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ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第7回は『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』を取り上げます。
『新生エオルゼア』から始まったハイデリン・ゾディアーク編が『暁月のフィナーレ』で完結し、ついに新たな冒険が始まった新拡張『黄金のレガシー』。“ヒカセンの夏休み”と銘打たれた本作は、エオルゼアを離れ、西方トラル大陸が舞台となります。
あれだけ評価された『暁月のフィナーレ』のあとで、一体どんなお話を展開できるのやら……と少し不安な面もありましたが、蓋を開けてみれば『ファイナルファンタジーXIV』の新たな歴史の始まりを感じさせる素晴らしいシナリオでした。
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エオルゼアの西方に広がるトラル大陸にある多民族国家「トライヨラ」。一代にして混迷する国家をまとめ上げた名君グルージャジャは、自らの引退に際し、次代の王を選出する「継承の儀」を執り行うことにしました。
平和な世界を望むウクラマト。技術革新こそが明るい未来を作れると信じるコーナ。武力による統治を目論む第一王子ゾラージャ。双頭のマムージャ族以外を蔑んでいるバクージャジャ。この4名が、グルージャジャの仕掛けた王位継承レースに臨みます。
主人公である光の戦士は、ウクラマトに頼まれ、彼女がレースを勝ち進んでいくのを手助けすることに。その過程でウクラマトは、トライヨラで暮らすいくつもの民族の文化や考え方、規範や死生観などを学んでいくことになります。
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『暁月のフィナーレ』までは、『ファイナルファンタジー』シリーズが今までに積み上げてきたRPG像(帝国や闇の勢力との攻防、仲間との共闘や死別など)に対し、新たな1ページを刻むための、言わばセルフパロディ的な部分も感じるストーリーだったと思いますが、その軛から解き放たれた本作は、あらゆる意味で非常に現代的なお話でした。
いくつもの価値観がひしめき合い、不安定ながらも連王グルージャジャの伝説によって何とか保たれているトライヨラは、そのなかにいくつもの問題を抱えています。光の戦士にとっては観光先であり、ワクワクドキドキの冒険が待つ常夏の楽園に見えるのかもしれませんが、それはあくまで外部の視点であり、どこの現地にもそれなりに“ワケ”があるもんです。
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そのトライヨラを治めるために、それぞれの継承者候補が持ち出すマニフェストは、どれもこれも一理あるもので、皆応援したくなりますし、同時にツッコミたくもなる絶妙な塩梅です。ハト派か、タカ派か、伝統を守るべきか、技術革新を進めるべきか、はたまた絶対的な排他主義か……。
そして候補者個々人がそれらの信条を持ち得るまでに、彼らが辿ったパーソナルな物語も同時に描かれます。血統の正当性や、認められないことへの劣等感、留学先で見た他国との圧倒的な差などなど。
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大陸を駆け回り、あらゆる驚異と戦い(途中で「美味しんぼ」みたいな対決もありつつ)今のトライヨラに必要なものは何かが見えてきた頃、ついに王が選出されます。誰が、どんな思いで、この国をまとめ上げるのか……。今までメインストーリーに絡んでこなかった部外者たちの物語でありながら、ここまで行く末が気になるように引っ張れるのはスゴいことですよね。
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RPGは古くから国家や社会といった枠組みを舞台装置として描いてきましたが、あくまでそれは聖なる者たち/選ばれし者たちが活躍するための布石に過ぎなかったパターンが多かったかと思います。実際の世界史の動きをシミュレートして楽しむなら、流石にRTSや4Xに軍配が上がることでしょう。
しかし『FF14』はここに来て、今までに繰り返し描いてきた政治劇のパートが更にこなれてきた印象があり、政治家を志す人間にはどんなメンタリティが必要なのか、歴史が揺れ動く瞬間を大河ファンタジーはどう描くべきなのか……といった点を、等身大の主人公がすぐ横から見届けるというミクロな面白さを達成できていたかと思います。もちろん政治劇だけではなく、『ファイナルファンタジー』らしい壮大な戦いもちゃんと用意されているのでご安心ください。
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本作は気楽に遊べる娯楽ファンタジーのビデオゲームではありますが、これだけの示唆に富んだシナリオが、何か国語にも訳され、リアルタイムで世界中のプレイヤーが同時に遊んでいることの意義を考えると、文化も信条も異なる人々を緩やかに繋げる「言語」として機能しているのではないかとすら考えてしまいました。
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