
先日ニンテンドースイッチ向けに発売された『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』。約11年ぶりの2Dマリオということで、大きな話題になっています。
このマリオはギミックもさることながら、「可愛らしいクッパ軍団」もひとつの見どころ。まるでミュージカル作品のような演出もあり、プレイヤーを飽きさせない工夫が随所に施されています。
この記事では、倒すのを躊躇ってしまうほど明るくユニークなクッパ軍団に焦点を当てたいと思います。
◆昼寝をするクリボー

今作の舞台は「フラワー王国」。一面花畑の土地が広がる、平和な王国です。
そんな国の王子に招待されてやって来たマリオ一行。今作はピーチやデイジー、ヨッシー、キノピオ、キノピコ、果てはトッテンもプレイアブルキャラに入っています。

平和な国で平和的なパーティーを……と思ったら、案の定クッパが出てきました。今回はフラワー王国の城とクッパが合体し、王国はあっという間にクッパ軍団の占領下に。あらららら……。
そんなわけで、マリオたちの冒険が始まります。よっしゃ、今回もクッパ軍団共を派手に踏んづけて懲らしめてやろう……と思ったのですが、どうも戦意を削がれてしまいます。というのも、心地よい昼下がりの中をクリボーが鼻風船を膨らませながらお昼寝してるじゃないですか!

うーん、何だか起こすの可哀想……。このまま寝かせてあげるのが一番いいんじゃないか?
◆パックンフラワーの大合唱

クリボーは「スーパーマリオ」シリーズではお馴染み、一番最初に出てくる敵キャラです。
1983年発売の初代『スーパーマリオブラザーズ』でも、真っ先に出くわすのはやっぱりクリボー。彼はこのゲームの基本的攻撃法を教えてくれる存在でもあり、横スクロールアクションゲームの伝道者とも言えます。このあたり、83年当時は横スクロールアクションゲームというものがまだ一般的ではなかった事情を考慮する必要があります。
もちろん、シリーズお馴染みの敵キャラはクリボーだけではありません。移動することはないものの、一件何の変哲もなさそうな土管から突然姿を現すパックンフラワーも重要なキャラクターです。

もちろん、彼も『ワンダー』に登場します。しかも今回は土管から顔を出すのみならず、そこから飛び出して走ったり複数人(複数本?)のパックンフラワーが合唱を始めたりすることも!しかも、その合唱はお客さんから銭を取れるくらいのレベルです。
これはもう、ひとつのミュージカル作品じゃないか!
◆家族全員で楽しめるゲーム
ミュージカルを鑑賞した人は分かると思いますが、「お芝居をしながら歌う」という性質上舞台に立っている役者は端役を含めて全員声を出さないといけません。「無言のエキストラ」は存在しないのです。
『ワンダー』もまさにそのような世界で、このゲームにエキストラはいません。やられ役も含め、全員が歌って踊れる俳優です。
この作品のCEROレートはA(当然ですが)。家族全員で楽しめ、さらにこれ自体が完成された映像作品としての価値を含んでいます。それは全てのキャラが、確固たる「市民権」を得ている表れではないでしょうか。
◆変わらない操作性

もうひとつ、筆者が驚いたのは「操作性が一切変わっていない」という点です。
過去のマリオ作品では、ボタンの微妙な押し加減によりジャンプの飛距離が変わるという特徴を持っていました。これが横スクロールアクションゲームに一種の革命をもたらし、またマリオに追随せんとばかりに登場した他の横スクロールアクションゲームをまったく寄せつけない抜群の操作性を確立させます。
そんな操作性が一切変わっていないというのは、やはり高く評価するべき点ではないでしょうか。
前述の通り、初代『スーパーマリオブラザーズ』の発売は1983年。その年に6歳だった少年は、今では46歳になっています。仮に23歳で子供を作り、その子供も20歳を少し超える年齢で子供を作れば、かつての少年は「お祖父さん」と呼ばれます。
つまり『ワンダー』は、3世代で遊べる2Dマリオシリーズということでもあります。
◆マリオは「ゲーム界の長嶋茂雄」
プロ野球はかつて、知識層や大学関係者から「職業野球」と呼ばれて遠ざけられていました。
庶民には人気があったものの、六大学野球で活躍した選手がプロ野球へ行く例は「死ぬ前に野球がしたい」と選手たちが望んでいた戦時中を除いてあまりなく、1958年までは高卒や高校中退の選手がプロ野球の中核を担っていました。
では、1958年に何があったのか。六大学野球のスターだった長嶋茂雄選手が、巨人へ入団しました。この瞬間から、プロ野球は「国民的スポーツ」としての地位を確立させます。
これはコンピューターゲームの歴史にも当てはまるのでは、と筆者は考えています。1983年、『スーパーマリオブラザーズ』という「ゲーム界の長嶋茂雄」が登場したことにより、ゲームそのものが誰でも楽しめる娯楽に姿を変えました。
そして現代、2Dマリオはそれ自体が一ジャンルになってしまうほどの影響力を誇り、我々に無限大の夢を与え続けています。