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一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が主催する「日本eスポーツアワード」が2024年1月25日(木)に開催となりました。
eスポーツビジネスの観点で重要なシーンをピックアップしつつ、筆者の視点を交えながらレポートします。
「日本eスポーツアワード」とは
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「日本eスポーツアワード」とは、2024年1月25日(木)に東京国際フォーラムで初開催となった、日本国内のeスポーツ業界における功績を表彰する祭典です。
本アワードは、13万票以上ものファン投票をもとに、全16部門における初代受賞者が決定されました。
<審査方法>
第一段階:一般からの投票による「ファン投票」
第二段階:eスポーツ業界関係者による「審査員投票」
第三段階:審査委員会による最終選考
一般社団法人日本eスポーツ連合 会長 早川英樹氏 コメント
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開催にあたって私からご挨拶を申し上げます。「日本eスポーツアワード」は今年初開催となり、日本におけるeスポーツの功績を称える、年に1度の祭典です。
本アワードでは、プレイヤーやプロチームのみならず、eスポーツ市場を支えるeスポーツに関わる企業、団体にも幅広く焦点を当てて、地方創生、社会貢献、生涯功労など多岐にわたるカテゴリーで卓越した功績を讃えます。また、受賞者の功績を永久の価値として記録し、後世に伝えていくことで、日本国内のeスポーツ界の発展、更なる進化を奨励することを使命としています。
私どもJeSU(日本eスポーツ連合)が2018年1月にスタートして丸6年、念願だったeスポーツ産業を包含するアワードの開催に至れたことを大変嬉しく思います。eスポーツ産業が発展し、拡大する過程において、本アワードに該当する様々な領域で活躍する個人、企業、団体が飛躍的に増えて参りました。
本アワードが大切にしている理念は、選手への賞賛、文化の醸成、社会貢献です。もちろんeスポーツの裾野を広げる方々の貢献を忘れません。
何よりも大切にしているのは「ファンとともに歩む」ということです。情熱を持ってeスポーツを追いかけるファンこそが「今、本当に輝いている人が誰なのか」を誰よりも熟知する存在です。ファンの方々に寄り添い、その瞬間のリアルな情熱を、アワードという形で歴史に残すことは、eスポーツの歴史において財産になると信じています。
ビジネス観点で注目の受賞を振り返る
数々の受賞がありましたが、本稿ではいくつかの部門をピックアップし、各受賞者のコメントとともに紹介します。
年間最優秀eスポーツプレイヤー賞 あcola選手(ZETA DIVISION所属/『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』)
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本アワードにおける「MVP」の位置付けである年間最優秀eスポーツプレイヤー賞には、ZETA DIVISION所属の「あcola」選手が選ばれました。あcola選手は『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』の国内最大規模のコミュニティ大会「篝火 #9」や世界規模の招待制大会「Smash Ultimate Summit 6」で優勝するなど、国内外で輝かしい成績を残しました。なお、あcola選手は最優秀格闘ゲームプレイヤー賞の受賞、Under18最優秀eスポーツプレイヤー賞と合わせて3冠を獲得しています。
<受賞コメント>
年間最優秀eスポーツプレイヤーに選ばれてすごくうれしいです。2023年は自分としても(結果を)意識した年でした。自分の努力が大会結果にも反映されていて「努力が報われた」と言うと少し気が早いかもしれませんが、こういった賞に現れたことを嬉しく思います。
(最優秀格闘ゲームプレイヤー賞の受賞、Under18最優秀eスポーツプレイヤー賞の受賞も含めた3冠獲得について)まだ自分でも信じられないことばかりなのですが、今年も昨年以上の結果を残せるようにこれからも頑張ります。ありがとうございました。
みんなから憧れられるような、期待を裏切らない選手になりたいです。
(ファンの方々に向けて)いつも応援ありがとうございます。応援してくれる皆さんのお陰で励まされています。逆にファンの方々の声を気にしすぎて、自分のメンタルがやられたりすることもありますが(笑)。それでも見捨てずに応援してくれるファンの皆さんのことが大好きです。
最優秀ストリーマー賞 SHAKAさん
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SHAKAさんは、FPSや格闘ゲームなど、ジャンル問わず配信活動を行っています。表彰式では、「ゲームセンス、癖になるトークで数々の視聴者を魅了した」「2023年は数々のeスポーツイベントに登場して業界を牽引した」と評されました。
<受賞コメント>
普段から好き勝手に配信しているだけなので「このような賞をいただいて良いのか」と思う部分はありますが、私の配信を見て応援してくださっている視聴者の皆様に感謝することも含めて、今回の受賞については素直に喜びたいです。
最近は配信者界隈も盛り上がっていて、配信者が表舞台に出ることも増えてきたのですが、私はあくまで配信者です。ゲームを作る方々や大会を開催する方々がいて、私たちは活動ができているので、そういった方々にこの場を借りて御礼を申し上げます。
引き続き配信は続けていきますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
最優秀eスポーツチーム賞 ZETA DIVISION
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(登壇者:ZETA DIVISION 代表 西原大輔氏)
ZETA DIVISIONは『VALORANT』を始めとしたタイトルで人気選手とストリーマーを抱える国内屈指のeスポーツチームです。本アワードでも多くのZETA DIVISIONメンバーが選出されており、「eスポーツ業界に新たな文化を築いたその功績は計り知れない」と評されました。
<受賞コメント>
ZETA DIVISION 代表の西原と申します。このような賞を頂けたことをチームを代表して御礼申し上げます。またこの場を準備してくださった関係各社様、並びにスポンサー企業の皆様、重ねて御礼申し上げます。
我々が受賞できたのは、所属チームメンバーの日々の努力の賜物だと思っております。そして、我々チームを日ごろから支えてくださる企業の皆様、そして何より我々を応援してくださるファンの皆様の存在があって、このような映えある賞を賜ったと感じております。
この度は誠にありがとうございました。
大会部門:最優秀eスポーツ大会賞 VALORANT Masters Tokyo
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(登壇者:Riot Games VALORANT Esports JAPANプロデューサー イズミコウヘイ氏)
2023年、『VALORANT』の世界大会である「VCT 2023」が日本で開催されました。大会の総観客数は3万7,000人、平均視聴者数はおよそ33万人と、圧倒的な観客数と視聴者数を記録し、大いにシーンを盛り上げました。
<受賞コメント>
Riot Gamesのイズミと申します。今回は、このような賞にお選びいただきましてありがとうございます。
2021年に始動した「VALORANT Esports」ですが、この3年間で急拡大し、昨年末にはロサンゼルスで行われた大会では、同時視聴者数180万人という規模に成長してきています。日本のファンの熱量は世界でもトップレベルですので、皆さんの期待に応えたく、「VALORANT Masters Tokyo」を実現させました。
「VALORANT Masters Tokyo」では、平日昼間にも関わらず2,500人以上の方々に来場いただき、グランドファイナルにおいては1万3,000人、期間累計3万7,000人の方々にお越しいただき大盛況に終わりました。
ここまでシーンが拡大できたのは、2021年から運営を支えてくださっている「RAGE」の皆様、協賛企業の皆様、参加チームと選手の皆様、選手の皆様の技術や想いを言葉にして、時には涙を流すこともしてくださるキャスターの皆様、eスポーツを応援するという文化を世界に発信してくださるインフルエンサーの皆様のおかげです。
何よりも、大会会場や画面の向こうで応援してくださっているファンの皆様の支えがあっての「VALORANT Masters Tokyo」の実現と成功であると考えています。
今後も「VALORANT Esports」につきまして、ご支援と応援のほどをよろしくお願いいたします。
最優秀eスポーツ功労賞
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TOPANGA 代表取締役 豊田風佑氏
功労賞をいただき、とてもありがたく思っています。これもひとえにメーカーの皆様、スポンサーの皆様、ファンの皆様の支えによって、2011年から会社を会社をやってこれました。
これからもeスポーツの社会的地位の向上のために頑張ってまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 弁護士 松本祐輝氏
私は弁護士として9年目になるのですが、2019年からeスポーツに関わる仕事に関わらせていただいております。これまで様々なチーム、団体、イベント、選手さまの案件に携わらせていただきました。誠にありがとうございます。
私だけではなく、私の事務所に所属する、先輩、後輩、他のメンバーの努力の結果でもありますので、この場を借りて感謝を申し上げます。様々な案件を通して、eスポーツの良い面、悪い面を見てきましたので、良い面は伸ばしつつ、悪い面は改善できるよう、これからも業界に貢献して参ります。
eスポーツメディア「Negitaku」 主催者 吉村尚志(Yossy)氏
今回は功労賞をいただきまして大変嬉しく思います。私がメディアを立ち上げた頃のeスポーツというのはとても小さい存在で「ゲームがスポーツとは何事だ」という風潮だったのですが、そのころから貢献をしてくださる方々は多くいました。今ではeスポーツがとても大きな存在になっているので、自分も取材活動を続けられています。
最後になりますが、20年以上続いているeスポーツのサイトというのは少なくなってきておりまして、バトルロイヤルに例えると、最後の狭い安全地帯で生き残っている数少ない存在です。サイト運営を続けてもうすぐ25年(四半世紀)になりますが、「まだやっているのか」といわれるぐらい続けていきますので、これからもよろしくお願いいたします。
授賞式後のキーマンを取材
授賞式終了後の囲み取材の様子をお届けします。
一般社団法人日本eスポーツ連合 会長 早川英樹氏
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――第1回を振り返ってみて、いかがでしたか。
第1回目ということで、どのような方々に視聴していただけるのかが未知数でしたので、多くが手探りである中、関係者の方々の尽力もあり、開催に至れたこと大変嬉しく思います。
課題としましては「全体として尺が適切だったのか」(編集部注:授賞式は4時間以上の長丁場となった)というのがあります。
とはいえ、eスポーツに関わる多岐に渡る方々のことを、このアワードを通じて多くの方に知っていただけたのは一番の成果だと考えています。
――第2回以降の展望をお聞かせください。
選手を始めとしたいろんな方々から「是非とも続けて欲しい」という声もいただいているので、今後もこのアワードを続けていきたいと考えています。
一般社団法人日本eスポーツ連合 理事 鈴木文雄氏
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――第1回を振り返ってみて、いかがでしたか。
本音で話します。
「もっと良いやり方があったのではないか」という気持ちがあります。
選手や受賞者、ファイナリストの方々に、もっと喜んでもらえる受賞のやり方があったのではないか。それらを第2回に向けた課題として捉えています。
――第2回以降の展望をお聞かせください。
「国境、文化、性別を超えて」というのを掲げている以上、賞や審査員の構成にしても女性枠を増やすことなどが必要かと思いました。
また公益的なイベントですので、チャリティーの要素を加えていくことも検討の余地があるかと思います。
――今後の課題についてお聞かせください。
今回は大きな会場で開催したのですが、集客面では苦労をしました。
配信上ではコメントで盛り上がって下さっているものの、授賞式がずっと続く構成になってしまっているので、会場に来てくださっている方々も含めて、もっと楽しめるコンテンツを考えていきたいです。
また、長丁場になってしまったことで、見ている方々にご負担をお掛けしてしまったので、その辺りは来年改善していきたいと考えています。
最優秀eスポーツチーム賞 ZETA DIVISION 代表 西原大輔氏
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――自身のチームから多くの賞を受賞した選手が出たことについて、どう思われますか。
こんなに受賞できるとは思っていませんでした。影響力のある選手を(チーム内に)多く抱えられていることを実感した1日でした。
――ゲームパブリッシャーとのやり取りで心掛けていることがあれば。
我々はタイトルの選定を重要視しています。もちろん人気のあるタイトルを選択するのも重要ですが、日本で人気がなくても海外で人気のあるタイトルを選択することもあります。パブリッシャーの方々とは、普段から密にやり取りをさせていただいています。
我々のようなeスポーツチームの役割というのは、パブリッシャーさんとファンを繋ぐ懸け橋のようなものだと考えています。どうやったらパブリッシャーさんと良い関係で歩んでいけるかを日々考えています。
――これまでのチーム運営で最も正念場だったことについて、またどうやってそれを乗り越えたのか、お聞かせください。
2024年1月で我々はチーム運営を始めて6年になります。
創設当初の「JUPITER」の頃は資金が潤沢ではなかったというのがあります。特に苦労したのは、選手を獲得することです。他チームと同じ金額で選手にオファーを出したとしても、私たちのチームは選んでもらえませんでした。
「もし(理想通りの)チームを作れれば、他のチームにも勝てていた」という状況が何度も発生しました。それは当時のとても苦い思い出でして、どうにか打破する必要がありました。いわゆる「イケているチーム」というものを、選手側は肌で感じているので、私たちもそのチーム群に入る必要があると考えました。なので1年目~2年目については、コミュニティ内で信頼をどう獲得していくかを裏テーマとして設けて、意識的に活動をしていきました。
「若さ」と「継続」そして「自浄作用」
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最後に筆者の感想です。
今回のアワードには3つのキーワードがあったように思えました。それは、「若さ」「継続」「自浄作用」です。
1つ目の「若さ」は年間最優秀選手となった高校生選手、あcola選手の若さに象徴されるものです。梅原大吾選手、ときど選手を始めとしたベテラン選手、さらにEvi選手、Laz選手を始めとした人気と勢いを兼ねそろえた選手たちを退けての受賞は、意外性がありつつも誰もが納得する結果でした。
これはeスポーツ業界全体が、若い世代の活躍を応援するという姿勢になっているようにも思えました。記念すべき第1回目のアワードにおいて、コミュニティの総論でこの結果となったという「思い切りの良さ」は、長期的に他業界からも注目される要素になるでしょう。
2つ目の「継続」については、長らく業界に貢献してきた故人の追悼がプログラムに組み込まれていたこと、また20年以上eスポーツ界隈でライター活動を続けてきた吉村尚志(Yossy)氏が功労賞を受賞したことが特に象徴しています。eスポーツという言葉が生まれる前からコミュニティの発展に寄与してきた人物に焦点が当たったことで、とても意義深いアワードになったといえます。
最後の「自浄作用」については、eスポーツコミュニティ特有の「一枚岩ではない」という点が、今後ポジティブに作用していくことを期待したキーワードです。
イベント後の囲み取材での、 早川会長と鈴木理事の発言にもあったとおり、本アワードの進行やコンテンツ内容に一切ストレスが無かったかというと、そうではありませんでした。
様々な課題が顕在化したイベントであったといえます。
具体的には、受賞者よりもプレゼンターの発言の尺が長いこと、各種大会やイベントと日程が重なったことで欠席となる受賞者が目立ったことでしょう。「ファンに寄り添う」「選手をリスペクトする」と宣言する一方、イベントの見え方としては「どちらかというと運営本位なイベント」であると捉えられても仕方がないでしょう。
勿論、プレゼンターの発言機会についてはスポンサーである以上、ある程度の尺は仕方がありません。また映画関係のアワードがそうであるように「そもそもアワードというものが運営本位である」と言われればそうですが、このモヤモヤをモヤモヤのままで終わらせない力がeスポーツ業界にはあります。
eスポーツのコミュニティは元々、草の根のコミュニティから発展したこともあり、現在も様々な価値観を持つ利害関係者で構成されています。またeスポーツと一言で表しつつも、そこには多種多様なゲームタイトルとファンが含まれています。
そういった背景から(当事者たちの中で)「eスポーツを盛り上げたい」「ゲームの地位を向上させたい」という方向性は一致しつつも、必ずしも「一枚岩ではない」というのが、eスポーツ業界の特徴だと考えられます。文化的にも「良いものは良い」「悪いものは悪い」と忖度せずに言い合える風通しの良さがあり、コミュニティ内での「自浄作用」が他業界よりも備わっているといえるでしょう。
今回の「日本eスポーツアワード」はeスポーツを愛してきたビジネスパーソンたちにとっては、1つのゴールでありつつも、自分たちの業界の良さや特徴を再認識した上でさらなる一歩を踏み出すための、スタートラインといえるでしょう。