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「逆転裁判」シリーズで知られるカプコンの巧 舟氏が手がけた謎解きミステリー『ゴースト トリック』。2010年にニンテンドーDSで発売された同作のHDリマスター版が、2023年6月30日(金)にニンテンドースイッチ / PS4 / Xbox One / PC(Steam)で登場します。
本稿では、ゲームの第2章までをプレイできる体験版のプレイレポートと、開発陣と巧氏へのメールインタビューをお届けします。なお、記事中のスクリーンショットはPS4版となります。
◆とある幽霊が挑む一夜かぎりの追跡劇
物語は主人公のシセルが何らかの要因で命を落としてしまい、実体のないタマシイとなって目覚める衝撃のシーンからスタート。
なぜ死ななければならなかったのか。自分の命を奪ったのは誰なのか…そうしたことを気にするより早く彼の目に飛び込んできたのは、冷たい体となった自分を発見した女性が殺し屋によって命を奪われるという、さらなる衝撃シーンでした。
しかし幽霊となったシセルは特殊な死者のチカラを身につけており、彼は謎の声に導かれるまま、そのチカラで彼女の救出を決意します。助ける理由は、「(自分に助ける力があるのに)レディを見捨てるのは主義に反する」から。
一見するとキザですが、シセルはそれをあまり感じさせないハードボイルドなたたずまいを持つ人物です。幽霊ですが。
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シセルが持つ死者のチカラは、任意の対象に憑依する「トリツク」と、憑依した対象を思うままに動かす「アヤツル」のふたつ。さらに幽霊は生者の理屈では動かないということか、死んだばかりの人物の4分前に戻る力を持っています。
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しかしいいことばかりではなく、これらのチカラは自分自身には使えないほか、彼の魂は翌朝をむかえると同時に消滅することが分かりました。もはや後がないシセルの、一夜かぎりの追跡劇が幕を開けます。
◆壮大な“ピタゴラ装置”を作り上げる達成感がクセになる
死者のチカラにはまだ制限があり、「トリツク」ことができるのは無機物のみ、そして「アヤツル」も自在に動かせるとまではいかず、対象を多少動かしたり回転させたりできる程度です。
シセルの死の現場に居合わせた女性・リンネを待つ死の運命を変えるには、「トリツク」と「アヤツル」を駆使していくつもの無機物を経由し、まず彼女に近づかなければなりません。この「運命を更新するための試行錯誤」が本作における謎解きのキモとなります。
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冷蔵庫のドアを開いて次の無機物までの距離を縮め、自転車のタイヤを静かに転がさせて移動し……試行錯誤の果てに見えてくる「正解」の絵面はちょっぴり奇妙なルーブ・ゴールドバーグ・マシン(いわゆる「ピタゴラ装置」)とでもいうべき様相で、「自分という魂を運搬する壮大なからくり装置を作り出す(=そうすることで物語を紡いでいく)」のが本作独特の楽しさ、爽快感の源となっています。
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謎解きの難度はそこそこ高めで、命の危機にある人たちの運命をうまく更新できず、やり直すことになる場面もあるでしょう。しかし、そんな時は「試行錯誤するシセルのモノローグ」という形でヒントが出されるので、理不尽な難しさというわけではありません。
繰り返し挑戦するうちに手順はより一層洗練され、前述したような「ピタゴラ装置的爽快感」はむしろ増すというものです。
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◆「逆転」シリーズと異なる独自のプレイフィール
巧氏の代表作である「逆転」シリーズは、基本的に1話でひとつの事件の顛末(裁判の判決)までを描くストーリー構成で、謎解きのキモは証人に証拠品を突き付けて証言のムジュンを追求するというものでした。つまり、謎解き(推理)と物語が直結していたといえます。
それに対し本作は、謎解きそのものは物語と直結していません。しかし、謎を解くことで死んでしまうはずだった人たちが生き延び、その思惑や行動が交錯する群像劇が展開していきます。
「逆転」シリーズとは謎解きやストーリーの見せ方が大きく異なるので、本作は巧氏ならではの軽快なテキストはそのままに、まったく異なるプレイフィールを味わえます。
また、序盤の何気ない発言が後の伏線になっていたりもするので、既存プラットフォームでプレイ済みの人もそうした描写をチェックしながら遊ぶのも楽しそうです。
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