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いまさっき、吉祥寺で行われたインディーイベント『TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2024』に展示されたメイド喫茶ADV『電気街の喫茶店』のレポートを書き終え、続いてこのシーシャ屋のADV『Hookah Haze』について書こうとしているんですが、ゲームの内容を思い出し、その落差に驚いています。
『電気街の喫茶店』って、中国の開発チームが日本のオタクの街をまぶしいくらいポップで、綺麗なものとして描いていたんですね。登場するメイドの女の子も基本的に元気な子ばかりです。僕は「いまも中国や、その他の国の方からは日本のカルチャーはこういう風に “美しいもの”として見えているのかな、音楽でも古い80年代のポップスが、海外でサブスクや動画サイトからシティポップみたいに発見されるようなものかな」なんて考えたりしていました。
対して『Hookah Haze』も舞台は秋葉原と元祖オタクの街なのですが、その雰囲気が暗く病んでいる。いまの秋葉原というか、ある退廃がアニメや漫画やゲームのキャラに及んでいる。この退廃がどこから来るのかは、おそらく国外に感知されておらず、国内に暮らしているから見えている。本作はそんな薄暗さがあり、そして淫靡なADVです。
限られた時間の中で女の子たちに水タバコを売る
この前、夜に秋葉原を歩いていたら、妙に客引きの女性が増えていることに気づきました。メイドの恰好をしているが、なにか以前とは気配が違う。この街でコンカフェが流行り出したことを思い出しました。
彼女たちの多くが、まるで泣き腫らした後みたいなアイメイクを施しているせいでしょうか。俗に “病みメイク”と呼ばれているものです。「精神が不安定だから付き合うとキツい。爆発される」ってことから “地雷系”だとか言われるファッションと一緒に語られやすい、あのメイクです。
目の周りが赤く滲み、涙袋を禍々しく照らす、号泣した後の顔見たいなメイクを望んで選択した彼女たちの声に振り向かないようにしながら、 “オタクの街”と呼ばれたこの場所で言いようのない変化が起きているのを感じていました。
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どうもあのメイクが、新宿歌舞伎町の新宿東宝ビル近くに集まる少女たちのあいだで見られるという話も見ました。秋葉原と真逆だった場所です。アイドルとか水商売に入れ込むうちに売春しながらお金を稼ぐみたいなニュースも見ました。
やがてそうしたメイクの女性がXでもInstagramでも目につくようになり、彼女らのファッションはアニメや漫画にも反映されるようになります。昔のオタクカルチャーで描かれる女の子は、ほとんど現実のファッションとは無関係なデザインでした。
でも今は違う。メンタルヘルスの不調みたいなものを押し出したファッションが席巻し、それがアニメや漫画のキャラに及んでいる(たぶんヤンデレのキャラとかそういう文脈に接続している)。そして秋葉原の文化にも影響を及ぼしている。
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前置きが長くなっちゃいましたけど、『Hookah Haze』はそうした文化の変化が露骨に反映されている雰囲気があります。ゲーム自体は一言で言えば『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』や『コーヒートーク』系ですが、それらのゲームには開発者が住む国の現実が少なからず反映されているように、本作もまた日本のある部分の現実が映ってしまっていると思います。
物語の導入からして重々しいです。主人公・炭木トオルはなんらかの病気を抱え、入院生活を続けていました。鬱屈とした日々が続く中、ある日、自分の願いを叶えるために支援制度を利用します。トオルが望んだのは、アクアリウムを育て、シーシャ屋として暮らすことでした。
支援制度はその願いを叶え、トオルは望み通り秋葉原のシーシャ屋の店長になることができました。ところがトオルの病気を抑える薬は14日分しか用意されていません。薬が切れた後はわからない。プレイヤーはトオルとして、限られた時間のなかで店を運営し、そこで出会う客たちにシーシャを出すサービスのなかでコミュニケーションを取っていくことが目的となります。
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SNSに「今日おすすめのシーシャ」と店の告知をポストし、いよいよお店を始めようと思った矢先にきな臭いかたちで最初のお客さまに出会います。
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「助けて!」とメイド姿の女の子が叫び、店内に駆け込んできました。彼女の事情を聴くと、どうもコンカフェの店員として働いていたそうなんですが、誰かに腕を掴まれ、何かをされそうになったから逃げてきたそうです。名前は愛上あむ。本名なのか、お店での名前なのかはわかりません。
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泣き続けるあむをなだめるためもあり、トオルはシーシャの準備を始めます。ここでは5種類のフレーバーを選び、今の彼女が落ち着くのにうってつけのシーシャを作っていきます。フレーバーは甘いものからスパイスが効いたものなど様々であり、組み合わせによってまったく味わいが変わってくるものです。
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トオルはあむにシーシャを渡すと、彼女はそのまま美味しそうに煙を吸い始めました。その姿は禍々しく可愛らしい相反する感情を呼び起こします。みるみるうちに、あむに笑顔が戻ってくるのですが、「頭がほわ~ってするぅ」と惚けた声を挙げました。
トオルは「吸いすぎは酸欠になるから休憩したほうがいいですよ」と静かに忠告します。このあたりの描写を観るに、実際に開発チームはシーシャを体験してるし、取材もしっかり行ってきていること感じさせました。
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このあと作中に客として登場するらしいのは、トラウマを抱えるショップ店員、そしてコミュニケーションが苦手なロリータファッションの人形作家の女などなど、なにか病んだ気配を持つ人々ばかりです。冒頭に書いたように、かつてのアニメ・ゲームのキャラで描かれた暗さと微妙に違う。
病みを押し出したファッションの人間は、コンカフェの氾濫あたりを経由して現実の秋葉原に流れてる感じもあります。愛上あむというキャラデザインにはそういう雰囲気がありますね。
秋葉原の退廃化が『Hookah Haze』のトーンに影響を与えていると感じ、少し調べてみるといろいろと見えてきました。数年前、新型コロナが蔓延し、人の密集を避けましょうという名目のもとで様々なお店が営業を難しくし、みるみるうちに潰れていきました。
その隙を縫う形で渋谷や池袋はじめ、他の繁華街の業者が空き店舗でコンカフェをスタートしていった……というのがここ数年の状況みたいです。そこへ、地雷系みたいな方がキャストとして参加しているみたいな流れでしょうか。そういう方々が通う場所としてのシーシャ屋という雰囲気があるがゆえに、『Hookah Haze』はなにか薄ら暗いのです。
綿密な取材によって生まれた、シーシャ屋の空気感
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さて、『Hookah Haze』はアニプレックスとアクワイアという、実績ある企業がタッグを組んで開発しているタイトル。今回、アニプレックス側の担当者がブースにいたため、軽く開発の背景も伺ってみました。
――そもそも秋葉原にシーシャ屋って、いまどれだけ増えているんでしょうか。リアリティがどれくらいあるのでしょうか?
「実際に増えています。 “秋葉原 シーシャ”で検索するとヒットすると思います。シーシャ屋の店舗数も日本全体で増えているらしいです。若者が飲み会の2次会とかで、『これ以上は飲めないからシーシャ行くわ』という感じで行くみたいですね」
シーシャを味わう体験や器具の描写にはリアリティが感じられますが、これは取材に基づくものなのでしょうか?
「開発チームや我々はシーシャ屋に通い詰めて、器材の撮影を許可してもらい、イラストに描き起こしています」
本作には何とも退廃的な雰囲気が感じられます。やはり開発においてはそういった空気感を意識したのでしょうか。
「歌舞伎町などが廃れたわけじゃないですが、近未来の秋葉原を舞台に夜のシーシャ屋さんがメインなので、そういった印象があるかもしれません。あとはチルな印象を出したかったので、暗めの雰囲気を採用しています。一応ゲーム内では、プレイしていくと明るい部分もありますよ」
かつてアニメやゲームの明るい印象があった秋葉原が、いまは何か暗くなりつつあるのかもしれません。そんなことを感じさせる『Hookah Haze』は2024年、ニンテンドースイッチ/PCでのリリースを予定。吐いた煙の向こうでは、いかなる結末が待ち受けているのでしょうか?