こうして本作は開発が一段落し、後はリリースを待つのみとなりましたが、ここで白石氏は開発を振り返って「ゲームデザインに多大なコストがかかった」と反省しました。前述のとおり本作は「国造り」がメインとなっており、通常のバトルに相当する部分はAIによる自動戦闘となっています。この部分の仕様が固まるまでに多くの時間が費やされてしまい、何度も戦闘システムを作っては壊すなどの試行錯誤が繰り返されました。また多くのユーザーに遊んでもらうために、チュートリアルを充実させたことも、開発期間が延びる要因となりました。白石氏は「Wiiウェアでの配信が初めてということもあり、対象ユーザーを特定できなかった」と言います。
一方で土田氏にとってはバーチャルコンソールのタイトルや、他のWiiウェア配信ゲームとの差別化が課題でした。前者についてはWiiのハード性能を生かした内容にすること。後者については世界観やストーリー、グラフィックなどに力を入れることで、同社ならではの強みを生かす努力がなされました。もっとも容量などWiiウェアとしての限界はあるため、メリハリやバランスが重要だったと言います。また「ユーザー全員がインターネットに接続していること」が前提で開発できるた、これに即した新たな機能を盛り込むことで、差別化を図っていることも明らかにしました。
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白石氏は今回の開発を通して感じた小規模開発と大規模開発の違いを、次のようにまとめました。メリットとしては、開発メンバー全体が全体像を見渡しつつ、ゲームのおもしろさの部分に焦点を当てて、議論しながら開発できること。また自分の得意分野だけでなく、さまざまなスキルを身につけられる点も大きいとします。逆に小規模ゆえに予算や時間が不足したのも事実だとしました。あわせてスペシャリストよりもゼネラリストによるチーム編成が重要だったといいます。もっとも「自分を含めて核となった5名のスタッフは常に一緒に行動していた。毎日、会社に行くのが楽しかった」そうで、社内のベテランクリエイターから、うらやましがられることもあったと言います。
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土田氏は「会社にとっても開発者にとっても、選択肢を増やすことが重要でした」と語ります。大作ゲーム向けの開発工程だけでなく、小規模開発に向いた体制や工程も構築することで、ゲーム内容や開発者のキャリアパスなどに適した選択が可能になります。また大規模プロジェクトにおいても、内容よっては世界観やストーリーが先ではなく、ゲームデザインが先の方が望ましい場合もあるでしょう。そのような場合でも小規模開発向けの工程を用いれば、プロトタイプ開発に流用することもできます。その後、状況に応じてグラフィックを強化し、ハイエンドなゲーム製作に進んでも良いし、小規模なゲームとして完成させてもいいわけです。
また開発者にとっても、ハイエンドなものとローエンドなものの両方を経験するのはプラスになると言います。ハイエンドなゲーム開発では、2〜4年をかけて1タイトルに携わることで、専門分野をのばせますし、世界的なタイトルの開発の一翼を担える喜びもあります。逆にWiiウェアのようなタイトルでは、約1年という限られた期間で、幅広いスキルと責任を任されますし、ゲーム内容に深くかかわるチャンスも増えます。なによりも選択肢が一つしか存在せず、それに最適化してしまうのは好ましくない、というわけです。
今回の講演の中で、最も印象的だったのは白石氏の次のフレーズでした。「僕たちは『スクウェア・エニックス』のゲームを作るつもりはありませんでした。しかし、完成した物は疑いようもなく『スクウェア・エニックス』のゲームになっていました」。実際の配信はもうすぐです。