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良いコスプレ写真を撮るために最高のカメラが必要だとしたら、それは「ライカ」なのか?
昨今、TwitterやInstagramはもちろん、Webニュースでコスプレ写真を見る機会が増えました。素敵なコスプレイヤーをバッチリ撮影しているカメラの多くが、ミラーレスや一眼レフなどと呼ばれるデジタルカメラです。
最新のデジタルカメラの性能はめざましく、その場ですぐに撮影した写真を確認できるだけでなく、AF(ピントを被写体に自動的に合わせてくれる機能)、手ぶれ補正、瞳オートフォーカス、ノイズ除去などのサポート性能を揃えています。
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多くのコスプレカメラマンが、SONY、Canon、Nikon、富士フィルムなどの日本のカメラメーカーを愛好する一方で、カメラマンが無視できない、一つの到達点とも呼ばれているのが外国企業メーカー「Leica(ライカ)」です。1914年にドイツで生まれた老舗カメラメーカーで、100年以上の歴史を持つこのカメラは、世界中のプロカメラマンが愛好する、特別な立ち位置のカメラです。
カメラマンの中には、「ライカを使ってやっと一人前」、「ライカで撮ったから良い写真」とまで断言する人がいます。
しかし、コスプレ撮影で見てみると、ライカで撮影している人はごくわずかな印象です。一体どうしてなのか、ライカをメインに撮影しているコスプレカメラマンのuhimaru(Twitter:@uhimaru999)さんに話を聞きました。理論編・実践編の2回に分けてお届けします。なお、全ての写真をご覧になりたい方はギャラリーへとお進みください。
uhimaruさんは、つい先日もライカで撮った写真の審査制フォトギャラリー「Leica Fotografie International」にて、『東方Project』パチュリーの写真が認定されました。
◆はじめに:本インタビューはM型デジタル使用の観点から回答
近年のライカは、他社製品と分野が一部被る一眼・ミラーレスモデル(CL、T、SL、S、Qなど)をリリースしていますが、現行としては固有であり代表的な製品としてM型デジタルが最も分かりやすいため、少し強引ですが、M型デジタルを使う観点から以下回答していきます。
使用カメラとしても主にTyp240を基準に回答していきます。
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◆ライカは決して最新技術を注ぎ込んだカメラではない
――日本のカメラメーカーとライカのカメラはどう違うのか?
uhimaru:
1.レンズ交換式としては全体的にシステムが小さい
レンズもボディも小さくまとまっています。これはフィルム時代から変わってません。単純にレンズ交換式としては嵩張らないシステムです。レンズはMF(カメラ任せにせず手動でピントを合わせる機能)ですが、電子部品が無い分小さくなっています。
容量を取らないというのは、器となる鞄やカバーの選択肢が多く、遠征、出張などに気軽に持っていけるメリットがあります。材料に妥協がないため見た目よりも重量はありますが、ボディ+レンズのシステム全体では軽いと感じています。
2.頑丈である
元々CCDデジタルの時代から頑丈だったのですが、CMOSのM型のリリース以降もモデル毎に意識されている点になります。5年ほどラフな使用で色々な所でぶつけて塗装も剥がれてきていますが、それ以上の異常が発生したことはないです。
レンズも電子部品が無いという単純構造であるため、AFレンズよりも故障する種類は少ないものになります。また、レンジファインダーの精度が高く、他社に比べると衝撃で距離系がズレにくい印象があります。
3.EVF/レンジファインダー/ライブビューの3つの構図確認方法がある
これはCMOS世代のデジタルのM型からとなりますが、構図の確認方法が他メーカーより一つ多いです。好きな方法を選択できるメリットがありますし、単純にこの部分については個別に故障したとしても、残った方法を選択できる生存性の意味合いが強いです。
身近な例えで言えば、距離計の合わないレンズを使ってもEVFでピント合わせができます。あまり参考になりませんが、一度M型を水没させたことがあり、EVFが使えない状況でもレンジファインダーでシャッターを切ることができたという経験があります。
4.ソフトウェアチューニングにフィルムっぽさがある
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トーンやノイズの出方、または色などデフォルトの出力にフィルムっぽさがあり、これはjpg出力時に顕著になる印象があります。
現在はアプリやソフトウェアの現像でイメージに近づけることが容易な時代となっていますが、個人的にはベースとなる出力に味付けしたいので、カメラ内のソフトウェアチューニングに方向性があると、実際撮ってカメラで確認した時の懐かしさを得て嬉しいといったものや、絵の方向性を得るというものはあると考えています。
5.暗部に粘りがあり、黒つぶれしない
写真の立体感を出すためにはシャープや解像感を高めてF値を低くするなどが主流となりますが、ライカの場合には軟調な分、暗部に粘りを持たせることで、これらに依存させずに立体感を持たせられると考えています。
6.リセールバリューが古くても上昇する可能性がある
個体数が少ない点、品質・材料が良いので、簡単に言うと価値が高いです。さらに、同じM型でも世代によって操作感が違いますし、リリース毎に異なるソフトウェアチューニングなので出てくる絵も異なります。そのため、性能より価値が勝っているというものになりますが、買ってから型落ちしても尚使えて価格が下がらないというものは、他の国内メーカーのように、性能面で新型ごとに買い替えを迫られることが少ないので、比較的のんびり使っていられるというものになります。
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◆ライカが高いのは工芸品としての側面があるから
――何故、SONY、Canon、Nikon、富士フィルムなどのカメラやレンズの平均価格と比べて、ライカだと時には数倍もするほど価格が高いのですか?
uhimaru:よく知られているのが製品のブランドとしての価格ですが、材料が時流で変化しつつも、手作りで工作精度が高い工芸品としての品質の高さにあると考えています。
作りが丁寧なんですね、アッセンブリーも隙間なくきっちり組まれています。そして堅牢です。材料に妥協が無いので小さい割に重いです。また他国での販売価格と比べると分かるのですが、日本の場合は実売価格は高めという状況なのは、おそらくブランドとしての価格+バッテリーを含めた輸送コストが要因であると考えています。
――プロカメラマンの多くが言う「ライカを使ってようやく一人前」は実際どうなんでしょう?
uhimaru:私はライカを使っている人種/ユーザーの中では、品格や伝統といったライカの良さを主な動機としておらず、純粋に欲しい絵を求めてたどり着いた、言ってしまえばならず者の部類です。そのならず者のとても無礼な言葉として聞いてください。
私と一部のプロカメラマン(あとは動画配信者などのレビュワー)が考えているニュアンスは乖離しているでしょう。特に日本の、写真業界の一部においてはライカの値段の高さやブランド力、そして伝統に由来して、ただ持つことや使っていることに対して経済的・権威的なトロフィーとして捉えている一面が、この言葉にはあると考えています。
ある側面では間違ってはいないと思います。確かに品質が高く、実際に市場価値はあるのですから。ただ、私はライカを使って一人前ではなく、ライカもまた出力するための道具であり、機能が削ぎ落とされた単純な道具であるために、手にしてからは真に作品へのオーナーシップと絵作りに対する地力を問われる新たな試練の始まりと捉えています。
ライカでコスプレやポートレートを撮影するという事は今までとは別の世界線で、1から生きていくという認識を持って頂きたいです。便利な道具を手放し、原始的な道具を手にしたその時、そこには自身の肉体と積み上げた経験や記憶しか引き継げるものはないのです。
――実際にコスプレ撮影ではあまりライカを使う人を多く見ません。
uhimaru:コスプレ撮影はストロボ、カラーフィルターが主流、あるいはバストアップが好評だから。これは昨今の安いカメラ、レンズ、ストロボがリリースされている中で価格の高さが購入への大きな壁となっていますが、イベントにしてもスタジオにしても何かと時間の制約が多いコスプレ撮影においては、MFやストロボ互換性による歩留まりの悪さから基本的には不利な分野だと考えています。
ただし、ストロボの部類はマニュアルなら運用できますし、MFでも訓練すればある程度の速度で撮れるので「現代に至っては余計な習熟を要するため、その余計さを楽しめる人しか使い続けられない」というのが正確な所感だと考えています。コスプレでも写真づくりに覚悟がある人間が使い続けることができるカメラという位置付けです。
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◆ライカでしか出せないオールドな絵作りがある
――ライカは高級なので、やはりライカで撮った写真はグレードが上がるもの?
uhimaru:この世には耳障りの良い嘘があまりにも多いのではっきり言わせてください。結論から言うとグレードは上がりません。いくら機械としての作りが良くても、最低限写真を撮るための機能で以て、ただ撮ることに集中できるという思想のカメラです。
カメラモデルの更新毎に利便性を高める機能は盛り込まれていますが、その機能は手堅いもので最新技術というものではないです。そのため、その習熟度や写真への理解、自分で練り上げた思想で、使い手によっては高級トイカメラにもなりますし、呂布の方天画戟にもなる道具です。
――ご自身はなぜ、コスプレ撮影でライカを愛用するのでしょうか?
uhimaru:「カメラがすげーレトロでかっこいい!」っていうファーストインプレッションも有るのですが、元々は『東方Project』のコスプレ写真用です。利便性を犠牲にしても一歩進んだ絵作りで表現したいなと思って、色々なメーカーのカメラを試してこのブランドに行き着き、現在愛用しています。
ライカが出力するフィルムライクなソフトウェアチューニングと暗部の粘り、Mマウントレンズ群の軟調さによるフィルム時代の懐かしい絵が出てくるところが大きいです。他には堅牢性と、システムが小さいので可搬性になります。
泥臭い話ですが、飛行機のLCCなど、荷物に制限がある状況で遠征する時はあまり場所を取らないので便利です。あとはカメラのモデル毎に出力する絵が異なり、その時の至高の設定や仕様でリリースするような形なので、古いモデルでもまったく廃れないものという部分が好きです。絵作りの設定はビアンキのチェレステカラーみたいなものですね。
私は他メーカーの最新機種が持つ先進性、利便性を犠牲にしても、ライカに対して至高の絵や記憶に紐づいたイメージを買ってますし、それを使って欲しいものを出力している感覚なんだと思います。
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――ライカが得意なシチュエーションは?
uhimaru:個人的には撮り方としては自然光が入る場所になります。なのでロケになりますが、ロケ撮影は基本的に小さいシステムでフットワークが軽く、光を読んでライティングしないことで(機材移動や設定による)、ダウンタイムが減らせるので自然光が入る場所、建物であれば適性があると考えています。
用途的には何かという面では、デザインや構造上撮る側のステルス性を意識した製品であるため、スナップや記録写真、人物写真という部分で自然なオフショットを狙えるという所に利点があると思います。
コスプレの場合だと撮影した時に圧迫感が少ない印象が利点とは思いますが、シャッター音でモデルがポーズを変えてくれる場合には、音が低いのでカメラの構えを外すなどの工夫は必要と思います。
余談ですが、元々ライティング機材については純正品以外はすべてマニュアル制御(発光しかできない)のため、少し敷居は高いものになります。ただし、近年はサードパーティのライティング関連機材でも、ライカに対応するコマンダーなどをリリースする傾向にあるので、今後はファッションポートレートなどの分野でも導入が増えていくと考えています。
――ライカでしか撮れないと感じる写真はどんなものがありますか?
uhimaru:簡潔に言うと軟調+暗部で立体感を作るタイプの絵作りされた写真です。例えば、絵画のような写真を乱暴に細分化すれば、この部分にこそ大きな価値とヒントがあると考えています。
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◆uhimaruのライカ歴、愛用の機種
ライカとの出会いは元々オールドレンズ沼の住人だったのですが、友人のカメラマンに「お前面倒くさいカメラで古い絵出すの好きだろ、使ってみなよ」と勧められました。その後、実際に知人のライカオーナーに触らせてもらい、最初に同じデジタルレンジファインダーカメラをリリースしていたEPSONのR-D1で練習した後、ライカM8を購入。
その後何台か気に入ったモデルを買っていき現在に至ります。現在の使用カメラは下記です。
・ライカM-P Type240
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ノーマルのType240は2013年にリリース。M-P Type240は2014年リリース。フィルム時代の伝統を受け継ぐ代表的なM型カメラの一つです。"-P"はプロ仕様を意識したモデルでいくつかの仕様変更がありますがロゴマークがなく、トップカバーに刻印があり、使っても周囲に目立たないようなステルス性を持った特徴のモデルになります。
CCDからCMOS機に移行した最初のモデルのため、CMOS機としてはソフトウェアチューニングがより色濃くフィルムライクになります。M型としては外付けEVFとライブビューが初めて搭載されたモデルです。これは東方のコスプレ写真の作品撮り用に購入しました。
・ライカQ-P
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ノーマルのライカQは2015年にリリース、ライカQ-Pは2018年リリース。ライカQと呼ばれるフルサイズのレンズ固定式ミラーレスモデルの中の一つで、これも"-P"の通りプロ向けに仕様変更され、周囲には使っていても目立たないようなデザインとされているモデルです。
ライカのカメラ群でAFのスピードが体感的には最も速く、マクロやクロップといった画角の変更(28mm/35mm/50mm)に素早く切り替えることができ、センサーが一定の大きさで、固定でズミルックス28mm/F1.7が装備されています。暗所も一定程度強く、手振れ補正で手振れにも強いのでスナップ、時間の制約が強い撮影やブツ撮り、記録写真など、作業用途でも使用します。
・ライカS Type006
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2012年リリース。ライカSシステムと呼ばれる中判のデジタル一眼カメラとなります。CCD機で3,750万画素という古い機体になります。古いシステムなのでAFはできるものの遅かったり、ボタンやメニューが簡素で他は一眼カメラと大きく変わりません。
他のライカのシステムより重かったりしますが、デジタルの中判としては小さくまとまった製品と思います。ライカで中判の絵を得たくて東方の作品撮り用として買ってみました。
・EPSON R-D1
2004年リリース。ライカ機ではないのですが、ライカよりも先にライカMマウントのレンジファインダー式デジタルカメラを開発したので記載しています。
フォクトレンダーのベッサR(フィルム機)を元にデジタルカメラ化した世界初のレンジファインダー式デジタルカメラになります。フィルム機と同様にシャッターチャージの巻き上げが必要と、徹底したアナログ操作で写真を出力することが特徴です。
一般のデジタルカメラとは異なり、エプソンのプリンタ技術がフィードバックされ、フィルム写真のような微粒子フィルムの粒状ノイズをわざと出すという特徴があります。画素数は少ないものの、暗部表現は本家のCCD機に負けない特性を持っています。主にライカ機への移行を行うための練習機として使用していましたが、今でも使います。
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uhimaru所属:くらて学園(Twitter:@kurate_gakuen)
Leica製品仕様面監修:hamashun(Twitter:@hamashun)