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「私たち、大きくなってもこのままでいられたらいいのにね…」
「ドラゴンクエスト」シリーズ全作を通してみても屈指と言えるほどの悲劇性を持つヒロイン、それがシンシアです。
シンシアは勇者が平和な日々を送る「山奥の村」で、彼(彼女)と共に育った幼なじみの少女です。ゲーム中で明言はされていませんが、ドットで描かれた姿をよく見ると耳が尖っているように見えるため、人ではなくエルフであると解釈される向きも多く見られます。
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さて、本作は魔軍の長であるピサロが「地獄の帝王エスタークを滅ぼす存在」として顔すら知らぬ勇者を危険視しており、それを阻止するために世界各地に手先を放ってその所在を探し続けていました。
そうしてついに「山奥の村」が発見され、村はピサロと彼が率いる魔物の軍勢に襲われてしまいます。しかし、この村の人々も全員が「主人公は秘められた力を持つ勇者である」ことを最初から知っており、そもそもこの村自体が「勇者が一人前になるまでひっそりと守り育てるための集落」なのでした。
「もう少し時間があればお前を立派な勇者に育てられたものを」、「ついにこの時が来てしまった」と親しくしていた大人たちが自分の知らない顔を見せて覚悟を決める姿に、勇者のみならずプレイヤーも呆然とするばかりです。
村人たちは勇者を地下室に閉じ込め、さらにシンシアはモシャスの呪文で勇者そっくりの姿に変身して戦いに臨みます。彼らは応戦むなしく全員が命を落としてしまうのですが、魔物たちは勇者を抹殺したと思い込んで撤退。ただ1人残された勇者は絶望と悲しみだけを友に、あてのない旅に出るのでした。
「世界樹の花」の使い道はそこなのか!?
本作は2001年に初代PlayStation用ソフトとしてリメイクされ、容量の関係でファミコン版ではカットされた内容を反映した「第6章」が追加されました。
この章では、1000年に一度だけ咲くという幻の花「世界樹の花」を入手できます。死者を蘇らせる「世界樹の葉」よりもさらに強い力を持つアイテムです。それを手にロザリーヒルを訪れ、人間の暴漢たちにいたぶられて命を落としたピサロの恋人・ロザリーの墓に花をそっと供えると、なんと天から降り注ぐまばゆい光と共にロザリーが蘇るのでした。
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彼女を連れてピサロの下へ向かうと、彼は身を焼かれるほどの憎悪に包まれ、さらに「進化の秘法」で自我すら失いかけていました。しかしロザリーの呼びかけで正気を取り戻し、彼女に暴漢を差し向けた悪の根源・エビルプリーストを討つために勇者たちのパーティーに加入。勇者と魔族の王が手を組み、第五章とは異なる形での最終決戦が始まります。
物語の流れとしては納得のいくものだった…かもしれませんが「それはそれとしてシンシアを助けてやってくれよ!」というプレイヤーたちの魂の叫び(筆者も含む)も全国で響きわたったことでしょう。
念入りかつエグい演出の数々
本作はファミコン版の頃から、廃墟となった山奥の村でシンシアが気ままに寝転がっていた花畑の跡を調べると、彼女の物だったと思われる「はねぼうし」を入手できます。これを勇者に持たせたままクリアした人も多いことでしょう。
さらに初代PlayStation版のエンディングでは、仲間たちと別れて1人山奥の村に帰ってきた勇者が花畑の跡で力なくうつむき、手にした剣と盾を取り落とすドットアニメが追加されました。
「ドラクエ」シリーズは基本的に主人公のセリフがなく、彼(彼女)がどんな言葉を発しているかはすべてプレイヤーが想像で補うスタイルのゲームですが、そこに突然差し込まれた明確な描写(しかも悲しみに打ちひしがれた姿!)に、筆者は胸が締め付けられました。
本作はそんな勇者に頭上から一条の光が射してシンシアが蘇り、再会を喜ぶ2人が固く抱き合う姿で幕を閉じることになるのですが、最後の最後に各地で別れてきた仲間たちがその場へ駆けつけるため、ファンの間では「シンシアとの再会は作中で実際に起きたことである」、「すべては山奥の村で1人たたずむ勇者が見た幻である」などと解釈が割れています。
幻という解釈はエグい!しかし否定もしづらい…。「どうか本当に起きたことであってくれ」と、筆者は令和を迎えた今も思い続けています。
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