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2023年5月、格闘ゲーム界隈は不穏な空気に包まれていました。「6月に発売される『ストリートファイター6』が不発だったら、格ゲーはもう終わり」界隈ではそんな声もありました。ここ数年、格闘ゲームは、FPSやMOBAと比べると(eスポーツという観点では)やや斜陽に追いやられつつあったからです。
主な理由は2つです。
ゲームシステムの敷居の高さ(新規層の獲得失敗)
閉鎖的なコミュニティ(ファン層の高齢化)
『ストリートファイターV(ファイブ)』が発売された2016年からの7年間、新規層の獲得がうまくいかず、コロナ禍でのゲームセンターの閉鎖が相次ぎましたが、ただそれでも『ストリートファイターV』のeスポーツシーンには一定の盛り上がりが見受けられました。
その立役者は個性的なプロゲーマーたちです。
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ストリートファイターのeスポーツシーンは、ゲーム自体の面白さで盛り上がっているというよりも、日本初のプロゲーマーであるウメハラ(梅原大吾)選手、東大卒プロゲーマーであるときど選手を筆頭としたインフルエンサーおよび格闘ゲームファンたちの熱量によって、何とか持ちこたえてきたといえるでしょう。「ゲームの面白さ」を「演者の面白さ」で補ってきた7年間だったという見方もされています。
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ところが、2023年6月2日に満を持して発売となった『ストリートファイター6』によって、状況は一変しました。『ストリートファイター6』が、期待以上のクオリティだったのです。
発売から6日間で販売本数100万本を突破。非公式データベースサイトSteamDBによれば、オンラインプレイでの最高同時接続数は7万人を超えるという、格闘ゲーム史上最高の盛り上がりをみせています。この盛り上がりは一過性のものではなく、今回の『ストリートファイター6』にはゲーム内外に様々な仕掛けが施されているのです。
格闘eスポーツ業界全体の救世主となる『ストリートファイター6』は何がすごいのでしょうか。
今回は、2023年6月の第2回eスポーツビジネスEXPOにて開催された、カプコン 田渕哲也氏の講演内容に補足する形で、ゲームに詳しくない方にも分かるよう要点をまとめて解説します。
登壇者
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田渕 哲也氏
カプコン
グローバルeSports事業部 部長
<経歴>
1993年 カプコン入社
2018年 グローバルeSports事業部 運営部部長
2021年 現職
賞金総額200万ドル以上の世界大会「CAPCOM CUP」
カプコン公認の格闘ゲームの世界大会「CAPCOM CUP」は、2013年に第1回大会が開催されました。2014年以降は世界各国で開催される公式認定大会「CAPCOM Pro Tour」の獲得ポイントにより出場が争われます。
2023-2024シーズンとなる「CAPCOM CUP X」は、優勝賞金100万ドル、賞金総額200万ドルで、これは格闘ゲームのeスポーツ大会の賞金額としては最大規模です。
一昔前、優勝賞金1億円というインパクトで地上波メディアを中心に席巻した、デジタルカードeスポーツ『Shadowverse』の世界大会に匹敵します。
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「CAPCOM CUP」の魅力は、一般のプレイヤーが参加できるということ。
オフライン大会からオンライン大会まで様々な導線が用意されており、世界大会の直前に現地で開催される最終予選は、話題性も高く、どの予選よりも盛り上がりを見せます。
世界各地で予選が行われており、日本人が国外の予選に参加できるので、大会参加ついでに旅行を楽しむプレイヤーも多いです。
広告などのマネタイズポイントも多数「ストリートファイターリーグ」
ストリートファイターリーグ(以下、SFL)とは、「ストリートファイターシリーズ」を使用した、 日本最高峰の公式チームリーグ戦です。
頻繁にメディアに取り上げられている有名選手、ときど選手やももち選手も、このリーグに参加しています。(※2023年のリーグにはウメハラ選手は不参加を表明)
▼参加選手一覧 (※チーム名50音順)▼
<プレスリリースより>
■チーム名:魚群
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■オーナー企業:map on stage
■URL:https://gyogun-official.com/
■登録選手:
・マゴ(2018~2022年シーズン出場)
・まちゃぼー(2019~2022年シーズン出場)
・もけ(2019~2022年シーズン出場)
・水派(2019~2022年シーズン出場)
■チーム名:Good 8 Squad
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■オーナー企業:グッドエイトスクアッド
■URL:https://www.good8squad.jp/
■登録選手:
・ガチくん(2019~2022年シーズン出場)
・カワノ(2018~2022年シーズン出場)
・ぷげら(2020~2022年シーズン出場)
・立川(2021年シーズン出場)
■チーム名:CYCLOPS athlete gaming OSAKA
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■オーナー企業:ブロードメディアeスポーツ
■URL:https://cyclops-osaka.jp/
■登録選手:
・どぐら(2019~2022年シーズン出場)
・GO1(初出場)
・かずのこ(初出場)
・フェンリっち(初出場)
■チーム名:Saishunkan Sol 熊本
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■オーナー企業:再春館システム
■URL:https://www.saishunkansys.com/
■登録選手:
・ネモ(2018~2022年シーズン出場)
・Shuto(2018~2022年シーズン出場)
・ひぐち(2021~2022年シーズン出場)
・ササモ(初出場)
■チーム名:忍ism Gaming
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■オーナー企業:忍ism
■URL:https://shinobism.com/team
■登録選手:
・ももち(2020~2022年シーズン出場)
・ヤマグチ(2022年シーズン出場)
・藤村(2019~2022年シーズン出場)
・ジョニィ(2020/2022年シーズン出場)
■チーム名:DetonatioN FocusMe
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■オーナー企業:DetonatioN
■URL:http://detonation.jp/
■登録選手:
・板橋ザンギエフ(2018~2022年シーズン出場)
・ナウマン(2020~2022年シーズン出場)
・竹内ジョン(2019/2021~2022年シーズン出場)
・ふ~ど(2018~2022年シーズン出場)
■チーム名:名古屋OJA BODY STAR
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■オーナー企業:名古屋王者
■URL:https://nagoyaoja.com/
■登録選手:
・あきら(2021~2022年シーズン出場)
・オニキ(2018/2021年シーズン出場)
・KEI.B(初出場)
・鶏めし(2022年シーズン出場)
■チーム名:広島 TEAM iXA
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■オーナー企業:ヤルキマントッキーズ
■URL:https://yarukiman.com/
■登録選手:
・ストーム久保(2020/2022年シーズン出場)
・キチパ(2019~2021年シーズン出場)
・じゃじい(初出場)
・ACQUA(初出場)
■チーム名:FAV gaming
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■オーナー企業:KADOKAWA Game Linkage
■URL:https://www.favgaming.com/
■登録選手:
・sako(2020~2022年シーズン出場)
・りゅうせい(2021年シーズン出場)
・ときど(2018~2022年シーズン出場)
・ボンちゃん(2019/2021~2022年シーズン出場)
「ストリートファイターリーグ」での広告の仕掛け
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田渕氏からは「配信中の対戦画面では、キャラクターのコスチュームに企業ロゴを装飾できる」と説明がありました。選手の顔もワイプで表示されるため、選手自身のユニフォームも露出されます。格闘ゲームの対戦中、視聴者は画面に釘付けになるため、画面下部の企業ロゴは常に視聴者の目に止まるでしょう。
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また講演では田渕氏から、2023年のストリートファイターリーグに参加する9つのゲーミングチームの紹介がありました。
少し補足すると、所属する選手たちはチーム自体のスポンサーを背負うだけでなく、それぞれ個人が別の企業とのスポンサー契約を結んでいます。例えば、上記画像におけるボンちゃん選手(写真 右から2人目)は、個人でRedBullにスポンサードされており、FAV gamingのユニフォームだけでなく、RedBullのキャップを被っています。
『ストリートファイター6』での新しい取り組み
ここからは『ストリートファイター6』のゲーム内における、これまでのシリーズには無かった、新たな取り組みを紹介します。
失われたゲーセンの雰囲気を取り戻す「Battle Hub」
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本作の中核となるモード「Battle Hub」は、自身のアバターを用いて他のプレイヤーと交流できるモードです。ゲームセンターのような対戦台での対戦や、アバターの装飾などが楽しめるため、オンラインプレイ時の“孤独感”の緩和に繋がり、コミュニティを持っていない新規層がコミュニケーションを楽しむ場となります。
田渕氏からは、ファッションブランド「オニツカタイガー」とのコラボスニーカー「ENDACTUS」がアバターの装飾アイテムとして「Battle Hub」内に登場するという、リアル/ゲームの壁を超えた取り組みも紹介されました。
新規獲得のための新たな操作方法
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これも筆者の補足になりますが、新たな操作タイプが追加されたのも、『ストリートファイター6』での新たな取り組みです。
長年、新規層の参入障壁として、格闘ゲーム特有の難しいコマンド操作が指摘されてきました。
『ストリートファイター6』では、若い世代にとっても馴染み深い操作方法を実装することで、新規層の獲得に成功しています。
新規層の離脱を防ぐ1人用モード
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1人用のモード「WORLD TOUR」も重要な新要素です。
「対戦格闘ゲームを買ったら、もう1本ゲーム(アクションRPG)がついてきた」といわれる程の大ボリュームであり、シリーズファンが喜ぶ要素がたくさん盛り込まれています。
初心者が操作方法を覚えるためのチュートリアルとしても機能しており、従来の格闘ゲームが抱えていた「(初心者が)おぼつかない操作のまま対人戦を開始して、ボコボコにされて格闘ゲームを辞めてしまう」という課題を解決している新要素です。
他企業とのコラボレーション
eスポーツの対戦会が企業の福利厚生となっている事例が紹介されました。
この事例では、三井不動産がストリートファイターを用いた企業対抗戦を開催し、企業間の交流が行われています。
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また、『ストリートファイター6』は、史上類を見ないほどに発売前のPR活動に力を入れていた格闘ゲームでした。
2023年4月17日に発売されたベビースターラーメン丸とのコラボ商品で、ゲーム発売前の認知拡大を行い、Samusung SSDとのコラボ広告ではJR品川駅の改札内に大型広告が掲示されていました。
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まとめ
『ストリートファイター6』は格闘ゲーム史上最大の盛り上がりを見せています。
ゲーム内での新たな取り組みと、ゲーム発売前の積極的なPR活動が実を結んだといえるでしょう。
従来の強みであった「演者の面白さ」に加えて、「対戦ゲームとしての魅力」「コミュニティの活性化」「新規プレイヤーの獲得」「マネタイズ」「プロモーション」などの各課題に適切にアプローチした『ストリートファイター6』は、今後ますます盛り上がることが期待されています。