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鬼の血を引く薄幸の美少女
1992年にPCエンジン SUPER CD-ROM2で発売された『天外魔境II』の絹(きぬ)は、ひと言でいえば生まれた時から定められていた運命に翻弄される薄幸のヒロインでした。
本作は、東洋研究家であるP.H.チャダ氏の著書「FAR EAST OF EDEN」を原作とする(という設定の)RPGで、"外国人が抱きそうな間違ったイメージの日本"をベースにしたジパングを舞台に、侵略を目論む「根の一族」と、それを阻まんとする「火の一族」の戦いが描かれます。
主人公の戦国卍丸(せんごく まんじまる)や絹はその火の一族の末裔で、根の一族との戦いに身を投じる宿命を持っています。ところが絹はさらに複雑な境遇にあり、母の綾は火の一族の巫女ながら、父は大江山に居を構える鬼族の首領・酒天童子であるという、人と鬼の混血でした。しかも、火の一族の血筋であるということから大江山は根の一族の襲撃を受け、絹の両親と大半の鬼族たちが命を落としてしまっていました。お辛い…。
絹は両親を失った悲しみからもう誰も傷つけないことを誓って両の手首を鎖でつないでおり、このままでよければという条件付きでパーティーに加入します。彼女の決意はシステムにも反映されており、絹は戦闘で「戦う(通常攻撃)」を一切行えません。
そんな彼女のキャストは『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』で知られる歌手の井上あずみさん。今作の絹が声優初挑戦だったとのことですが、風が吹けば倒れてしまいそうなほどにか細い声の演技がとてもよく合っていたように思います。
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運命なんて、くそっくらえだ!
やがて、死んだと思われていた母・綾が生きて根の一族に囚われていることを知った絹は、居ても立ってもいられなくなり単身で白銀城に潜入。救出に成功しますが、それは根の一族の刺客・吹雪御前が変身している姿でした。
吹雪御前は後から駆けつけてきた卍丸たちの虚を付いて瞬く間に氷漬けにします。さらに絹をあしらって「お前の母親が生きてるわけないんだよ。だってあたしが殺したんだからね!」と言い放ちます。
目の前に両親の仇がいることを知った絹は怒りに我を忘れ、頑なに封じていた本当の力を解き放ちます。彼女の名を表す本当の字は「絹」ではなく「鬼怒(きぬ)」。父・酒天童子譲りである鬼の力をしっかりその身に受け継いでいたのです。ここで挿入される「怒れる絹が圧倒的な力で吹雪御前を惨殺するムービー」は壮絶のひと言で、後年の他機種への移植版では表現が差し替えられたほどでした。
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吹雪御前の命を奪ってようやく正気を取り戻した絹は自らの運命と所業に深く絶望し、その場で自らの命をも絶とうとします。そんな彼女を思いとどまらせたのが、卍丸の「お前の悲しみや苦しみは、俺が全部背負ってやる!」という力強いひと言でした。
絹が持つ鬼の力を見ても態度をまったく変えず「運命なんて、自分の力でいくらでも変えられるんだ。運命なんてな…くそっくらえだ!」と、悲運を嘆くのではなく蹴飛ばそうとするイケメンっぷりには全プレイヤーが拍手喝采をしたことでしょう。
『天外魔境II』はヘビーな方向にもギャグにも振り切ったシナリオや圧倒的なボリューム、久石譲氏による楽曲などさまざまな魅力を持つソフトで、PCエンジン SUPER CD-ROM2を代表する傑作のひとつでした。PCエンジン miniに収録されたのも納得の1本です。