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Tencentが2024年7月11日に中国国内で配信を開始した『ニード・フォー・スピード: アッセンブル(極品飛車:集結)』が、本国のレースゲーマー層から人気を集めています。同作はElectronic Artsによるストリートレースを題材としたレースゲームシリーズのスマートフォン向けアプリで、日本国内でも多くのシリーズファンを抱える人気IPです。
PC&コンソールゲーム機向けには、2022年12月に発売した『ニード・フォー・スピード アンバウンド』が登場してますが、Steamでは“賛否両論”の評価で固まってしまっている様子。しかし、これまでの度重なるアップデートによって遊び易く変化を遂げてきているようでもあります。
そうした中、中国発の大人気eスポーツMOBA 『Honor of Kings(王者栄耀)』を手がけたTiMi Studiosが開発する「NFS」シリーズ最新作が中国で配信され、海外ユーザーを中心に注目を集めています。X(旧Twitter)では非公式のニュース発信アカウントまで登場しているほどでした。
そこで今回は、そんなスマートフォン向けに登場した『ニード・フォー・スピード: アッセンブル』をプレイ。最近はあまりレースゲームにも触れず、現実でもAT車の運転すらビビり散らかしているペーパードライバーな筆者が、その所感を少してもお伝えできればと思います。
◆退屈な日常に中指を突き立てる走り屋ライフ。警察から逃げ、愛車をデコって高みを目指していく
「NFS」シリーズはこれまで多くのタイトルが発売されてきました。前身となる『オーバードライビン』シリーズから考えると、初代プレイステーションやセガサターン、プレイステーション・ポータブルといった携帯機、さらにアーケード版まで存在し、シリーズは確実にその歴史を紡いできました。2014年には実写映画も公開され、Electronic Artsを代表する作品のひとつに数えても良いでしょう。
シリーズで共通しているのは反社会的な「ストリートレース」を題材としていること。架空の都市を舞台にスピードジャンキーな走り屋が集い、公道をコースに見立ててチューンされたマシンで腕前を競い合っているという、なんとも迷惑千万な世界観なのです。
そしてそんな無法者どもを取り締まろうとする、警察車両とのカーチェイスもシリーズの魅力となっています。タイトルによってはプレイヤーが警察側として、都市を走り回る不届者を狙う、真逆のシチュエーションが楽しめる作品もありました。
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本作では、基本的に走り屋として各モードをプレイしていきますが、「熱力追踪」と呼ばれるモードでは、走り屋側と警察側に分かれてプレイヤー同士のカーチェイスが展開されていきます。走り屋側はマップ上でのイベントやレースをこなし、警察側は走り屋の車を攻撃することで挑戦中のアクティビティを邪魔できます。
どちらの勢力でも目的を達成する毎に「熱度」が高まっていき、ある段階にまで「熱度レベル」を高めればチャンレンジ成功報酬が貰える......といった具合です。マップ上には便利アイテムも存在するので、それらを上手く活用しながら自分の車が破壊されないよう、ミッションをこなしていくわけです。
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この熱力追踪モードでユニークなのは“レースの開催方法”でしょう。走り屋たちがマップに点在するレース参加ポイントから参加申請することで、ガレージに集った走り屋たちのレースが催される仕組みです。
ちなみに警察側のプレイヤーは熱度レベルが高ければそのレースに強引に介入できます。レース中ビルの陰から警察車両がサイレンを鳴らし、華麗なドリフトを決めながら走り屋を捕らえようとコースへ乱入してくる姿は、アクション映画のワンシーンそのものでした。
レースが開催されていなくても、マップ上では多数の警察車両が走り屋たちを追い回し、公園の芝生内だろうと、フードコートエリアの中だろうと、お構いなしにカーチェイス。走り屋と警察が一緒に川の中へダイブしてしまうことさえあります。あまりにカオス。
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熱力追踪モードは、なんだか危険そうなヤツらによる秘密の集会、集団で街中の爆走、警察車両との激しいカーチェイスなどなど「赤信号、みんなで渡れば怖くない」を地で行く反抗的な遊びが詰まっており、何かと規制の厳しい中国国内において「よくもまあ配信できたなぁ」と、感じてしまう仕上がりです。
実に「NFS」シリーズらしい特徴的なモードですが、もちろんマッチングしたプレイヤーと純粋に腕を競い合うスタンダードなモードもあります。こちらは専用コースによるレースゲームらしい走りが楽しめるので、比較的遊びやすい印象を受けました。
熱力追踪モードで開かれるレースというのは、オープンワールドのマップ上にコースが設定される仕組み上、都市の入り組んだ構造ゆえの走りづらさが目立ちます。また、アイテムによる攻防戦も絡むので、レース部分を楽しみたい層には好みが分かれそうです。
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なお、オープンワールドのマップは熱力追踪モード以外でも走れます。警察に追われることもなく、無数のプレイヤーたちが走り回る広大なマップ上をフリーランしながら、入手したばかりの車を自由に試運転したり、マップ上で誰かが記録を残したタイムアタックに挑戦したりと、これが気ままに遊べて楽しい。
このマップはプレイヤーランクが上がる毎に、順次範囲が広がるようになっていて、ゲームプレイのモチベーションに繋がります。
都市の景観自体も良く出来ていて、ハイエンドなスマートフォン端末でグラフィック設定を引き上げれば、作り込まれた街並みの中をドライブしても面白そうです。しかし、やたらと車のスピードが出やすい上に、建物と建物の狭い間に愛車が挟まり身動きが取れないプレイヤーもチラホラと見かけるので、走る場所は考えた方が良いかもしれません。
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ゲーム中に手に入れた車はカラーリングの変更からその車向けに用意されたカスタムパーツでの外装変更、ステッカーやデコレーションアイテムのほか、車高を上げたり下げたり、タイヤを八の字型にしたりもできちゃいます。
たとえリアルでは厭われそうなカスタマイズであったとしても、ゲーム内であれば自由にマイカーを弄くり回せるのが、レースゲームの醍醐味。ド派手なカスタマイズで自分の個性を思う存分発揮したくなるのが走り屋の性というものでしょうか。
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「NFS」シリーズは、レースゲームの中でもかなりアクション寄りな作風です。簡単操作で高級スポーツカーをダイナミックに乗り回す爽快感が持ち味とも言えましょう。本作でもスマートフォン向けのレースゲームながらに、そうした成分が色濃く出ていたのは言うまでもありません。
角度の付いた直角カーブをドリフトで切り抜ける。車体同士が火花を散らしてぶつかり合い、有利なラインを奪い合う。一気に加速するブーストの疾走感と、やり過ぎなほど大ジャンプする高台など、レース中の視覚効果と体験はとにかく派手で、単なる「レース」というより“レースバトル”と形容した方がしっくりきます。
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しかし、こうした高度な駆け引きやアクション性の高い挙動も、全て手軽な操作性があってのもの。デフォルト操作はアクセルボタンを押しただけで車が自動加速するようになっていて、プレイヤーは画面左側にある左右の方向キーと、画面右側の大きなサイドブレーキボタンを意識すれば、大体のコースをドリフト込みで走り切れてしまいます。
これくらいの操作性ならば、ペーパードライバーな筆者でも、サイドブレーキを入れるタイミングとブーストの使い所を気にかけるだけで爆走できてしまいます。警察車両に囲まれても、壁に激突させて振り切ってしまうパワープレイができるのです(指名手配待ったなし)。
また、ライバルと差をつける細かいテクニックを実践形式で学ぶチュートリアルコースもしっかり完備。自分のスキルに伸び悩んだと感じたら、すぐ頼れるのが嬉しいです。こうした新規プレイヤーの参入障壁を下げる気遣いは、流石のTiMi Studiosといったところでしょうか。
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◆競合タイトルはNetEaseの『レーシングマスター』。作風の違いからより広いプレイヤー層にアプローチ
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中国国内でほかに根強く支持されているレースゲームといえば、NetEaseが配信している『レーシングマスター』でしょう。ゲームジャンルを考えても『ニード・フォー・スピード: アッセンブル』の競合タイトルに位置するものと思われます。なお、『レーシングマスター』は日本展開も決まっており、本稿執筆時点では事前登録受付中のタイトルです。
日本車を含む実在の有名スポーツカーをより前面に押し出しつつ、写実的なリアリティを追求している傾向が見られるゲームとなっています。レースゲーム好きはもちろんですが、それ以上にコアな車好きへのアプローチが日本版公式Xの投稿「#レーマスマガジン」からも見て取れます。
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一方、『ニード・フォー・スピード: アッセンブル』は、台湾出身で若年層に支持される人気アーティストのJay Chou氏を公式アンバサダーに起用し、Electronic Artsの公式ライセンスを受けて開発されたオープンワールドレーシングゲームということを大々的にアピール。
先行してサービスを運営し続け、台湾・香港でも車好きのプレイヤー層を中心にシェアを伸ばしてきたと考えられる『レーシングマスター』に比べ、インフルエンサー起用で食いつく若い世代と、既存のゲームファンに向けたアピールによって、獲得するプレイヤー層を上手く差別化してきたのではないかと思います。
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また、本作はゲーム中の演出において、現実では考えられないネオンサインのエフェクトが多用されたり、キャッチーなヒップホップをBGMに使用したりしていました。『レーシングマスター』のリアル志向とは対極的に、従来の「NFS」シリーズらしさ、つまりゲーム志向な点についても明確に異なる差別化ポイントです。
恐らくこうした世界観はコアな車好きファンよりは、サブカルチャーに馴染みやすい若年層を中心としたカジュアルプレイヤーに支持されやすい特徴でしょう。しかも中国国内のプレイヤーだけではなく、グローバルな「NFS」シリーズファンにとっても親しみやすい要素になり得ます。
そして今回のゲームプレイでは時間の関係上、触れるまでには至りませんでしたが、本作にはマップエディター機能を駆使し、制作したコースでマルチプレイも楽しめるプレイヤードリブンな創作系コンテンツも登場しています。遊びの幅広さに関してはゲーマー層に刺さりそうな部分です。
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そんな『ニード・フォー・スピード: アッセンブル』ですが、2024年8月中には台湾・香港の繁体字圏においてもリリースが決定しました。これにより、新規プレイヤーの流入に更なる拍車がかかることになります。
本作を配信するTencentは、グローバルゲームブランドのLevel Infiniteという強固な地盤を持っており、「NFS」シリーズというIPを世界に発信しやすい環境が整っています。現状ゲームとしての完成度も高く、海外ゲーマーたちからの期待も寄せられている本作ですが、果たして今後グローバル展開される可能性はあるのでしょうか。