■尊い「御子」は“生贄”? 序盤から驚愕の展開
本作を遊んで「異世界ファンタジー」だと強く感じたもうひとつの理由は、価値観の相違です。この世界では、マナの樹へ旅立つ「御子」が任命されます。その御子を連れていくのが、主人公であるヴァルが担う「魂の守り人」という役目です。
そしてヴァルの村では、幼なじみの少女・ヒナが「火の御子」に選ばれました。この時、ヒナは笑顔を浮かべ、ヴァルも大いに喜びます。また、周囲の村人も祝福すると共に、ヒナに羨望のまなざしを送ります。
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ちなみに「御子」の役目は、この世界に満ちるマナの循環を支えるため、マナの樹にその魂を捧げることです。私たちの感覚で分かりやすく表現するなら──生贄です。
大勢の命、いえ、世界そのものを支えるためと言われても、自分が命を落とすのは誰でも嫌でしょう。情けない話ですが、筆者も絶対にお断りです。仮に選ばれたら逃げ出すでしょうし、追手を傷つけてでもわが身を守ると思います。
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しかしこの世界にいる人々の大半は、「御子」の役割を尊く、素晴らしいと感じています。できれば自分が代わりになりたい、と思うほどに。その価値観や倫理観は、現実世界に(少なくとも現代日本に)生きる私たちからすれば、共感できるとは言い難い考え方です。
ゲームという遊びはインタラクティブ性が高いため、感情移入もしやすい娯楽です。だからこそ、価値観の相違はより大きく響き、「御子」を貴び崇める人々に強い違和感を覚えます。
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しかも、「御子」の役目を尊く感じているのは、ヴァルの村だけではありません。パーティに加わるカリナも「御子」に憧れを持ち、選ばれるために自ら大精霊の元へ行くほど。他の「御子」たちも、選ばれた栄誉を誇りとし、忌避する様子は一切見せません。
■価値観の相違に“異世界感”を覚える
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こうした価値観の相違を受け入れられず、プレイを諦めてしまう人がいても、決しておかしな話ではないでしょう。そして、この違和感を通じて筆者が味わったのは、「異世界ファンタジー」としての実感でした。
世界が違えば常識も変わり、考え方や認識も異なります。理屈で考えれば、マナを循環させるために「御子」を捧げるのが避けられない世界なら、「御子」の価値を引き上げて憧れの対象にするか、底辺の罪人に「御子」を強要する仕組みなどが生まれてもおかしくありません。
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後者の場合は反発も強く、安定して長く続くシステムにならない恐れもあります。社会的な価値観の定着は一苦労ですが、一度広まれば、それなりに安定して続いていく可能性が少なくないでしょう。『聖剣伝説 VISIONS of MANA』の世界(=社会)が前者を選んだと考えれば、共感はできませんが傍観者として理解はできます。
筆者も、生贄同然の「御子」を貴ぶ世界観に同意はまったくできませんが、そこも含めて「これは異世界の物語なのか」と認識したら、異世界ファンタジーである『聖剣伝説 VISIONS of MANA』を味わうというスタイルが自分の中で芽生え、違和感は今後の展開への興味に変わりました。
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あらゆるファンタジー作品で違う価値観ばかり提示されたら、さすがに疲れてしまうかもしれません。そのため、全部が全部そうなればいいとは思いませんが、「異世界なのに、どこも現代社会と同じ価値観」というのも、考えて見れば少々味気のない話です。
『聖剣伝説 VISIONS of MANA』の物語(特に導入部)が、人を選ぶことは間違いないでしょう。また、詳しいネタバレはしませんが、価値感の違いという入口から始まったにしては、物語が迎える着地点の意外性は低いかもしれません。
そうした点もありますが、しっかりと「異世界」を提示する本作の姿勢は、個人的に興味深く受け止めています。グラフィックと物語の双方から、『聖剣伝説』という異世界ファンタジーを感じられたのが、大きな収穫でした。
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世界観や進化したグラフィックも含め、新たな『聖剣伝説』を味わうことができた『聖剣伝説 VISIONS of MANA』に、筆者は満足できる手ごたえを覚えました。
先ほども述べた通り、相性が合うか合わないか、大きく分かれる作品でもあります。「御子」についての価値観に馴染めない人も多いでしょうし、バトルの広がりと組み合わせの多彩さを味わえるのも中盤付近からです。
また本文では触れなかったものの、サブクエストは味わいが薄く、もっと世界観やキャラを広げる内容にするか、それが難しいなら思い切ってカットしても良かったかもしれません。
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ほかにも、ファストトラベルが限定的、状況的にシステムが制限されるタイミングがあるなど、細かい不満も皆無ではありません。しかし、それ以上の魅力を感じて、プレイ意欲が途切れなかったのも事実です。
雰囲気満点のフィールドは解像度とは別の意味で美しく、情景を心ゆくまで楽しみました。美しい野山を駆け回ったプレイ体験は、今後も記憶に残ることでしょう。『聖剣伝説』という異世界は、今も魅力に溢れていました。