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「それは超常現象を肯定し、これまでの常識を捨てることになるが…?」
日本一ソフトウェアが2004年にPlayStation 2で発売した『流行り神(はやりがみ) 警視庁怪異事件ファイル』は、都市伝説をモチーフとしたホラーテイストのアドベンチャーゲームシリーズの第1作目です。このゲームの大きな特徴は、主人公(とプレイヤー)の前に「常識がボス敵のように大きな壁となって立ちはだかる」ことにありました。
物語の主人公は、キャリア組としてエリート街道まっしぐらの若き警部補・風海純也。ところが、彼はすぐに「警察史編纂(へんさん)室」という超窓際部署に飛ばされてします。どのくらい窓際かというと、警視庁の人間ですらそんな部署が存在することを知らなかったりするレベルです。
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純也は自分がなぜ左遷されたのかも分からぬまま、そして上に命じられるがままに事件の捜査へと乗り出し、やがてこの編纂室がどういう部署なのかを理解することになります。ここは、現代の闇に潜む「怪異」としか呼べないものが絡む事件を専門に捜査する部署だったのです…。
ストーリーは各話完結型のオムニバス方式で、ある程度捜査が進むと純也が現状の情報を整理し、今後の捜査方針を決める自問自答のパート「セルフ・クエスチョン」が発生します。そして各話の終盤になると、彼とプレイヤーはこのパートで必ず大きな選択を迫られます。それは「科学で説明しきれない不可解な事件を前に、超常現象の存在を肯定するか・しないか」です。
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超常現象を否定すると科学的なアプローチを続ける「科学ルート」に分岐し、肯定した場合はより柔軟な発想で事件解決に臨む「オカルトルート」に分岐します。全エピソードで「科学ルート」を選んでもゲームは問題なくクリアできますが、ここはやはり超常現象の存在を認めてこその「怪異事件ファイル」というもの。筆者は初プレイでは「オカルトルート」一択でした。
オカルトはあなたの身近なところにある
「幽霊や超能力のせいにしていいなら、なんでもアリじゃん」と思ってしまった方もいるかもしれませんが、それは少し違います。「あー、そういうのも確かにあるな…」と思わせる描写をねっとり(ほめ言葉)とつづってくるのが『流行り神』のおもしろいところなんです。
たとえば、民族学者である純也の義兄・霧崎水明(きりさき・すいめい)は、ある時純也にこう言います。「日本人の多くは『今日はツいていた』、『ツキに見放された』という言葉になんの違和感も持たないが、そもそもツキという言葉には根拠がまったくない。この概念は日本古来の『憑き物信仰』に端を発するものなんだ」と。
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つまり「オカルトは古来より日常に寄り添っており、それを自然なものとして受け入れている人も多い」と言っているわけですね。また、オカルトという語は「超自然的なもの」のほかに「目に見えないもの」という意味も持つので、「袖すり合うも他生の縁」ということわざに見られるような「縁(えん)」などもオカルトの一種と分類できそうです。
そして、そんな水明も常にオカルトを全肯定しているわけではなく、都市伝説として有名な「コックリさん」に対しては「硬貨に指を乗せた人間が無意識で行う筋運動にすぎない」と述べるなど、科学的な知見も忘れない人物として描かれています。
また、作中には水明と犬猿の仲ながら学生時代からの友人でもある式部人見(しきぶ・ひとみ)という女性監察医が登場しますが、彼女は監察結果を聞きにきた純也に対してオカルトを否定する一方で「自分の監察結果がすべてであるとは限らない」というニュートラルな視点も併せ持っています。
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不可解な事件のみならず、彼らの存在も純也とプレイヤーの「常識」をぐわんぐわんと揺さぶってきます。あなたは常識を否定しますか?常識を肯定し続けますか?「常識」がまるでボスのように立ち塞がり、その意義をあらためて問いかけてくるのが『流行り神』というシリーズでした。