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枡田淳氏 NHN Japan株式会社 執行役員/CSMO ウェブサービス本部 事業戦略室 室長 |
新生NHN Japanは、NHN Japan、ライブドア、ネイバージャパンという3社が2012年1月に合併して設立された会社。ゲーム、ポータル、検索という主要なネットサービスを事業領域とすします。元々は韓国発祥で有力なインターネット企業であるNHNですので、外資系という見方もされますが、実は各国が独立して経営されているのが特徴。「LINE」も韓国発ではなく、合併前のネイバージャパンが企画、開発したアプリです。
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2012年の最重要プロダクトとして位置付けられる | スマートフォンを最初から意識したサービスだ | 一気に普及が進んだ |
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地域別のユーザー数 | 当初から海外ユーザー比率が高い | 主要SNSと比べても普及速度はピカイチ |
合併したNHNが2012年のグループ最重要プロダクトとして掲げるのが「LINE」です。6月23日にリリースされてから、既に2000万ダウンロードを突破。当初から日本以外でのダウンロード比率が高く「ずっと6割程度が海外」だとのこと。様々なSNSと比べても2000万会員までの期間は非常に短くなっています。また、アクティブユーザー比率は驚異的で、月間(MAU)だと89%、日間(DAU)でも40-50%だそうです。この数字には枡田氏も驚きで「最初にレポートされてきたときは、バグじゃないかと思って差し戻したくらい」だとか。そのくらい、「LINE」はスマホの日常生活の一部となっているということです。
■震災が後押しした本質的なコミュニケーション
「LINE」が目指したのは本質的なユーザーニーズに合致したアプリです。アプリの中でも、メディアやコンテンツサービスはローカル性が高いのに対して、ゲームや写真そしてコミュニケーションツールといったものはどの国でもAppStoreの上位にランクインします。
コミュニケーションツールの中では、ツイッターやフェイスブックが爆発的に普及しています。ただ、その一方でクローズドなものも人気を集めるようになってきました。「beluga」「Path」「カカオトーク」といったものです。「実生活の人間関係をフェイスブックに置き換えようとすると無理が生じます。皆さんの"友人"にも友人と言えないような人も含まれているはずです」と枡田氏は言います。人間関係の距離はどうしてもフェイスブックでは表現できない、これが約一年前に導かれた分析だったそうです。そしてそれに基づいた企画がまとまりかけたのが3月くらい。しかしここで大きな事件が起きます。
2011年3月11日、コミュニケーションが断絶され極限状態に陥ったあの日に認識されたのは「電話をかけても繋がらない、メールも返ってこない、そうした時にも安定的にコミュニケーションが取れるツールの重要性」です。新しいアプリのコンセプトは全てが「リアル」と軌道修正され、名称には、人と人を繋ぐ「LINE」という意味が込められました。再び同じ事態が起こり得ると強く認識される環境の下、リリースは6月末と決まります。
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グループ/クローズドなSNSの需要が増えてきた | 全てがリアルに「LINE」で繋がるというコンセプト |
実質的な開発期間はアップルの審査なども考えれば1カ月半ほど。さらに震災の影響で枡田氏自身は福岡から業務を行い、開発チームの一部も韓国に避難していたという状況でのスタートです。しかし社内から精鋭約10名のチームを結成。さらには「社内の他のプロジェクトよりもLINEは優先」という経営判断にも助けられ、無事にリリースに漕ぎ着ける事が出来ました。ちなみに現在ではコア部分の開発が約30名、周辺を含めれば約60名体制でサービスが運用されているそうです。
■スマートフォンネイティブが生み出す競争力
「リアル」なコミュニケーションを作り出す上で、どうやってソーシャルグラフとを構築するかは議論されたポイントだそうです。パッと思い付くのはツイッターやフェイスブックとの連携です。しかし前述のようにこれらは真の友人関係を示しているとは限りません。ネイバーのチームが真のソーシャルグラフと考えたのは電話番号帳です。番号を知っているのは親しい間柄に違いありません。ただし、厳しいセキュリティが必要です。本人確認のためにSMSを使った認証も導入しました。
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キーとなったのは電話番号帳 | OSもキャリアも乗り越える |
「LINE」のターゲットは最初からスマートフォンに決まっていました。枡田氏はPC市場と比較して「PCの世界は成熟市場であり、新規性が必要だが、スマートフォンの世界は未成熟で先行サービスのシェアを恐れる必要はない」と言います。
先行するメッセージアプリの代表としてはSkypeがあります。しかしSkypeはPCの利用をメインに考えられた設計とUI。対して「LINE」はスマートフォンネイティブなそれと、絵文字やスタンプなどコミュニケーションを円滑にする機能を備えているのが特徴になります。さらに「Skypeは立ち上げておかないと使えないのに対して、LINEではアプリを立ち上げていなくても着信できる、まさに電話やメールを置き換えるアプリになっている」という大きな優位点があります。
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可愛らしいデザインも競争力になる | ターゲットは電話やメールを置き換えること |
スマートフォンはAppStoreとAndroid Marketという2つのグローバルプラットフォームが存在することから、グローバル展開のコストも極めて低いものになります。枡田氏は「PR first, Advertising second」と述べ、良いサービスであれば口コミで広がっていくと指摘します。当初の活動は「プレスリリースを打ったり、記者さんに説明したり」という程度で、ベッキーのテレビCMが鮮烈な印象を残しますが、実際はAppStoreでも1位を獲得して「CMを打てば更に拡大できる確信を持った後だった」と言います。
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CMを始めたのは1位を取ったくらいの頃 | 国内でのマーケティング | 海外でも積極的にマーケティング |
■リアルなコミュニケーションを更に進化させる
ここからは「LINE」の今後の展開です。まずはマルチデバイス化と多言語化で面を広げていきます。既にタブレットやPCクライアント版をリリース、Windows Phone版の開発にも着手、東南アジアで利用が多いBlackberry版も開発スケジュールに乗っているそうです。ただしPCに関しては「あくまでもサブデバイスという位置付けで、勤務中など常にスマホを弄れない環境の人のためのもの。新規登録もスマホからでないと出来ない仕様」だとのこと。
言語も日中韓英のほか、トルコ、ベトナム、フランス、アラビア、ロシア、ドイツ、ベトナムなどユーザー数の増加傾向にある言語は積極的に対応していきたいとのこと。
機能としてはFaceTimeのようなビデオチャットが搭載予定。
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さらなるマルチデバイス化 | さらなる多言語化 | そしてビデオチャットにも対応 |
さらにはプラットフォームの開放も視野に入れているようです。枡田氏は「デコメ、着メロ、ゲームのような携帯電話と相性の良いサービスはLINEにも相性が良いと考えていて、上半期中には方向性を見せられるのではないかと思います」とコメント。ゲームについてはどう考えているかという会場からの質問に対しては「ジャストアイデアだが、知り合い同士が簡単に協力し合いながら遊べるものが向いているのではないか。ただし、私どもだけで決めることではなく、パートナーさんとの話し合いや、当然ながらユーザーさんにとって違和感ないものにしていきたい」としました。
現在は2000万人のユーザー、これを年内には1億人を目指すと言います。「最初は2011年内に100万人獲得できれば上等だと考えていました。それを考えれば1億人は楽ではないですが、出来ない数字ではないと考えます。日本生まれの1億ユーザー、そしてアジアNo.1のSNSをぜひ実現したいと思います」