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ステルスアクションへの回帰を打ち出した『アサシン クリード ミラージュ』は、久し振りに充実したステルスアクションとして上々の評価を受けました。それが実現できたのは、アクション面を大きく見直した前3作あってのものだと思います。
前提として、それまでのシリーズ作における近接戦闘は「カウンター返し」を主体としたもので、複数に囲まれたときに次々倒していく「殺陣」のようなアクションとして設計してありました。『ユニティ』『シンジケート』のモーションは流れるようにリアルな剣術、格闘術で見応えはありましたが、他タイトルで見られるような爽快感あるアクションバトルには置いて行かれているという批判も。全面改修に至った理由を当時のインタビューでは「モダナイズ」というキーワードで表していて、新規プレイヤーの入り口としても位置づけています。
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『オリジンズ』『オデッセイ』『ヴァルハラ』では、主人公は熟達した戦士であり、アサシンのステルスよりは近接攻撃と弓矢の比重が大きくなりました。「戦士三部作」と便宜上呼ぶことにしますが、ミラージュのレビューでは「持ち味が鈍った」とは言ったものの、アクションゲームとしての手触りは前世代に比べて格段に向上しています。
全体的に長めだった戦闘モーションを見直し、攻撃、防御、回避のレスポンスは短く機敏に、ヒットの効果は鋭く派手に。動かしていて気持ちいい動作を研究した上で、改めてステルスをブラッシュアップした結果、『ミラージュ』でアクション映画のようなテンポの良い「狩り」に繋がりました。
近代から一気に遡り、あえて「アサシン以前」に踏み出した戦士三部作はどのようなものだったのか、システム面の変遷を改めて振り返ります。
オリジンズ―流浪の復讐者
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『オリジンズ』のシステムで最も大きな変更が、アサシンを象徴する能力だった「イーグルビジョン」です。敵の気配を察知してハイライトする潜入に欠かせない力でしたが、その代わりに相棒の鳥の視点で偵察する形式に置き換わりました。
それまでは一定時間で消える色の残像で敵の位置を把握していましたが、オリジンズからは敵を一人ずつマーキングしていく作業が必要に。少し手間は増えましたが、一度マーキングするとエリアを離れない限りは継続し、注視している人物の行動も表示されます。
夜間になると休憩している、あるいは床で寝ている敵兵もいて、潜入に入る前に時間帯の切り替えを試すなど、じっくり観察することが求められます。『メタルギアソリッドV』の自由潜入に影響を受けたと見ることもできるでしょう。
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イーグルビジョンの変更と古代都市の開けた場所が増えた分、気付かれずに近づくのが難しくなりましたが、長距離射程を誇る「弓」の登場で遠くから少しずつ減らしていく戦い方が取れるようになりました。
また、それまでミッションシークエンスでステージが用意されていたのが、RPGに倣った自由なクエスト進行に代わりました。手ごわいと感じたらいつでも退却してサブクエストや装備の強化を行えます。
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戦闘はカウンター攻撃を廃止し、盾によるガード、受け流しを導入。大技を使うのに必要なアドレナリンゲージを溜めるため、積極的に攻撃を仕掛けていくアグレッシブな戦い方に変わりました。強敵と1対1の決闘や闘技場もあり、盛り上がるシチュエーションで古代戦士らしい戦いを演じられます。一方で暗殺の場面では惨い撲殺など、復讐に囚われた殺人鬼の面も露わに…。
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シナリオの都合上「皮肉担当」がいないので歴史データベースが廃止。その代わりに専用の大型コンテンツに整備した「ディスカバリーツアー」を追加配信、ガイドに従って観光旅行をするように歴史学習を行えます。独立の教育用コンテンツにもなり、視覚的に歴史的体験ができるということでシリーズファン以外の歴史好き、学者からも高い評価を受けました。
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『オリジンズ』では『FINAL FANTASY XV』との相互コラボレーション企画も実施しました。『FFXV』ではノクティスが自前コスを用意している程のアサクリファンであることが判明し(前イベントでアイテムを集めていると発生)、エツィオとバエクの衣装、メジャイの盾を入手できる限定イベントが開催されました。
一方『オリジンズ』の方でも現代編で小物が、アニムス内でノクティスの壁画が設置してあり、さらに特別装具が手にできるスペシャルクエストが用意されています。その内容は是非ご自身の目で。
オデッセイ―歴史を動かす傭兵
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近接、遠距離攻撃のベースが『オリジンズ』で固まったところで、『オデッセイ』では『ブラックフラッグ』の海戦や賞金首の要素を取り込み、古代ギリシャでアテナイ(アテネ)とスパルタが鎬を削る「ペロポネソス戦争」に一傭兵として身を投じます。
今作ではシリーズ初の選択式会話、マルチエンディングを採用しました。主人公は男女2人から選び、歴史の結果すら大きく変えてしまうようなダイナミックな変化を起こすことも出来るように。アニムスのシミュレーションという設定を上手く使った遊びと言えるでしょう。
近接戦闘は盾によるガードをなくし、パリィと回避をタイミングを見ておこなう必要があります。アドレナリンゲージを分割し、設定した4つのアビリティを逐次使っていく一層「攻め」の姿勢が求められるものへ。映画「300」からインスパイアされた伝説の「スパルタキック」で敵兵を崖から蹴落とすのに熱中した人も多いはず。This is Sparta!
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『ブラックフラッグ』と同様に、『オデッセイ』では不審行動を取ると手配度が上がり、賞金稼ぎの傭兵が主人公を襲撃してきます。これらの傭兵を返り討ちにすることで傭兵ランクを上げ、様々なボーナスを得られる仕組みです。
傭兵それぞれに弱点、強みがあり、他の傭兵を倒して情報を得られるのですが、弓に弱い、暗殺ダメージに弱いなど、正面切った殴り合いでは不利になることもあります。武人だからと言って正々堂々戦う必要はありません。不意打ち上等、狙撃上等、勝てば官軍、許されぬことなどないのです。
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ペロポネソス戦争の行方を左右するのが地域の征服です。各地域には陣営に属する指導者がいて、「国力」によってレベルが変動します。プレイヤーは各拠点や兵士、傭兵を襲撃して国力を削り、弱らせたところで暗殺を決行。その後、武力制圧を試みる「大戦」に移行します。
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大戦の戦場では各100人以上の兵士が敵味方入り乱れ、混戦の中をかき分けて戦果を挙げます。オープンワールドRPGの自由な冒険に緻密な「歴史的体験」が加わった、戦士三部作の中でも最もダイナミックな作風です。本作のチームは本作のリサーチを活かし、ギリシャ神話を題材にした『イモータルズ フィニクス ライジング』を製作しました。
ヴァルハラ―容赦なき侵略者
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時代は再び古代から中世へ戻り、大ブリテン島を侵略するヴァイキングが主人公です。エイヴォルはアニムスに起きた謎の不具合により、ゲーム中の選択によって男女の性別が揺らぐという特殊な状態になっています。どちらかに固定することも可能ですが、前作と違って同一人物で何故このようなことが発生したのか、アニムスに秘められた謎がまた一つ増えました。
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『ヴァルハラ』ではイーグルビジョンが「オーディンの眼」として『シンジケート』以前の仕様に戻ったのに加えて、引き続き鳥瞰偵察が使えるので天地両方で敵を見つけやすくなりました。改めてプレイしてみると、最初のヒドゥンブレードを持っていない状態では背後から忍び寄っても「気絶させる」の選択がなく、いきなり斧で殴りかかる仕様になっていました。武功を誇るヴァイキングには隠密の言葉は不要。最早隠れていないヒドゥンブレードでファンに衝撃が走りましたが、ヴァルハラ入りを目指す戦士であることを象徴するものでした。
近接戦闘は『オデッセイ』のアビリティシステムを受け継ぎつつ、盾ガードの復活、スタミナ制の導入が試みられました。回避や空振りを連続してできなくなったため、呼吸の間を置いて慎重に見合う『ソウル』風の重い戦いに近づいています。
相手のスタミナを削りきった場合、一撃必殺のスタンアタックで荒々しいとどめを刺せます。実質的に前世代におけるカウンター攻撃の復活と言えるでしょう。敵兵の強さも引き下げられていて、導入パートから十数人をまとめて相手できる屈強な戦士の戦い方に変化しました。
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スカンジナビアを旅立ったエイヴォル達は大ブリテン島に定住地を造り、その生活を発展させることがゲームの主軸になります。メインストーリーの征服を進めるには居住地を拡大させることが必須で、その資源を集めるのに必要なのが「略奪」です。
各地の村や修道院をロングシップで襲撃し、片っ端から宝を奪い尽くす、襲われる側にはたまったものではない行為をプレイヤーの手で実行します。そんな残忍な侵略者の面と、定住地で仲間と過ごす豪快な暮らしのコントラストは、単なる「野蛮な侵略者」ではないヴァイキングの姿を示してくれました。
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アクションゲームと歴史的体験、この2つをアップグレードした「戦士三部作」のゲームシステムは『ミラージュ』のステルスアクションに還元され、シリーズの中でも最も軽快な暗殺者を実現しました。
鳥瞰マーキングとイーグルビジョンを併用した索敵、ゲージを溜めて発動する「暗殺の極意」、これらの能力で今のところ右に出るアサシンはいないでしょう。そして何より、バグダッドの市街を彩るイスラム文化の息づかいは、積み重ねてきた歴史考証のノウハウがあってこそですね。
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アサシン前史から本流アサシンに戻ってきた次世代の作品はどんな姿になるのでしょうか。「戦士三部作」と『ミラージュ』で辿った進化は、その土台として役立ってくれるに違いありません。『ミラージュ』だけでなく『オデッセイ』『ヴァルハラ』でも15周年記念アイテムやクロスオーバーイベントが配信中ですので、改めて過去作をチェックしてみるのもいいかもしれません。