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『遊戯王 マスターデュエル』は2月14日に制限改訂を実施。「焔征竜-ブラスター」が制限復帰しました。
ブラスターは紙環境において未だに禁止カードであり、本ゲームとしては珍しく「マスターデュエルのみで先に解禁されたカード」になります。とはいえ、『マスターデュエル』から遊戯王を始めた人には「そうなんだ」という以上の感想は抱かれないでしょう。
しかし、2010年くらいから遊戯王を遊ばれている方であれば、今回のブラスターの復帰に驚かされたのではないでしょうか?何しろ、このブラスターの属した「征竜」は、恐ろしいほど長く環境に影響を与えたのですから……!
今回は、そんな遊戯王の歴史に名を残す「征竜」について解説したいと思います。その恐ろしさと、当時の空気感を一端でも感じていただければ幸いです。
◆メインとなるのは下級の「子征竜」と最上級の「親征竜」たち
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征竜は2013年2月に発売されたパック「LORD OF THE TACHYON GALAXY」に収録された、レベル7モンスターのテーマです。実は「征竜」という名前を指定した効果はないため、厳密にはモンスター群という言い方が正しいのですが……今回はテーマと呼ばせてください。
この征竜のメインとなるのは、件の「焔征竜-ブラスター」の他、地属性の「巌征竜-レドックス」、水属性の「瀑征竜-タイダル」、風属性の「嵐征竜-テンペスト」の4種類。これら征竜はある3つの効果を持ちます。
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1つ目が、自分の手札・墓地からドラゴン族か同じ属性のモンスターを2枚除外して、自身を特殊召喚する効果。2つ目が自身が除外された場合、デッキから同属性のドラゴン族をサーチする効果。そして3つ目が、手札の征竜と同じ属性のモンスターカードを墓地に捨て、発動できる効果です。
3つ目の効果は、それぞれ固有の物であり、例えばブラスターならフィールドのカードを1枚破壊できます。
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さらにこれら征竜には「炎征竜-バーナー」などの、それぞれに対応するレベル4モンスターがあります。彼らは同じ属性のモンスターかドラゴン族を手札から捨てることで、それぞれ最上級の征竜をデッキからリクルートします。わかりやすく、下級征竜を「子征竜」、最上級征竜を「親征竜」とよく呼びます。
◆当初は良質な属性サポートと思われた征竜たち
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これら征竜は、「面白い属性サポートが来た」と当時の遊戯王プレイヤーたちを喜ばせました。
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というのも、当時の強いサポートがある属性と言えば、どうしても光・闇に偏っていたからです。「ダメステ、イイですか?」から繰り出される「オネスト」に、“ボチヤミサンタイ”の呪文から飛んでくる「ダーク・アームド・ドラゴン」、そして光・闇属性を除外して特殊召喚できる「カオス」など、他の属性との差は広がる一方でした。
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何より、当時の話題は同パックに収録されていた「魔導書の神判」に集中。そのどこをどう見てもインチキとしか思えない効果に、多くのデュエリストは目を奪われていたのです。
しかし同パックの発売後、征竜の評価は大きく変わっていきました。
◆明らかになったすさまじいアド取り能力
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パック販売後のトーナメントでは、早速「魔導書の神判」を搭載した「魔導」が環境を制圧。次の制限改訂までこの状態が続くか……と思われていたとき、にわかに現れたのが征竜です。
征竜の1つ目の問題点は「同属性だけでなく、ドラゴン族でも効果を発動できたこと」です。つまり征竜の効果を発動するために、征竜をコストにできるのです。
例えば、先行で手札に子征竜のどれか1枚にテンペスト、レドックス、それにブラスターがいたとします。まず、子征竜とレドックスを墓地に捨て、場に親征竜を特殊召喚。続いてテンペストと手札のブラスターを捨て、テンペストの効果発動。手札にタイダルをサーチします。
そして、ブラスターとタイダルを除外しレドックスを特殊召喚。するとブラスターとタイダルの効果が発動し、手札を2枚サーチしながら、レベル7のモンスターが2体並べてられてしまうのです。
最終的な手札消費はわずか2枚。しかもサーチしてくるのは、次のターンで活躍の見込める親征竜たちです。現代の遊戯王ならさほどおかしくない展開ですが、当時は2013年。この頃は「同じ名前のカードをサーチできる1800のモンスターは強すぎる」という理由で「E・HERO エアーマン」が制限になっていたほど、全体的なカードパワーは低めでした。
そんな時代に征竜は、場に展開しながら、強力なカードを補充する効果をテーマ全体で持ってました。筆者の主観で当時の征竜の動きを評すると「同じカードゲームの動きではない」と率直に感じていました。
◆他のカードとの組み合わせにより、圧倒的な強さで環境に君臨
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とはいえ、上記の動きはカードが4枚も必要です。さすがにこのような展開をすることは稀だったそうで、実際にはより安易で強力な方法が取られました。
筆頭といえるのが、手札から捨てたドラゴン族の数だけカードを引ける「超再生能力」でしょう。遊戯王初期に登場して以来、さほど活躍のなかったカードですが、こと征竜においては強欲な壺さえ慄くドローソースとなります。
そもそも、本来征竜は相手の盤面を見ながら動くコントロール系のデッキといわれており、上記のようにいきなり積極的に展開するのは相当弱い動きになります。この弱い動きで並のデッキは粉砕できるのですが、少なくとも征竜使いにおいては「事故った」ときの動きなのです。
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さらに征竜にはまだ上積みがありました。それがランク7エクシーズの存在です。当時のランク7エクシーズは、特殊召喚できるレベル7モンスターがおらず、まるで「電脳堺」が登場する前の「真竜皇V.F.D.」のように「強力なんだけど出しにくい」という問題を抱えていました。
しかし征竜は全てレベル7。まるでランク4を出すかのようにランク7を連打できます。中でもよく使われたのは「No.11 ビッグ・アイ」。相手フィールドのモンスター1体を対象にコントロールを得るカードであり、やっかいな敵モンスターを片付けながら攻勢をかけられます。
その利便性により、ビッグアイの封入されていた「ザ・ヴァリュアブル・ブック14」が瞬く間に書店から消え、カードショップではビッグアイの値段が急上昇していました。
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その他にも召喚権の余りやすさに着目し「光と闇の竜」を立てたり、エラッタ前の「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン」を使用したり……征竜は遺憾なくその強さを発揮し始めたのです。
◆どれだけ制限改訂を受けても、トーナメントに顔を出す生存能力
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これだけの能力を持っているテーマが環境で結果を出し始めるのに、そう時間はかかりませんでした。征竜というテーマへの研究が進むに連れ、最後はトップメタに躍り出たのです。おかげで、大会では「ビッグアイで敵のビッグアイを奪う」という恐ろしい光景が日常的に見られました。
当時まともに対抗できたのは、神判を有していた魔導のみ。こうして遊戯王の環境は「征竜魔導」と呼ばれる2強環境に移行。2013年の遊戯王世界大会に出場した24人の内、5名の魔導使い以外は全て征竜を使用していたほどです。ちなみに優勝テーマは征竜でした。
逆に、新規カード1枚で征竜と殴り合えた神判ってどんだけやばいんだ?という話もありますが、こうなると規制は避けられません。約半年後の2013年9月の制限改訂にて、子征竜4種は全て禁止、さらに「No.11 ビッグ・アイ」「超再生能力」が制限に指定されました。
主要パーツの内、4枚が禁止、2枚が制限というのはこれまでの類を見ないほど厳しい規制です。普通のテーマであればデッキとして成立しなくなるでしょう。……しかし、恐ろしいのはここからでした。大打撃を受けた征竜は、そのパワーを大きく減らしつつも次の環境にて変わらずトップメタに君臨したのです。
というのも、征竜というテーマはドラゴン族をサポートする効果も持ってます。そのため、他のドラゴン族カードを取り込みながら、征竜はまだまだ当時の環境で暴れることができたのです。
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当然、征竜への規制は続きます。2014年2月の制限改訂では親征竜4種が準制限に、「七星の宝刀」と「封印の黄金櫃」が制限に、「異次元からの帰還」が禁止カードになりました。それでもその強さは揺るぎもせず、環境に居座り続けます。
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次の2014年4月の改訂では、とうとう親征竜4種が制限カードに。これでもまだ環境上位の座を維持し、2014年7月には相性の良かった「竜の渓谷」「竜の霊廟」も制限カードに指定されました。巻き混まれたドラゴン族は阿鼻叫喚です。
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これでようやく環境から消えた……かと思いきや、その後X召喚時にドラゴン族モンスター3種類を1体ずつ墓地に送れる「No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン」が登場。2015年頃のトーナメントに再び顔を出し始めました。
2年前に発売したテーマがこれだけの規制を受けてもなお環境に現れる事態に、KONAMIはとうとう決断を下しました。2015年4月の制限改定を持って、親征竜は全員禁止カードとなったのです。
◆納得されつつも惜しまれた、禁止行き
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とにかく征竜の恐ろしかった所は、その生存能力です。例えば、現在『マスターデュエル』のトップメタである「スプライト」を考えてみてください。
このテーマももちろん強力です。が、スプライトとて「ギガンティック・スプライト」と「スプライト・エルフ」、それに「スプライト・ジェット」が禁止。他の「スプライト・ブルー」と「スプライト・スターター」を制限に……となれば、即座に環境から消えるでしょう。
しかし征竜の場合、制限カードになった親征竜4種類しか使えない状態になっても、まだトーナメントで戦えるパワーを持っていたのです。環境から征竜を排除するには、もはや親征竜を全て禁止にする以外、道はありませんでした。
これは征竜というテーマ自体をそのまま潰す行為であり、カードデザインとしての失敗を事実上認めたも同然です。しかし、当時の環境を見ていたプレイヤーとしては「まぁ、しょうがないよね……」と納得したのも事実でした。
そしていざ禁止となった際、少なからず惜しまれたのもまた事実でした。ビジュアルも大変カッコ良い上、貴重で強力な属性サポートであった征竜。自分も含め、ガチ勢でない人間にも使いたい人は多かったのです。
◆憧れのカードの復活に他の征竜も使いたいが……!
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というわけで、今回のブラスターの復帰は個人的に懐かしさと嬉しさ、そして恐怖を思い出させました。
さすがに10年という期間は長かったようで、『マスターデュエル』でも特に活躍は聞きません。もちろん炎属性のデッキが環境にないのも大きいでしょうが……。それでもファンデッキにおいては、その強さはまだまだ健在。筆者は焔聖騎士デッキに混ぜたところ、なかなか活躍してくれました。
やはり手札にある炎属性を、簡単に除去札に変えられるのは便利です。焔聖騎士は早めに墓地に送りたいカードも多いため、手札消費もそこまで苦ではありません。また次ターンで2800打点を出せるのがほぼ確定するため、ダメ押しや反撃にも役立ちます。
何よりデッキ全体の「騎士とドラゴン」によるファンタジー感がたまりません。「聖殿の水遣い」制限で構築を悩んでいたところに、ブラスターはすんなり収まってくれました。
こうしてみると残り2種の征竜も久々に使いたくなります。しかし、モンスターを墓地送りと制限なしで蘇生という効果は、ちょっとソリティアに最適すぎるので、あと数年は無理でしょうね……。