2008年8月25日(日本では26日未明)、アメリカのサンノゼで「Eスポーツワールドカップ(ESWC)」
さて、観戦者の立場では、Eスポーツの国際大会、しかも選手たちが一堂に会するオフライン方式ですから、現地で観戦した方が楽しいに決まっています。しかし、やはりアメリカ。太平洋の向こう側です。お金も時間もかかるところです。オリンピックのようにテレビ中継もありません。しかし、オンラインゲームの良いところは、インターネットを通じて観戦できることです。今回の競技種目「カウンターストライク」には、HLTVというシステムが搭載されています。「カウンターストライク」を持っていれば、対戦の様子を自分のPC上で再現できます。リアルタイムで応援する場合はHLTVを受信し、チャットで他の仲間とメッセージを交換しながら観戦します。会場の応援席に近い臨場感になります。
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しかし、時差の関係で試合は夜中。リアルタイムの観戦はできませんでした。そんなときは、デモファイルを入手して試合を観戦する方法もあります。たいていのFPSではデモ取得機能があって、ゲームの様子をログ化してデータファイルを作成します。そのファイルをゲームソフトで再生すれば、まるでビデオ録画を見るように対戦の様子が再現できるというわけです。今回はデモデータを再生して、ESWC本戦のSpeederの戦いを振り返ります。
■デモファイルの入手と再生
ESWCのデモを見ようとする人なら「カウンターストライク」は持っていることでしょう。Eスポーツや日本人チームの活躍などのニュースで興味を持った人のために説明しますと、デモファイルを見るには、ゲームソフト「カウンターストライク」が必要です。これは店頭でパッケージを購入するなり、Valveのゲーム統合環境Steamをダウンロード(無料)したあとに、クレジットカードでダウンロード購入するなりします。現在は「カウンターストライク1・アンソロジー」というセット商品があるようです。買ったからには遊んでみましょう! 自分でプレイすると、世界大会の選手たちがどれだけ強いか、よくわかると思います。もっとも、私自身は最近遊んでいなくて、もっぱらデモプレイヤーとして起動するのみです。もっともっと遊ばなくちゃ! と思うのですが。
ゲームソフトが用意できたら、次はデモファイルを入手します。ESWCクラスの試合で種目がカウンターストライクならば、デモファイルは必ず保存されています。デモファイルは観戦する人や戦術を研究する選手たちが使うだけではなく、審判や審査委員が不正行為をチェックするためにも使われるからです。ただし、必ずあるといっても、どこにあるかは見つけにくいものです。たいていは大会の公式サイトのトーナメント表からダウンロードできるようになっていますが、予選リーグクラスになるとトーナメント表の扱いが小さくなって見つかりにくいものです。
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そんなときに頼りになる人々が日本のカウンターストライクの先達たちです。世界のカウンターストライク情報と知恵が集まっています。Eスポーツ情報サイト「negitaku.org」
デモファイルの再生方法はちょっと特殊です。これは「ESWC日本予選サイト」
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Demomanagerを起動したら、ファイルを選択して“Play!”ボタンを押します。これで試合のデモが再生されます。あとは「カウンターストライク」上での操作になります。ゲームで遊んでいるときに死亡すると、次のラウンドまで観戦モードになりますね。あれとまったく同じ要領です。ゲームで“しゃがむ”に割り当てたキー(初期状態はCtrlキー)を押すと、閲覧する選手の選択や視点の変更、マップ表示などが切り替え可能になります。私はチームの配置、作戦に興味があるので、まずは“Free Map OverVeiw”モードで通して見ます。そこで気になる選手の動きやスコアをチェックして、次に“First Person View”で選手それぞれの動きを追います。もっと気楽に観戦を楽しみたい場合は、左メニューから“Auto Director”を選択すると良いでしょう。追跡中の選手が死亡しても、別の選手に自動的に切り替わります。
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■試合デモを観戦してみた
・第1合 対Fnatic戦
対戦相手のFnaticはスウェーデンのプロチームです。いきなり強豪と当たってしまいました。同じくスウェーデンの有名チームSKのライバルであり、ESWCのマスターズランキングで2位となっています。結果から先に書いてしまうと16対0の完敗です。
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マップは谷間の工場跡地を模した「de_nuke」。両チームは両側から中央の建物に向かいます。“Free Map OverVeiw”で見たところ、Speederは常に散開する作戦でした。一方、Fnaticは一団で爆弾設置ポイントに突っ込みます。爆弾設置場所のSpeeder隊員を掃討したあと、そこを取り巻くように二手にわかれます。そこで銃撃戦となるわけですが、Speederは散開しているため孤立しがちでした。これに対してFnaticは2人または3人です。ただでさえ射撃スキルの高い相手ですから、これには日本最強のSpeederも抗えません。1人ずつ削られて全滅というパターンでした。
![]() 散開するSpeederと一団で突入するFnatic | ![]() 射撃力の差が大きかったようです |
Speederが毎回同じ陣形のため、Fnaticのメンバーは居場所を予測して行動し、予測どおりに仕留めていました。とはいえ、Speederのスキルが低すぎるわけでもなく、個々の選手を見るとヘッドショットや連続キルを決めています。作戦がワンパターンすぎたところは反省すべきかと思います。また、Speeder側ですが、威嚇のつもりでしょうか、相手のいない入り口付近に撃ち込んだものの、それで居場所を知られて逆に撃たれるという場面もありました。世界代表のプロに小手先のワザは効きません。爆弾解除音を出して敵を誘うつもりが、ナイフの音に反応して釣られるという場面も悔しいものです。
ちなみに、Fnaticはこのあと、ファイナルで3位に入賞しています。
・第2試合 対Vatos Locos
対戦相手のVatos Locosはギリシアのチームです。WCGヨーロッパ大会でベスト8。なんと、そんな強豪チームにSpeederは16-10で勝利しました。
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マップは日本でも予選大会で何度も登場する「de_dust2」です。守り=特務部隊側のVatos LocosはB地点に2名、中央に1名、A地点に2名、2-1-2の配置で守ります。これが堅い。守りの手薄なところを狙い、二手にわかれ、あるいは中央を突破するSpeederがなんとか爆弾を設置しても、すぐに囲まれて全滅、または爆弾解除されます。特にVatos LocosのArctic“444”のライフルが強い。彼にライフルを持たせてはいけません。Speederは序盤から4ポイントもリードされてしまいます。その流れが変わったキーポイントは第5ラウンド。SpeederはAとBにわかれて攻めますがどちらも銃撃戦。両チームとも1名ずつ生き残ります。Speederはsion、そしてVatos Locosはライフル野郎Arctic“444”です。ここからのsionの動きが巧みでした。慎重にAからBへとArctic“"444”を誘い出して仕留めます。ライフルは移動しながらの攻撃には不向きなのでしょう。この初ポイントがチームを高揚させます。
![]() ラッシュ(速攻)をかけるVatos Locos。しかし固まりすぎて瞬殺 | ![]() 締めはtwistの3連続キルでした |
Vatos Locosが配置を2-3に変更しました。しかしこれはいけない。勢いに乗ったSpeederはまたもや全滅勝利。Vatos Locosは2-1-2に戻しますが、Speederは突破します。しかしこれは解除されてしましま下。第8ラウンドはArctic“444”が再びライフルを構えました。それをSpeederのfushuが倒します。しかしこのあと全滅。惜しい。しかし第9ラウンドから神風が吹きました。Speederは中央突破作戦。回り込まれて激戦になりますが、sionの活躍で全滅勝利。第10ラウンドも取りました。第11ラウンド、なんと特務部隊側のVatos Locosが速攻で侵攻します。だがこれは失敗。銃撃戦のあとは1対1、SpeederのXENCLITYが生き残りました。Vatos Locosはもう一度速攻。しかしそれはSpeederが見切っていました。奥で待ちかまえて全滅勝利。これでなんと6-6の同点です。ヨーロッパベスト8チームに同点! さらに見せてくれたのはtwist。15ラウンドで守りの堅いAへ攻め、爆弾を設置。しかし味方はすでに死亡。1人で守る場面に。ここでなんと3連続キルで勝利しました。
後半はSpeederの独壇場です。特務部隊側のSpeederは落ち着いてポイントを加えます。Vatos LocosはA速攻、B速攻を試みますがことごとく失敗。SpeederはB地点2、A地点3の守り。Vatos Locosの5人全員で速攻されると数では負けます。しかしVatos Locosはメンバーが近づきすぎました。連射で一網打尽という有様。Vatos Locosはそれでも1度だけ速攻に成功し、全滅勝利もカウントしますがそこまで。ラストはVatos Locosがせっかく設置した爆弾を守りきれず、Speederの陽動に引きずられて爆弾から離れてしまいました。
Speeder唯一の勝利は大金星となりました。
・第3試合 対Alternate戦
ドイツのAlternateはESWCマスターズ8位。こちらも手強い相手ですが、Speederは善戦しました。結果としては8対16のダブルスコアで負けてしまいましたが、前半のデモを見る限り互角に戦っています。
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マップは定番の「de_dust2」です。デモは後半が収録されておらず、このあとどんな展開で敗北に至ったかは不明です。Speederが特務部隊側、Alternateがテロリスト側でスタート。前半第1ラウンドはSpeederがAlternateを全滅させたものの、すでに爆弾設置後でした。Noppo選手が解除に向かいますが、残念ながら間に合わず。射撃では互角、作戦の戦いが幕を開けました。Alternateは徹底的にAポイントを狙います。これに対してSpeederはAに3人、Bに2人の防御配置。第2、第3ラウンドはAが主戦場。5対3の場面でSpeederは全滅。
しかし、ここでSpeederはAlternateの執拗なA責めに対抗して前進を試みます。混戦の中、爆弾設置は許すものの全滅後に解除成功。その勢いで全滅勝利をカウントして5-3のリード。しかしここでAlternateはB責めに方針転換。不意をつかれたSpeederを全滅させます。もう一度B責め。守る2人を倒せばがら空きです。爆弾を設置し、そのままの勢いでSpeederを掃討します。続いて中央突破のA責め、Bポイントへの速攻と激しく作戦を変えてきます。Speederは翻弄されたようです。そして15ラウンド。なんとAlternateは動きません。ずっと立ち止まったままです。前半最後でエコラウンドでしょうか。いや、1人で偵察に来たSpeederを倒して動き始めました。誘いです。得点リードしているチームの余裕。しかし、残念ながら指定時間内の爆弾設置には失敗してSpeederのポイント。
![]() 守りの特務部隊Speederが攻めに出ます | ![]() 2人向かい合わせで視野を確保するAlternate |
15ラウンドはSpeederの勝利。7-8で折り返すところですが、デモを見る限りは終わらず、0-0で陣営そのままで進行します。Speederのfushu選手のブログによると、実は15ラウンドでAlternate側にトラブルが発生し、3人がサーバから落ちたとのことで再試合でした。なるほど、それで不自然に静止していたわけですね。Speederは徹底的に抗議をしましたが、大会の規則にこういうケースが規定されていないと言うことで再試合。結局、15ラウンドはAlternateの全滅勝利に。6-9での折り返しとなったとのことです。このあと攻守交代して、Alternateは7ポイント加算、Speederは2ポイント加算にとどまります。デモの無い後半で決着がついた試合でした。トラブルによる失点がメンタル面で影響してしまったのかもしれません。前半を見る限り互角とはこういうことだったわけです。
ちなみにAlternateは大会成績8位タイ。スウェーデンの強豪SKなどと並んでいます。5位以下の決戦が無かったため、実質的には5位とも言えます。そのAlternateと互角に戦ったとは、Speederもなかなかやるじゃないか、と思えます。Speederは本戦では予選リーグのみでしたが、間違いなく“健闘”でした。予選の組み合わせ次第では突破も可能だったかもしれません。ESWC Masters上位2チームと同じ組とは残酷でした。しかし、そのおかげで次への希望も見えた気がします。
■やっぱり見なくちゃわからない
ESWCで日本チームが予選敗退と知ったとき、やっぱり日本のレベルは低いのか、即席チームでは勝てないのか、と落胆した人も多かったことでしょう。確かにスコアを見るだけでは1勝のみです。負けのうち1試合は完封されています。実は私も最初は「『負けたけど1勝できたから良かった』なんてとんでもない。5年前とは違う。もうそんなことを言ってる場合じゃない。負けは負けとして受け止め、うっかり褒めるべきではない」と思いました。日本予選のとき、予見できた事情で棄権に至ったチームがあったり、今回のSpeederについても代表決定後にビザが下りないだの、補充した選手はパスポートが切れているだの、大人げない事情を見聞きしていたのでなおさらのことです。
しかし、デモを見る限り、日本代表のSpeederは本当にがんばりました。今は「がんばれ、もっとがんばれ。褒めて伸ばそう」という気持ちです。面白い試合でした。見応えのあるゲームでした。私にとってはオリンピックのどの種目よりも真剣に観戦できました。
いやぁ、Eスポーツって、本当にいいものですね。
では、またお会いしましょう。