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finalは、同社が販売中のイヤホン「final VR3000 for Gaming」(以下、VR3000)の兄弟機となる新製品、「final VR2000 for Gaming」(以下、VR2000)の販売を、2023年9月8日より開始しました。
「VR3000」のキャッチコピーが“ゲームやVRの音響空間イメージを、制作者の意図通りに再現するイヤホン”なのに対し、「VR2000」のそれは“瞬時の判断を鈍らせない素速い音への「反応」にフォーカスした勝つためのゲーミングイヤホン”というもの。すでに市場で高い評価を得ている「VR3000」の兄弟機とあり、注目を浴びるのも当然という感じですね。
筆者は今回、finalより新製品の「VR2000」、並びに聞き比べ用として既製品の「VR3000」を貸与いただいたので、本稿では同製品のレビューをお届けします。
◆「VR3000」の兄弟機「VR2000」について
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筆者は、「Shure SE215」、「Shure SE215SPE」、「Shure SE535」、「SENNHEISER IE40PRO」を経て、現在は「Shure AONIC4」を使用していますが、「AONIC4」を購入する際、同時に悩んだ機種の内の一つが「VR3000」だったりします。フラットな周波数傾向は非常に気に入っていたのですが、最後に選択しなかった理由は、“音のレスポンスを感じにくくかった”というもの。1万円を切る価格に見合わぬ豊かな空間表現、その空間をしっかりと活かす定位感には惚れましたが、「音を掴みにくい」という点が、残念ながら筆者の好みではなかったためです。
そこから数年。まさか「VR3000」の兄弟機となる「VR2000」のレビューを行うことになるとは思いもよりませんでしたが、今回改めて、双方の完成度の高さに舌を巻くこととなりました。
パッケージはシンプル。内容は、イヤホン本体、シリコン素材のイヤーピース(サイズの異なる5種類。内1種類が装着済み)、イヤーフック、布製のキャリングポーチ。
ハウジングは、final製イヤホンらしさが溢れる角ばったデザイン。その外観からは想像できない高い装着性を持ちますが、こうしたイヤホンの多くは、使用者の耳の形によって装着感は左右されがちです。筆者としては、どのようなイヤホンであったとしても、音質以前に装着感という点で、購入前の試聴をオススメしています。
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カラーはダークオリーブとなっており、派手さこそないものの、どこか遊び心を感じます。ハウジングはマット調の加工がされており、指紋が目立ちません(地味に嬉しいですね)。
ケーブルコネクターを備えた構造ではないため、イヤホン本体とケーブルは直結する構造です。アジャスターを備えたケーブルの長さは1.2mほど。使用環境によっては不足する可能性もありますが、多くの場合は取り回しに優れる“ちょうどいい”サイズ感でしょう。
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ケーブルは柔らかく、タッチノイズは少なめ。芯線材の素材はOFC(無酸素銅)です。外観はお世辞にも高級感のある風体ではありませんが、本製品が1万円を切る価格であることを踏まえれば必要十分です。なにより、実用では何も問題ありません(コネクター式ではないため、断線=修理・買い替えとなってしまうことには留意しておきましょう)。
L字型の3.5mmステレオミニプラグによって様々なデバイスに対応します。マイクを備えたコントローラーも搭載しており、対応デバイスでの音量コントロール・再生/ 停止が行えます。
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マイクの音質は「まぁ、こんなもんだよね」という感じ。クオリティを求める物ではありません。とはいえ、突然かかってきた電話で短時間話すとか、バックアップとして使うといった用途であれば十分。2ドアクーペの後部座席のようなものです。
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付属するイヤーピースは、シリコン製のものが5種類。付属品にしてはかなり多めですが、使用環境を重視するfinalの姿勢がうかがえます。硬さの異なる2種類のシリコンを組み合わせており、単なる付属品とは思えないほど高いクオリティ。ガッチリと装着されて安心感があり、使用した際の感触・肌ざわりも良好です。なお、ノズル(装着部)は市場で標準的な4mm径となっており、サードパーティー製のものへと交換も可能です。
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注意
筆者の環境では他社製のイヤーピースの装着可否を確認しましたが、どの製品に対しても互換性があるというわけでないので、交換の際は自己責任でお願いします。
なお、イヤホンという性質上、レビューは筆者の主観に基づくものです。音という個人の好みが大きく出るジャンルではあるものの、可能な限り、客観性を持って文字として表現することを心がけました。そのうえで、筆者一個人の好みという部分も記しています。
また、筆者は「カスタムIEMを含めたイヤホンやヘッドホンを何十本も持っていて、10万円オーバーのポータブルDAPを持ち歩き、自宅では100万円オーバーの環境」というようなオーディオファンではありませんので、本記事については「ごく普通の一般層(のゲーマー)から見たレビュー」とご認識ください。
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◆サウンドの方向性をチェック
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さて、ここからは「VR2000」のサウンド面をチェックしていきましょう。音質の方向性を知るため、まずは様々な音楽を中心に聞いていきます。動作テストも兼ね、開封直後に10時間ほど使用した後、下準備として休息を含ませつつ、各種ゲームや音楽などのサウンドを流し続け、100時間ほど鳴らしてから本格的な使用に入りました。以下に記す音質についての印象は、基本的に「100時間鳴らした後のもの」になります。主な試聴環境は以下の通り。
デスクトップPCマザーボード(Realtek ALC1220)直結
TRIO DP-1100 CDプレーヤー + KENWOOD L-02A プリメインアンプ
Sony WALKMAN NW-A50 ポータブルDAP
Sony Xperia 1 III スマートフォン
これらで、イコライザーや音質調整はしない状態で聞き続け、それらの感想をまとめて記します。
まずは比較対象である「VR3000」から。低域の存在感を確保しつつも、全体的にフラットな傾向を感じるサウンドでありつつ、真っ先に気づくのは広大な空間表現、優れた定位感です。音の解像度そのものは特別優れているわけではありませんが、「どこでどの音が鳴っているか」が明確であるため、聞き分けが容易に行えます。FPSプレイヤーから高評価を受けることは非常に納得できますし、バイノーラルサウンド系のコンテンツ(ASMRなど)を好むユーザーからも支持を受ける理由が分かります。
その一方で気になる点は、やはり“キレのなさ”と“伸びのなさ”でしょうか。たとえば、息を使い切るようなボーカルといった点でパンチ不足を感じますし、良く言えば“味つけされていない”、率直に言えば“淡々としすぎている”点は、筆者の好みとしては気になった部分です。とはいえ、「VR3000」のコンセプトは「ゲームやVRの音響空間イメージを、制作者の意図通りに再現するイヤホン」であり、音楽リスニングをメインに開発されているわけではありません。そうした意味では、この「VR3000」はコンテンツに忠実であり、設計思想をしっかりと反映しているイヤホンであるわけです。
次に「VR2000」を聞きましょう。使用してすぐに「VR3000」との差を感じることができました。まず、全体的にフラット傾向であった「VR3000」に対し、「VR2000」は中低音の存在感が引き締まり、大きくなる印象があります。ただし、いわゆる“ゲーミングイヤホン”にありがちな極端なドンシャリ傾向や、ボワッとした鳴り方の低音ではなく、“味つけ”という聞きやすいバランスでまとめられているのは、さすがfinalといったところ。
そして、大きな差を感じるのが空間表現の差です。一種のサラウンド感まで感じさせる「VR3000」に対し、「VR2000」のそれは標準的な域まで落ち着きを見せます。そして音作りも大きく異なり、全体的に淡々としている「VR3000」に対し、「VR2000」はソリッドさ・ダイレクトさが増した鳴り方をします。先に中低音の存在感が増していると記しましたが、こうした“音の鳴り方”自体も影響しているでしょう。その反面、定位感・音の分離感は「VR3000」に軍配が上がります。
双方の機種において、とくに高音域で詰まる(伸びきらない)印象こそあるものの、この価格で、兄弟機としてしっかりと差別化できているのは企業努力の賜物でしょう。聞き比べると、根底にあるものこそ同じであるものの、設計思想として味つけされる部分が大きく異なることが分かります。
搭載されるドライバーは、双方の機種とも「f-Core DU」(エフコアDU。final独自設計の6mmダイナミックドライバーユニット)ですが、チューニングが非常に綺麗にまとまっている印象です(finalの担当者へ質問したところ、「空間と反応という聴覚印象に焦点を合わせて、それぞれ振幅周波数特性も含めた音響設計を行なっています」と回答をいただきました)。
その上で、ゲームだけでなくリスニング用途でも用いるのであれば、個人的には「VR2000」を推したいです。ボーカル(とくに女性ボーカル)は「VR2000」が映えますし、全体的に“ノれる”サウンドになっています。ただし、ライブ盤などを「VR3000」で聞くと、これもまたイイ感じ。得意不得意はあるものの、単純な甲乙はつけ難いです。
◆競争性のあるゲームではどうか?
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結論から述べましょう。これはPvPやランキングを競うタイトルの前提ですが、FPSなどの空間把握を求められるタイトルでは「VR3000」。空間把握を求められないタイトルで、音をダイレクトに捉えたいタイトルでは「VR2000」。筆者の意見としてはこのような感じです。
先に音質傾向について記しましたが、これがゲームプレイにおいても、そのまま反映されます。定位感だけでなく距離感の表現にも優れる「VR3000」の方が、足音を“とらえる”だけでなく、その後の“判断”に優れる印象。フラットな音質傾向で特定の音が強調されるということもないため、プレイフィールとしてもナチュラルです。
一方で、空間表現を求められず、とにかく音への反応を重視したいタイトル(格闘ゲームや音楽ゲーム)には「VR2000」が向きます。音のダイレクト感が強く、「どの音が鳴ったか」の判別に秀でます。
「どこで・どの音が・どれくらいの距離で鳴ったか」のプロセスを認知しやすい「VR3000」と、「どの音が鳴ったか・その音を耳に届ける」ことを追及する「VR2000」。キャッチコピーの通り、しっかりと住み分けがなされています。とは言いつつも、「VR2000」はFPSに向いていないということではありませんし、「とにかく一瞬の足音も聞き逃したくない」というような場合には「VR2000」に軍配が上がるでしょう。
同時に様々な音が鳴った際の分離感は、確実に「VR3000」の方が優れています。ただし、同じFPSというカテゴリーのタイトルでも、たとえば『VALORANT』と『Apex Legends』ではゲーム自体が持つサウンドの情報量・頻度や、それがもたらす意味が変化する部分もあります。ゲームタイトルによって、イヤホンを使い分けてみるのも面白いかもしれません。
◆その他のゲームや、映画などではどう?
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完全に好みです。その上で、筆者の個人的な意見を述べるなら、ゲームや映画などのコンテンツに関わらず、没入感を求めるなら「VR3000」がオススメ。聞き疲れしないサウンドを求める場合も「VR3000」がよいでしょう。ただし、直近で筆者がもっともプレイしたタイトル『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』では興味深いことが一つ。
本作では敵からの強力な攻撃の直前に「ピーピー」というアラート音が鳴ります。そのアラートに合わせて回避機動を取る…。というのが重要なテクニックですが、そのアラート音が前面に押し出てくる感じで、非常に聞き取りやすいのです。ゲームをプレイする総合体験として優秀なのは「VR3000」ですが、アラート音を聞き逃したくないなら「VR2000」。Sランク取得のお供になるかも……しれません。
『FINAL FANTASY XIV』でハウジングにフレンドを呼んで、アップテンポの曲でノリノリになりながらチャットするときも「VR2000」がオススメ。前へ前へとノレるサウンドです。かなりニッチなシチュエーションばかり記していますが、「使い分けられる(したくなる)ほど、個性がハッキリしている」ということ。「型番だけ変えました」というような代物ではなく、しっかりと“別物”になっています。
◆レッドオーシャンのイヤホン業界で個性を放つ2機種
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さて、ここからは総評に移りましょう。「VR3000」「VR2000」は双方ともに、“ゲーミング”というお決まりの文句に真摯に向き合い、再定義する製品です。1万円を下回る“手が出しやすい価格”、すなわち激戦区に投入される製品ながら、ゲーム用途では、1万円前後の市場のライバルに喰ってかかる。文字通りの意味で“ゲーミングイヤホン”を体現できています。
まず、製品の評価できるポイントから。すでに「VR3000」で確立した定評を崩すことなく、しっかりと味つけを変え、用途も明確化した兄弟機種を投入したこと。これこそ最大の評価ポイントです。音質はこれまでに述べたとおりですが、双方とも価格にしては十分すぎますし、何より、しっかりと“目的を果たすチューニング”が行われています。イヤーピースが標準で5サイズ付属するのも嬉しいポイントです。イヤホンを使用するにあたり、イヤーピースのフィット感は装着時の快適性だけではなく、音質・遮音性など多くに影響を与えます。
では欠点はあるでしょうか。いえ、特にありません。音の聞かせ方は個人の好みの問題ですし、マイクについては、そもそも最初から期待して購入するものではありません。強いてあげるなら、ケーブルがちょっと安っぽさを感じる(+アジャスターが非常に固くて動かしにくい)という程度。
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筆者は市場に溢れるゲーミングイヤホンについて、「ゲーミングイヤホン買うくらいならオーディオメーカーのイヤホンを買えばいいじゃん」という“餅は餅屋”のスタンスですが、“餅屋がゲーミング餅を作ってきた”のが、この「VR3000」と「VR2000」です。あと数千円足せば、市場で定番の「SENNHEISER IE 100 PRO」、finalでも「A3000」「E4000」といった機種が買えますが、それらとはポジションが異なる独自の位置に「VR3000」と「VR2000」は存在します。「final VR」シリーズの更なる上位機種の存在を待ち遠しくさせる、そんな楽しい時間を過ごしたレビューなのでした。