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コナミデジタルエンタテインメントは12月18日、コナミクリエイティブセンター銀座 esports 銀座 studioにて、教育関係者向けセミナー「第1回 桃鉄 教育祭り!」を開催しました。
本セミナーでは、今冬から申請を受け付ける予定の『桃太郎電鉄 教育版 Lite~日本っておもしろい!~(以下、桃鉄 教育版)』をテーマに、本教材開発の関係者を交えたトークセッション、サービス開始前のデモプレイなどを実施。約200名の参加者の多くが小・中学校の先生ですが、高校・大学や教育委員会、自治体職員の姿も見られました。
『桃鉄 教育版』は「東京ゲームショウ 2022」で発表されたタイトル。『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!』をベースに、学校のカリキュラムで使用される想定でカスタマイズを施しており、ゲームをプレイしながら日本全国の地域と特産品・歴史などが学べるシリーズ初の教育版で、学校教育機関での導入は無料。現在は一部の学校でのみ試験授業が実施されています。
メイドインジャパンの教育とは「国産ゲームで浮かんだのが『桃鉄』だった」
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セミナーはまず正頭英和氏(小学校教諭/『桃鉄 教育版』エデュテインメントプロデューサー)のトークセッションでスタート。正頭氏は教育界のノーベル賞と呼ばれる「Global Teacher Prize」で2019年、日本人小学校教員初となるトップ10ファイナリスト、「世界の優秀な教員10人」に選ばれた人物です。しかし、海外の教員のデモ授業を見た際「日本の教育はダメダメといわれ、モンテッソーリなど海外の有名教育法を取り入れようという声が強いが、決して日本の教育と教員はダメではない」と実感したのだそう。
そこでメイドインジャパンの教育とはなんだろう?と考えたとき、パッと浮かんだのがゲームとアニメを使った教育だったといいます。2019年時点ではゲームを教育に取り入れること自体が大変珍しく、導入したひとつの例が『マインクラフト』でした。「もうひとつは国産ゲームを」と『桃鉄』が浮かび、コナミとともに3年かけて教育版制作に至った経緯を説明しました。
正頭氏によると、教育現場では子どもたちのリクエストから授業が始まることもあり『マインクラフト』は子どもたちの「遊びたい」という要望でスタートしたが、『桃鉄』は逆に遊んだ経験のある先生たちから「『桃鉄』を子どもに遊ばせたい」という声が強いそうです。
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『桃鉄』を教育版にする際、正頭氏が最も意識したのは「教育向けだから」とあれこれ手を加えるのではなく、「『桃鉄』は『桃鉄』という素材のまま学校に渡す」という点でした。
『桃鉄』といえば社会や地理の授業に……というイメージを抱きやすいですが、「日本の先生のスキルは世界的に見ても、とても高い。でもハッピーではない。先生たちが一番ワクワクする時間は教材づくりをしているときであり、その時間を奪うべきではありません」「もしかしたら社会や地理だけでなく、理科や国語の漢字の読み取りに使う先生も出てくるかもしれません。やたらカスタマイズを加えるのではなく、『桃鉄』という素材をどう料理するかを先生たちが考え笑顔になる、それが子どもたちをも笑顔にする。これこそがエデュテインメントだと考えています」と述べました。
また、今回のセミナーを「第1回 桃鉄祭り」と銘打ったのは、第2回・3回と今後も開催して「他の先生方がどう『桃鉄』を教育に生かしているのか?」という情報を集約して活かしていきたいからなのだとか。
いじめにつながる攻撃やお色気要素を排除、あの「貧乏神」もリストラに!
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続けてステージ上では実際の『桃鉄 教育版』を3人でプレイし、正頭氏が教育版ならではの機能や違いなどの解説へ。まず『桃鉄 教育版』はブラウザ版のみでChromebook、WindowsとiPadすべてに対応でき、だいたいどんなスペックのPCでも動くようコナミに設計してもらう必要があり、3年かかった理由のひとつはここにあったそうです。学校によってはセキュリティ上の理由から「ロイロノート」などの授業支援クラウドからしかブラウザを起動できない場合もあり、『桃鉄 教育版』がどうしても起動しない……といった問題解決するためのサポート窓口も、コナミ側が用意しています。
授業をフルに使ってゲーム進行するのもアリですが、「自由時間や授業冒頭だけ使いたい」といったシーンに対応するため『桃鉄 教育版』はプレイ年数の設定が1年~3年のみで、シングル/マルチプレイ両対応。1ゲームの想定時間は1年なら18分、2年で30分、3年が授業1コマ内におさまる50分となっています。スタート時には全国のほか北海道・近畿・関東など地域を選択できるので、自分たちの住むエリアで馴染みのある地名や駅で遊ぶのも良し。止まった土地や駅の都道府県トピック、名産品情報などが画面右側に表示されるため、知らない地域をゲームで学ぶためにも利用できます。
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最も大きな変更点はボンビー(貧乏神)が排除されている点です(スリの銀次は登場)。お色気要素もカットされており、さらに他プレイヤーのもつ土地と交換できる「場所がえカード」といったカード効果は、特定のプレイヤーを指定できなくなっています。カードを使うと対象プレイヤーはランダム指定となり、一人を集中して攻撃するといったいじめに繋がる要素を『桃鉄 教育版』では実装していません。また、過度に持ち金が変動しないバランス調整がなされており、全体的に通常版よりもマイルドな設定といえます。
実際の運用ですが、先生向け管理ツール用のURLと生徒がプレイするためのURLがあり、先生が発行する8桁の「授業パスワード」を入力して初めて実際にプレイが可能に。管理ツール上ではプレイ可能な人数・時間帯・期間を設定できるため、深夜のプレイを制限したり、宿題として夜や土日でもプレイ可能になります。
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このほか、坂本良晶氏(Microsoft認定教育イノベーター)、渡邊友紀子氏(キッズコーチングマスターアドバイザー)や福島学(教育版マインクラフト グローバルメンター)が登壇。何も考えずに『桃鉄 教育版』の導入スタートを切ると「本当にただのゲームとなってしまう」ため、公教育の文脈に丁寧に具体的にのせていく提案力が必要である点や、宿題としてや家庭内でゲームを遊ばせる難しさ、低学年と高学年での『桃鉄 教育版』への反応の大きな違いなど、それぞれの実体験をもとに語られました。
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『桃鉄 教育版』は完成してるとは言えない─将来的には塾やフリースクールも対象拡大を
セミナー後半ではコナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサーの岡村憲明氏が登場し、今後の正式サービス予定と展望についてアナウンスされました。
TGS 2022での発表後には1,500人以上から事前応募があり、その大半が小学校の先生からだったとのこと。正式版の募集は公式サイト上で2023年1月~2月頃の実施を予定しており、最初は公立・私立の小中高のみが対象です。現在の試験運用しているベータ版については個人のメールアドレスで応募した方もいますが、正式版のアカウント発行は「学校側の許可を得ている」ことが前提条件のため、学校ドメインのメールからの申し込みが必須となり、確認後にアカウントとパスワードを発行。引き続き料金は無料ですが、この先サービス継続していくうえで、有料の付加価値機能をつけることはあるかも……とのこと。
将来的には塾やフリースクールも対象とする予定。教育委員会や自治体からの希望は別途窓口を用意されます。
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岡村氏は、2023年4月からの授業導入を想定しているため、来年2月~3月の間に先生方が実際にプレイしてどのように授業に活用するか考える期間にあててほしいとのこと。また「『桃鉄 教育版』はどういったものであれば“教育版として正しいありかた”なのかを模索している段階であり、完成しているとは言いがたいもの。長期スパンでの展開・運用を検討しるので、第2回・第3回桃鉄祭りを開催しそこで意見・要望を吸い上げ、継続的にアップデートしていきたいと述べました。
また『桃鉄』は350万本以上販売されており「今のアルファ世代(2010年以降に誕生した世代)はゲーム大好き、なんでも遊んでくれると思われがちですが、実は狙って当てるのが非常に難しく、当たれば大きいというマーケットです。そのアルファ世代に桃鉄を触ってもらえるというのは『むしろありがとうございます』というのが、プロデューサーとしての視点です」とのことです。
最後に正頭氏が再び登壇、「世界と比較した経験がある自分だから 日本の先生方はもっと自信をもっていい。日本の教育は本当はすごいぞということを世界へ発信していきたい。『桃鉄 教育版』という素材を先生方がいろいろなかたちで調理し、子どもたちに提供していってほしい」と述べ、「第1回 桃鉄 教育祭り!」は閉幕しました。
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