2022年を乗り切ってくれるのを切に願っています。