1つは我々のゲームビジネスが非常に上手くいっているということがあります。従来通りのDCCツールだけでなく、新しく始めているミドルウェア、その両方で業界の変化をサポートできています。
もう1つはコンテンツクリエイションというものがゲーム業界で更に重要な課題となっていることが挙げられます。それは、ソーシャルやカジュアルあるいはモバイルといった分野、それから次世代ゲーム機、その両方のケースでコンテンツクリエイションの効率化は重要性を増しています。カジュアルデベロッパーにおいては予算が限られ、次世代機向けのデベロッパーにおいては非常に複雑で精緻なコンテンツが求められています。オートデスクではこの次世代機で求められる環境づくりについても複数のデベロッパーと協力して「Project Skyline」という名称で取り組み、新しい世代のパイプラインを作ろうとしています。
―――Project Skylineは昨年のGDCで発表されたわけですが、現在はどのような状況でしょうか?
とても上手くいっていまして、まだ公表されているものはありませんが、実際に次世代機向けのプロジェクトの本番環境で使われています。当然、想像できるように非常に強力なハードですから、それに相応しいようなハイクオリティで、リアルで、本当に感情を伝えるようなキャラクター、そして真実味のある世界が描かれています。Project Skylineでは、映画会社が使っているようなクオリティのテクノロジーを、ゲームというリアルタイムの世界の中で実現しようとしています。今、とても刺激的な時間を過ごしています。
―――具体的にはコンテンツパイプラインをどう変えるのでしょうか?
幾つかポイントがありますが、核となるのはデータモデルです。これは現在、中間フォーマットとして提供している「FBX」を拡張したもので、これを用いてゲームエンジンとDCCツールをリアルタイム(ライブ)に接続します。これを核にしながら、生産性を上げる仕組みを幾つも提供します。
―――メディア&エンターテインメントの垣根を超えるようなことも起こっていると聞いています
そうですね。ゲームのテクノロジーを工場のレイアウトに応用するというようなことは既に行われています。機械をどこに置き、人の導線をどう設計し、最適化していくのかというトライ&エラーをゲームエンジンを応用して3D空間を構築してシミュレーションするというような事です。また、製造や建築業界では「Showcase」という、プレゼンテーションにゲームエンジンを使ったレンダリングを行う製品があり使われています。家具のIKEAの今年のカタログの写真の60%は3ds Max を用いて作られたものです。今までは写真を撮影していましたが、それをデジタルに作成するようになったのです。
新分野への取り組みは labs.autodesk.com にてその一端を明らかにしています。
―――せっかく日本にお越しになったので、日本市場についても教えていただけますでしょうか?
日本はもちろん我々にとって非常に重要なマーケットです。
日本のゲームメーカーは家庭用でもモバイルでも非常に良い地位にいます。また、新しいマーケットがどんどん出てきていて、それに対処するのは日本の会社にとっても他の地域の会社にとっても大変で、大きな努力が行われています。今までは家庭用ゲーム機(1)、家庭用ゲーム機(2)、家庭用ゲーム機(3)について考えていれば良かったのが、非常に沢山のプラットフォームが登場してきています。複数のプラットフォームで自分のフランチャイズやブランドを考える必要があります。そのために複数のプラットフォームを横断的に開発できる仕組みや、コンテンツクリエイションをより効率化する仕組みが必要です。幸いな事にオートデスクは日本のお客様とは長いお付き合いがあり強固な関係が出来ています。今後も手をとり合って、より良い開発環境を共に作っていくつもりです。
―――オートデスクの製品がゲーム開発のあらゆる段階で活用されるようになっていますね
ゲーム開発は、多くのプロセスが非常に専門的で、過去にはプラットフォームごとに様々な最適化が必要でした。しかし、全てのプラットフォームが非常に強力なものになってくる中で、それぞれに特化するのではなく、どこかに高いレベルの標準を定めてそれをターゲットに全てのプラットフォームにゲームを提供するようなことができるようになってきました。それにより、最適化ではなく、よりクリエイティブな作業に集中できるようなプロセスに変わっていくでしょう。そうなることでオートデスクの仕事がより重要になってくるのではないかと思います。
―――最後に、オートデスクがどういうゲーム開発現場を目指すのか理想像を教えていただけますでしょうか?
ゲーム、映画、テレビ、広告、何であれクリエイティブが目指すのは人々に感情を伝える事です。その核となるのは真実味のある物語とキャラクターです。人々を楽しませるのも、何かを売り込むのも、結局必要なのは惹きつけられる物語と身近に感じられるキャラクターをいかにして創造するか、が問題になります。これを生み出すプロセスは非常に複雑で技術的な問題も抱えています。オートデスクはこの複雑さと技術的な問題をまず解決していきたいと思っています。
ジェームス・キャメロンやスティーブン・スピルバーグのような人たちが我々のツールを使ってくれているのはとても光栄で、最先端分野は引き続き充実させていきます。願わくばそれに加えて、プロフェッショナルな人々だけでなく、誰でも作れるようなツールにすることができれば更にベストだと思っています。全てのクリエイティブな人々に楽しいツールですね。
私もこの業界に入って25年が経ちましたが、私自身もオートデスクとしても、すべき事はまだまだ沢山あると感じています。