―――そもそも、どういった経緯でゲーム事業に参入されたのでしょうか?
はい、去年社内でデジタルビジネス推進部ができて、新規事業を立ち上げることになりました。そこで考えたのがゲーム、スマートフォン向けアプリ、そしてデジタルサイネージの三本柱です。その中でも主力になるのがゲームだろうと考えました。
もともとTBSは過去にも、KONAMIさんと提携して『筋肉番付』シリーズなどのパッケージゲームを展開していました。しかしこれからはソーシャルゲームだろうということになり、せっかくテレビ局が作るのだからと、番組と連動した内容で企画することになりました。
そこで白羽の矢が立ったのが、2010年に放映された『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』です。『SPEC』はテレビ放送があり、DVD販売も好調で、今年になってスペシャルドラマが放映されたり、映画化もされたので、一番連動しやすいのではないかと。そこで企画を進めまして、今春からMobage、GREE、Yahoo!モバゲーで『SPEC〜カードコレクション』(SPEC)の配信が始まりました。
―――ゲームの内容を簡単に説明してもらえますか?
ドラマ版の内容がベースになっていまして、通常の人間の常識では計り知れない能力を持つ人間=SPECホルダーを見つけて、自分の最強チームをつくりあげることが目的です。ゲームを通して友達と協力しながら、登場人物のキャラクターカードを集めていきます。映画の前売り券やDVDの中にレアアイテム特典を入れて展開したところ、映画のヒットと連動する形で、ユーザー数などを伸ばすことができました。
―――ブラウザゲームの配信も始まりましたね。
『ジェネシス・オブ・ザ・セブンシーズ』(ジェネセブ)ですね。プレイヤーは大航海時代に帆船を操る船長となり、七つの海を舞台に冒険を楽しむという航海シミュレーションです。 バトルはターン制で行われ、さまざまなミッションやクエストをこなしたり、貿易などが楽しめます。中国のゲーム会社・アクセスブライトが開発したゲームで、現地でベータ版配信が好評だったことから、日本でも展開することになりました。
―――アクセスブライトとの役割分担は?
日本版については共同開発というスキームですが、大きくパブリッシュとプロモーションは弊社が担当し、ゲームの開発と運用は先方が担当しています。 もっとも最初に見たとき、絵柄やUIなどが日本には合わないと思ったので、かなり力を入れてローカライズしました。日本版ではキャラクターを、週刊少年マガジンで『GE~グッドエンディング~』を連載中の流石景先生に書下ろしていただいています。
―――テレビ局としても放送以外の分野に進出していく流れがあるのですか?
そうですね。もちろん弊社の強みは放送なので、何らかの形での番組連携が前提になっています。ただし、単なる宣伝だけでは意味がない。TBSとしては初めての試みなので、経験を積んでいきたいですね。番組原作とオリジナルタイトルの両方を進めているのも、そうした理由からです。
―――それぞれ手応えは?
『SPEC』は相当ありました。大きく「起承転結」という流れで構成を捉えていて、「起」が地上波での番組、「翔」がスペシャルドラマ、「天」が映画と続きました。そして次のもしも動きがあれば。そこで再びゲームに繋げられるのではないか、と思っています。長く続けていきたいですね。
『ジェネセブ』は始めたばかりで、どういう展開にしていくと一番喜ばれるのか、模索している最中です。週刊少年マガジン誌上で取り上げてもらったり、「ニコニコ動画」でタレントに実況プレイをしてもらう、などの企画も行っています。徐々に口コミやSNSなどを使った形で広めていきたいですね。他に世界中の都市を回って成長していく内容なので、実際の都市の写真をゲーム中で使うなど、エデュテインメント的な展開も入れられるのではないか、なんて企画も立てています。
―――番組連動もされていますね。
深夜番組の『オトナの!』でタイアップを行いました。ユースケ・サンタマリアさんと、いとうせいこうさんが司会のトーク番組で、いろいろな展開を行っています。『SPEC』の監督や俳優がゲスト出演した回では、映画の話をしてもらいながら、ゲームの話も少し加えてもらいました。そういうのができないと、ゲーム会社さんとしても、テレビ局と一緒に開発する旨味がないでしょうし。
―――作ってみてどうでしたか?
大変ですね。ゲーム会社の方とお会いして、いろんな話をさせてもらったのですが、厳しいお言葉もかなりいただきまして。我々はみなゲームビジネスは初めてだったので、正直がっくりきたところもありました。確かにいろんなソーシャルゲームをリサーチしたんですが、ヒットしているものは数えるほどなんですよね。その中で残った企画がこの2本なので、大事にしていきたいです。
―――テレビ番組はゲーム以上に幅広い層を相手にコンテンツを制作されているので、どんなアイディアが出てくるか楽しみです。
ありがとうございます。番組製作の現場ではクリエイティブなことと、ベタなことの両極端の議論がありますし、それを融合できるのがテレビかもしれません。野球中継だと、どんなスタイルで中継を行えば喜んでもらえるか、といったケンケンガクガクの議論を行う一方で、スタンドに着ぐるみを着たファンがいたら、とりあえずカメラでおさえておくといった感じです。ゲームでもそんなふうに、これまで番組を作ってきたノウハウを生かしていきたいですね。スポーツや音楽、ドラマなど、いろんなジャンルに挑戦してみたいんですよ。
―――会社としても期待が大きそうですね。
ええ。大前提として、番組自体がFacebook連動などを真剣に考えるようになっています。また『風雲!たけし城』『SASUKE』といった、昔TBSが製作していた番組が今、海外で非常にヒットしているんですよ。 いま海外版『SASUKE』という位置づけの『Ninja Warrior』が、4大地上波ネットワークのNBCや、全米ケーブル・ネットワーク局のG4で放送されていて、NBCでは同時時間帯でトップになったくらい、盛り上がっているんですよ。そういったコンテンツにあわせて、ゲームも海外展開をうまく考えていきたいですね。
―――ブラウザゲームなら海外でもプレイできますね。
そうなんですよね。余談ですが、最近は日本と海外でヒットする番組が違ってきているんです。海外では『アメリカンアイドル』など、圧倒的に視聴者参加番組が受けているんです。一方、日本ではタレントによるトークスタイルの番組が受けていますよね。そこで海外では日本以上に、一般視聴者を巻き込むようなゲームがいいんじゃないかと思っています。特に最近はテレビを見ながら、手元の端末を操作するような、2スクリーン型の視聴スタイルが増えていますよね。こうした視聴スタイルは今後、さらに増えていくと思っています。そこにゲーム的な要素を入れられればおもしろいなと。
―――スマートフォン向けのアプリも展開されています。
実は大小あわせて、すでに95個もアプリを配信しています。 最近だと、アニメ『けいおん!!』が原作の『けいおん!!桜高放課後がちゃぽん』を配信しました。またTBSでは『ザ・ベストテン』『CDTV』などの歌番組で長い歴史がありまして、音楽ランキングのデータが33年分あるんですよ。そこで『TBSミュージック☆ランキングアプリ』も配信しました。
―――それはすごい資産ですね。
他にプレイヤーが音楽ディレクターになって、5台のカメラを任意に切り替えながらミュージックビデオを作れる『iカメラワーク』というアプリも出したところです。『アップアップガールズ(仮)』が「Going my ↑」を歌う映像素材をもとに、音ゲー感覚でスイッチングが楽しめるというものです。ちなみに作ってみてわかりましたが、グループの方が向いていますね。歌手ごとに展開なども考えられるかもしれません。
―――文字通り、いろんな分野が題材になりそうですね。
他に「食」に特化したSNSがテーマのアプリも配信しています。テレビ番組と「食」は親和性が高いので、テレビ番組で紹介した店や料理、それからライフログとしての食の記録を、アプリを通して共有するアプリを展開しています。すでに『東京いい店うまい店』『東京最高のレストラン』といったグルメ本の編集長などにも御協力いただいており、今後はグルメ雑誌とも連携して、情報を発信していくような展開も企画しています。
―――想像以上にさまざまな分野で展開されていて、驚きました。
ええ、ゲーム、アプリ、サイネージの三本柱をきちんとやっていきます。ただ、その中でゲームが一番成功すると収益が上がると思っている。ゲームは賭けっぽいところもありますが、そのためには何個かやってみないとね。アプリやサイネージで土台を固めながら、ソーシャルゲーム事業を進めていきます。
―――タイトルも順次増えていきますか?
はい、国内で3タイトル、海外で数タイトルを検討しています。もっとも、この夏は『ジェネセブ』を一押しでやっていきます。さまざまなプロモーションを展開して、まずは皆さんに認知してもらい、遊んでもらえるように努力していきたいですね。
―――ゲーム自体のアップデートや改善などの予定はありますか?
まずはマップの追加ですね。現在準備している最中です。他に日本的な宝探しや、ガチャ機能、フレンズシステムなどの追加実装を予定しています。ブラウザゲームはソーシャルゲームよりも、じっくり遊びたいというユーザーさんが多いと思っていますので、そういった方々にきちんと顔向けできるようなゲームに育てていくことが大事だと思っています。
―――最後に読者にひとことメッセージをお願いします。
テレビ局が主導でゲームやアプリを作るということで、不思議に思われる方も多いかと思いますが、我々もコンテンツを作っている者の一人として、新しい分野にうまく参入していきたいと思っています。今後もタブレットをうまく使ったり、今までになかったようなテレビの連携を行ったりと、新しいことをどんどんやっていきたいですね。まずはタイトルをチェックして、遊んでみてください。
―――ありがとうございました。
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