2025年1月1日、『崩壊:スターレイル』で配信される新たなアップデート「Ver.3.0」について紹介する予告番組が放送されました。
新たな舞台として列車組が辿り着くのは「オンパロス」。ブラックスワンの奨めで向かうことになったこの領域は、開拓の星神“アキヴィリ”すらも踏み込んだことのない「永遠の地」です。
「オンパロス」はギリシャ神話や古代ローマの文化を彷彿とさせるビジュアル。12いるという「タイタン」と呼ばれる存在は、名前を同じくする神話上の存在「巨神族(タイタン)」を想起させますし、こちらも同じく“12”柱の神を指しています。
ギリシャ神話における「巨神族(タイタン)」は「ティーターノマキアー」と呼ばれる戦争を起こし、ゼウス率いる「オリュンポス十二神」と10年にわたって戦い続けました。そして「巨神族(タイタン)」には、「オンパロス」の世界設定で度々語られる“火”がキーワードとなるエピソードを持つ神も含まれています。
また、古代ローマらしさを感じられるロケーションとしては「公衆浴場(テルマエ)」らしきエリアも見過ごせません。その他の地域も西洋の古代哲学からインスピレーションを受けたと見られる名称だったりと、神話や古代史には「オンパロス」と繋がる糸口が揃っています。
そこで今回は連載コンテンツ「ゲームで世界を観る」の特別編として、現時点で公開されている「オンパロス」の情報から読み取れる古代ローマ/ギリシャ神話にまつわるトピックを解説。また、その奥に秘められていそうな謎に向けたGame*Spark独自の考察もお届けします。
『崩壊:スターレイル』インストールはこちらご存知「テルマエ」も。古代ローマ時代における“水”の文化
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大都市を築くにあたって最も重要なのは、増えていく人口を養えるだけの水源を確保することです。飲み水に始まり、生活用水、下水、農業、工業の動力まで、定住生活にはとにもかくにも水が必要不可欠。使える水の量によって都市の限界は自ずと決まると言っても過言ではありません。
治水技術が未熟だった時代に水を司るのは神の領域であり、暦や気象の知識を持つ人間が強い権力を保持していました。そのため、水を豊富に扱えるのは強い権威の誇示と同等なのです。よく滋賀県のギャグとして「琵琶湖の水止めたろか」なんてフレーズが使われますが、明治期に琵琶湖疏水でそれをやられていたら大変なことになっていたでしょう。
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古代では都市の側に水源があるのが絶対条件で、その供給に限度が来るとそれ以上の人口は抱えきれませんでした。そこでローマは遠くの水源から水を引っ張ってくる「水道」の技術を発展させました(上下水道の技術自体はエジプトやメソポタミアまで遡ります)。
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ローマで最初の水道を建設したのは、アッピア街道にも携わった技師アッピウス・クラウディウス・カエクス。紀元前312年に建設された水道はその名を取ってアッピア水道と呼ばれます。
16キロメートル離れた水源から僅かな傾斜で流れ行くように測量し、その高低差はたった6メートル。その精緻さを実現できる建築技術は、今を以てしても驚きです。こうしたローマ水道は500年の長い間に11本整備され、最も長い旧アニオ水道は91キロメートル離れた現アニエーネ川から引かれていました。ローマが滅んだ後も頑丈なコンクリートでできた水道橋は残り続け、現在も一部は現役の上水道として利用しています。当時の水量は1日で1人あたり500リットルと推定されており、現代をも超える供給を達成していたと考えられます。
オンパロスの建造物にもアーチが象徴的な水道橋の要素を大胆に取り入れていて、街中には蕩々と溢れんばかりの水量が流れ続けているのが見られます。岩山の上なので、本来であればこんなところに水が流れてくるはずもないのですが、水道橋に水を遡らせる技術があるのかもしれません。それもまた、何かの恩恵なのでしょうか。
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上水は水道管を通して街中に供給し、基本的には公共の水汲み場や浴場などに使われました。もし自家に水を引きたい場合は、国に使用料を払った上で自前の水道管を接続します。陶製の水道管もありますが、金属の鉛を使うことも多く、これによって鉛中毒を引き起こしていたとも言われています(諸説あり。鉛の害については当時から認識されていた)。
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豊富な水量を利用してローマを大いに活気づかせたのが公衆浴場、いわゆる「テルマエ」です。イタリアは火山が多く温泉も湧くので、バイアエのような人気の湯治場もありました。しかし水道が整備されるまではローマで水浴びが出来るのはごく稀で、ほとんどは“市”が立つタイミング、9日に1回しか体を洗えませんでした。帝政期に入ると水量が増えて銭湯の人気が高まり、現代のスーパー銭湯のような大規模総合レジャー施設としての整備を皇帝自らの名前で行うようになります。
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その中でも大規模で特に有名なのが、第22代皇帝カラカラの時代に建てられた「カラカラ浴場(アントニヌス浴場)」です。最大約1600人を収容できる広さがあり、運動場で汗を掻いた後に見張りのいる脱衣所に荷物を預け、サウナ、温浴、冷水、遊泳用のプールを巡ってから、諸処室や庭園でリラックスする。あかすりのサービスもありました。
毎日をさっぱりした気分で過ごせることこそ、まさしく文明的なローマ市民の誇り。戦いに赴く兵士の疲れも癒やせるので、皇帝の名前でそれを提供することはとても大きな意味があったのです。なにより、カラカラ帝も浴場完成前にプールで泳いだというほどですから、皇帝自身が誰よりも楽しみにしていたに違いありません。一方で「風紀の乱れ」もつきもので、キリスト教の国教化や帝国の崩壊によって、テルマエ文化は歴史の中に埋もれてしまいました。
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どうやらオクヘイマには驚くほど広いテルマエがあり、ここを見るだけでもオンパロスに来る価値があると言って良いでしょう。中央の大浴場にある滝は見事なもので、まさにカラカラ浴場のファンタジー版。影のある退廃に満ちたピノコニーと違い、ここに集まる人々は心から癒やしの時間を享受しているようです。
『崩壊:スターレイル』インストールはこちらオンパロスを発展させた「タイタンの火」とは? ギリシャ神話の「プロメテウス」から辿る
ギリシャ神話における「火」のエピソードと言えば、神々から火を盗んで人類に与えたプロメテウスを連想します。テクノロジーやSFの分野でも「プロメテウスの火」というメタファーで“人間に扱いきれない技術”を表したりもします。
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先述したとおり、オンパロスの物語に現れる「タイタン」や「黄金裔」からは「オリュンポス十二神」と「巨神族」を連想できますが、この神々が人間(原初は男のみ)の創造主かどうかは、実はギリシャ神話では明確に定まってはいません。「人間と同様に生まれた」あるいは「ゼウスがプロメテウスに命じて作らせた」などのバリエーションがあるようです。いずれにしても、ゼウスは原初の人間を快く思っておらず、神の技術である「火」を使わせようとはしませんでした。それを哀れんだプロメテウスは、神々に隠れて人間に火を与えたのです。
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ゼウスは鍛冶の神ヘパイストスに人間の最初の女性「パンドラ」を作らせ、人間に災いと混乱をもたらそうと画策します。神が彼女に持たせたのがあらゆる災いを詰め込んだ「壷(箱)」で、決して開けてはならないと厳命しつつも、ゼウスが与えた好奇心によってパンドラは蓋を開けてしまいました。こうして人の世には苦しみが満ちることになったのです。
火の力を持ったことで人間は文明を発展させましたが、それは神をも恐れぬ驕りの原因ともなり、それを嫌がる神々が人間に罰を与える、それが大洪水などの天変地異だと解釈されてきました。
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パンドラの名前には「あらゆる贈り物」の意味があり、神々から多くの才能を与えられていました。美を司る女神からは美貌を、技術を司る女神アテナからは織物の技を授かっています。つまり、パンドラはギリシャにおける理想の女性像の一つでもあります。
またギリシャにおいては、機織りや糸紡ぎなど糸を扱う仕事は女性のものとされていました。奴隷を持つ上流階級の家においても、機織りで服を作るのは婦人の仕事です。アテナを奉じる都市アテネで行われる祭り「パナテナイア」では、機織りの女神アテナに捧げる衣服(ペプロス)をで作る4人(エルガスティナイ)に選ばれるのが、街の女性にとって大きな名誉でした。
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『崩壊:スターレイル』に登場するアグライアは機織りや服の仕立てが得意とされていて、そのうえ名前は美の女神アフロディテの侍女に由来します。アグライア自体の名前はメジャーではありませんが、ゼウスとエウリュノメの娘達「三美神(カリテス/チャリテス)」の1柱として知られており、芸術のモチーフにもよく登場します。アグライアは「輝き」を司るとされ、「黄金」「神火」といった光り輝くものに関わる名前としてはよくマッチしていますね。
オンパロスで紡がれる物語はまだ見えていないものの、彼女はまさに才色を兼ねたギリシャ女性を体現したキャラクターと言えるかもしれません。
執筆: Skollfang
『崩壊:スターレイル』インストールはこちら我々の住む世界で語り継がれてきた神話や実在した文化について取り上げたところで、次は「オンパロス」で体験できるであろう物語やゲームプレイについて予想していきます。ここからは、あくまでGame*Spark編集部が立てた仮説であることにご留意ください。
「タイタン」と「ティタノマキア」からストーリー展開を考察
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ギリシャ神話で「タイタン」といえば、ウラノスとガイアの間に生まれた12柱の神々がいます。そして、このタイタンたちはゼウスをはじめとする「オリュンポス十二神」と10年にわたる大戦「ティタノマキア(ティーターノマキアー)」を起こしますが、最後には敗れ、「オリュンポス十二神」に封印されてしまいます。「火」に注目して先に述べた「プロメテウス」は、このティタノマキアでは“ゼウス側についた”というエピソードでも知られています。
『崩壊:スターレイル』の世界でも、「黄金裔」とタイタンは千年以上におよぶ戦いをつづけているので、黄金裔=オリュンポス十二神とそのまま解釈すれば、最後には「黄金裔」が勝利するといったストーリーが予想できます。
しかし、ここで気になるのは1月1日の予告番組にて明かされた“「歳月」のタイタン「オロニクス」に謁見し、主人公は「過去から力を得る能力」を手に入れる”というストーリーです。どうやら主人公たちは、時間にまつわる力で世界を救っていくのだそう。
記憶の運命主人公たちは「歳月」のタイタン“オロニクス”に謁見し、過去から力を得る能力を手に入れる。オンパロスには「オロニクスの神跡」という不思議な現象が起きている。「歳月」のタイタンの司祭は、その神力を借りながら、現実を変えることができる。 |
ギリシャ神話で“時間を司る神”というとタイタンの1柱、「クロノス」を想起します。しかし、クロノスはティタノマキアを起こした張本人でもあるため、そのオロニクスが「黄金裔や主人公側に協力する」という展開に少し違和感を覚えます。
もしかしたら、オロニクスには別の思惑があり、主人公たちを利用しようとしているのでは......?最初は味方のように振る舞って、実はオロニクスが裏で糸を引いていたなんてこともあるかもしれません。
今回の「黒幕」は誰なのか?
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では、オンパロス編における黒幕は誰なのでしょうか。仙舟「羅浮」やピノコニーでも、これまでのストーリーの裏には必ず「黒幕」の暗躍がありました。
オンパロスでの最初の敵は「紛争」のタイタン「ニカドリー」ということが明かされましたが、最初に戦っている陣営=黒幕の陣営ではないとすれば、敵はタイタン以外の「何か」という予想も立てられます。
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そこで気になるのが、オンパロスが現在のように至った原因です。公式YouTubeにて公開されている動画「黄金の叙事詩PV 『オンパロス英雄記』」では、天外から「暗黒の潮」が降り注ぎ、文明を発展させたと言われる「タイタン」たちが狂気に陥り、人々が殺し合うようになったと語られています。
『崩壊:スターレイル』において、“世界が滅ぶくらいの外的要因”には必ずと言っていいほど「壊滅」が関係しています。
ここで思い出したいのが、オンパロスに関係する“3つの運命”。Ver.2.7で姫子が「オンパロスは3つの運命の影響を受けている世界」で、そのひとつが「知恵」だと語っています。
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Ver.3.0では、プレイアブルキャラに「記憶」の運命が追加されますし、オンパロスが「ガーデンの鏡にしか映らない世界」と言われていることから、残りの運命のひとつは「記憶」であることも考察できるでしょう。
そして、その残りのひとつこそが滅亡の原因を作り出した「壊滅」なのではないでしょうか。さらに言えば、筆者はその黒幕が「すでに登場しているキャラクター」の可能性もあると考えています。
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「オンパロス」で展開する物語はどうなる!?
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停雲だけではなく、Ver.2.7ではサンデーにもスポットが当てられ、列車組に合流することになりました。オンパロスでの活躍は見られるのでしょうか?また、同名の宇宙ステーションを作り上げた「ヘルタ」の本体「マダム・ヘルタ」がプレイアブル化するのもこのVer.3.0です。「知恵」の使令である彼女がオンパロスとどのように関わっていくのかも、気になるところ。「天才クラブ」の面々のことを考えると、主人公たちに完全に味方してくれるとは限りませんし、マダム・ヘルタの雰囲気にはどこか“妖しさ”があります。
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ヘルタは序盤から登場していたものの、その姿はあくまで本体ではなく「人形」でした。さらに、その時々の気分で知的探究心の矛先がコロコロ移りゆくという変わり者。そんな彼女ですが、「知恵」の運命の影響を受けているというオンパロスには興味を持っているように見えます。もしかしたら「知恵」を満たすために、今回は主人公たちを振り回すような役回りになるかもしれませんね。
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そして「記憶」といえば、もうひとつ気になるのが「三月なのか」です。記憶を失っている彼女が、この「記憶」の世界のオンパロスでどのようにストーリーに絡んでくるのか、記憶を思い出すようなことはあるのか。
どちらにせよ、Ver.3.0では今まで大きな謎として隠されていた「三月なのか」の過去が少しは明かされるかもしれません。この物語はこれから約1年をかけて展開していくとのことなので、まずは新世界「オンパロス」の実装を楽しみに待ちながら、ストーリーの行く末にも注目していきましょう。
執筆: 松田和真
『崩壊:スターレイル』インストールはこちら