
「すべての物は不要なのだ 取るに足らないカスだ!」
アトラスの『真・女神転生』シリーズ3作目となる『真・女神転生if...』は、タイトル通りに『真・女神転生』のifを描いたゲームです。
軽子坂高校に通うIQ256の天才少年、狭間偉出夫(はざま・いでお)は、悪魔召喚プログラムを手に入れたことをきっかけに魔界で大きな力を獲得。魔神皇を名乗って学校を世界から隔絶させ、自身が作り上げた魔界に閉じ込めます。
主人公は学校とともに閉じ込められた学生の1人(名前と性別はプレイヤーが決定)で、悪魔召喚プログラムによる仲魔たちや、任意のパートナーと力を合わせて狭間の打倒を目指します。
キリスト教でもっとも重い罪とされる七つの大罪(暴食・色欲・強欲・憤怒・怠惰・傲慢・嫉妬)を象徴するような迷宮を乗り越えると、ついに諸悪の根源である狭間と対面。強大な力を手に入れて全知全能を自称する彼が待っていたのは、まるで魔王がいるような…雰囲気はなにもない学校の一室。彼は「自分以外の物のあらゆる事物は不要」であると断言し、魔神皇ハザマとなって襲いかかってくるのでした。

誰からも愛されない孤独がもたらした悲劇
主人公のパートナー候補はクラスメイトのユミ(白川由美)、利己的なチャーリー(黒井真二)、後輩の少女レイコ(赤根沢玲子)、そしてゲーム2周目以降でしか仲間にできないアキラ(宮本明)の4人が用意されており、ゲームスタート直後の行動で決定されます。パートナーによって細部が(アキラの場合は大幅に)異なるストーリーが展開し、狭間がなぜこんな凶行に走ったのかはレイコルートで判明します。
狭間は、まだ幼いころに母親が妹だけを連れて家を出ていったことで大きな心の傷を負った過去を持っていました。親に捨てられ、誰からも愛されることなく育ってしまった彼は他者とうまくコミュニケーションを取れず、軽子坂高校でもイジメの的になってしまいます。
しかし、彼が学校を魔界化した理由は復讐ではなく「誰からも愛されない苦しみ」、「誰かに愛してもらいたいという叫び」でした。パートナーがレイコだと、クライマックスで彼女こそが狭間が幼いころに別れた実の妹だったことが判明。彼女による無償の(家族)愛を受けることで、狭間はようやく救いを得るにいたります。
彼のしたことは非道そのもので罰は受けるべきなのでしょうが、そのきっかけとなった出来事は彼に非があるとも言えず……。狭間が救いを得るレイコルートでも2人は現世に戻ってこないまま物語が幕を閉じることもあり、なんともやるせない結末です。

ブラック・ジャックを知ると味わいが深くなる!
狭間偉出夫という名前は、『真・女神転生』シリーズでその対立がテーマとなることが多いイデオロギーと、間黒男(はざま・くろお)にちなんだ名であるそうです。
間黒男というのは、手塚治虫氏による同名コミックの主人公である天才無免許医『ブラック・ジャック』の本名です。ブラック・ジャックは幼い頃、怠慢や汚職で除去されなかった不発弾の爆発に巻き込まれて母を失い、自身も重傷を追いました。
名医による手術につぐ手術でようやく一命を取り留めるも、かつての明るさは失われ、黒男少年は復讐のみを考えて生きるようになります。しかし、闇に覆われた彼の心に一条の光となって差し込んだのが、ささいなことにも笑顔を見せる笑い上戸の少年・ゲラとの出会いでした。
「狭間は”ゲラと出会えなかったブラック・ジャック"」でもあるのかもしれない…と考えると、本作がより味わい深くなるように思えます。
『ペルソナ』シリーズの源流となる名作RPG
本作は『真・女神転生』シリーズ初の学園モノです。また、後年(1996年)に初代PlayStationでリリースされる『女神異聞録ペルソナ』に登場する少女・たまきは本作の女主人公を想起させる要素が多く、ファンの間では両者が同一人物として語られることも見られます。
そういう意味では『真・女神転生if...』は『ペルソナ』シリーズの源流にあたるゲームだといえるでしょう。主人公やパートナーがバトルでやられた際に、神や悪魔が憑依して死から守ってくれる「ガーディアン」システムも、従来の『女神転生』シリーズよりも『ペルソナ』に近いものであるように思えます。

最後に余談ですが、本作は選んだパートナーによって難度が変わり、一番クリアしやすいのはユミルートであるとされています。ユミはルックスや口調は完全にギャルですが、主人公と行動をともにする理由は「学校やみんなを助けるため」。見た目の印象とはギャップがある、心優しい女の子として描かれています。これはもしや、今でいう「オタクに(も)優しいギャル」なのでは!?そんなところも先進的なゲームでした。
