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「ゲームばかりしてると馬鹿になる!」
かつて、大人からそう言われてきた人は少なくないはずです。しかしコンピューターゲームの歴史を紐解くと「教育用ソフト」というジャンルも数多く開発されていることが確認できます。このように、遊びながら学ぶことができるソフトは、古くから存在しました。
今回は「教育用ソフト」というテーマで筆を進めていきたいと思います。
◆案外難しい『ドンキーコングJR.の算数遊び』
先日、ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Onlineにて『ドンキーコングJR.の算数遊び』が追加されました。
これは『ドンキーコングJR.』のシステムを踏襲しつつ、算数ができる内容として開発された教育用ソフト。小学1年生で学ぶ簡単な計算から、3桁の負の数を算出する難しい計算までカバーします。これ、大人がやっても結構難しかったりするんですよ(筆者が算数苦手なだけか?)
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2人対戦プレイが可能で、その場合は「計算の速さ」も勝敗を分けます。正確かつ素早い暗算が求められる点で、このソフトは確かに教育用ソフトとしての役割をちゃんと果たしていると言えます。
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このように、それまでは「子供の玩具」と思われていた家庭用ゲーム機を学習や能力開発に生かす試みは、しばしば行われていたのです。
◆ポパイと一緒に学ぶ英単語
この『ドンキーコングJR.の算数遊び』が発売されたのは1983年12月。その1ヶ月前には、やはり任天堂から『ポパイの英語遊び』がリリースされています。
これはステージにあるひとつひとつのアルファベットを拾い、特定の英単語を組み立てるという内容。正確な文字の綴りを要求されるので、やってみると確かに英語の勉強になったことを覚えています。
ただ、容量の関係からなのかできるのは「英単語の組み立て」だけで、文章を組み立てることはできませんでした。そのあたりは弱点と言えば弱点なのですが、よく考えれば日本語を学びたい外国人がこのゲームをプレイすることもできるはず。こちらもよくできた教育用ソフトと言えます。
◆昨今の教育現場では『桃鉄』が注目される
そんな教育用ソフトですが、80年代の学校教育に活用されることはありませんでした。
当時の大人たちにとって、ファミコンは「新しい技術」。そこには常に偏見がつきまとい、「ゲームは子供の脳に悪影響を及ぼす」という意見まで叫ばれました。教育現場にゲームが導入されるまで、そこから数十年の時間を要することになります。
2024年、最も注目されているソフトは『桃太郎電鉄 教育版』ではないでしょうか。
これは従来の『桃鉄』シリーズのルールを踏襲しながらも「貧乏神が出ない」「所持金が乱高下しない」といった調整が加えられた教育現場向けゲーム。日本各地の地理や地名、名産を覚えることができます。
『桃太郎電鉄 教育版』は上記のファミコン2作品とは教科が異なるとはいえ、「学習の中に遊びの要素を加える」という点では共通しています。
少し前までの学校教育とは、先生が黒板に書いたものをそっくりノートに書き写したり、出させたプリントを保存したり、そこに解答を記載したり……という「言われたことを完璧にやる」内容でした。答えのみならず、そこにたどり着くまでの流れまできっちり整備され、終始脱線なく通過することを求められる教育。
しかし、「板書がどうしてもできない(筆者自身が今でもそうです)」「文字・数字のインプットはできるけどアウトプットはできない」という特性を持つ児童や生徒がどの学校にも一定数存在することがようやく取り沙汰され、教育現場はそれに対応できる答えを持ち合わせていませんでした。
そこへ、今まで大人たちが怪訝な目で見続けてきたゲームが役割を発揮するようになります。
◆時代を先取りしていたファミコン2作品
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『ドンキーコングJR.の算数遊び』の当時先進的な点は、「式から答えを出す」のではなく「答えから式を出す」という部分です。そして『ポパイの英語遊び』は、英単語さえ組み立てれば文字の綴り順は問われないルールでした。
つまり、答えを出すための道順はプレイヤーによって異なるのです。徹頭徹尾、先生の言われた通りの流れをたどらなければならなかった当時の学校教育と比較すると、ドンキーコングもポパイもあまりに先鋭的な方法で子供たちの学習に一役買おうとしていたのです。
「自由なルート選択から答えを導き出す」。現代の『桃太郎電鉄 教育版』にもつながるコンセプトは、筆者が生まれる前の1983年に具現化していたことは特筆に値します。
学校で『桃鉄』や『マインクラフト』をプレイしたことがある小中学生の皆さんは、夏休み期間にファミリーコンピュータ Nintendo Switch Onlineで配信中の『ドンキーコングJR.の算数遊び』をぜひ、遊んでみてはいかがでしょうか。