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最新ゲームエンジンがそろいぶみ 教育関係者に向けた特別セミナーが開催

CG-ARTS協会は11月9日、「ゲームエンジン教育活用セミナー」を開催しました。セミナーではユニティ、千鳥、アンリアル・デベロップメント・キット(以下UDK)の解説に加えて、東京工科大学、神奈川工科大学での活用事例も紹介されました。

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CG-ARTS協会は11月9日、「ゲームエンジン教育活用セミナー」を開催しました。セミナーではユニティ、千鳥、アンリアル・デベロップメント・キット(以下UDK)の解説に加えて、東京工科大学、神奈川工科大学での活用事例も紹介されました。会場となった日本工学院専門学校蒲田校の大教室は半数以上が教育関係者で埋められ、関心の高さが伺えました。

セミナーは前半に大学での活用事例、後半にゲームエンジンの紹介が行われる二部構成で進行。第一部では東京工科大学メディア学部の三上浩司氏がゲームエンジンを導入した教育カリキュラムについて説明。続いて神奈川工科大学情報各部の小島一成氏が研究用途でのゲームエンジンの活用について紹介しました。

■ゲームエンジンの導入が目的になってはいけない?

トップバッターをつとめた三上氏が所属する東京工科大学は、2004年前後からゲームエンジンを導入したゲーム開発者教育を進めており、近年ではグローバルゲームジャムの開催校としても知られています。そのため三上氏もゲームエンジンのメリットを説明するかと思いきや、「ゲームエンジン導入は手段であって目的ではない」と切り出しました。

具体的には▽どのゲームエンジンを使うかではなく、どのような人材を生み出すかが大切▽それぞれの企画に適したゲームエンジンの自主的な選択が必要▽生み出す人材像のために適した環境を選択することが重要ーーだといいます。そのうえで「時にはゲームエンジンを使わない選択もあり得る」と補足しました。

この背景には学校の特殊事情もあります。東京工科大学のある学校法人片柳学園は、ゲーム専門学校も抱えており、新たに工学系の4年生大学でゲーム教育を行うためには、各々の差別化が必要でした。また大学のコース設置には文科省の基準をクリアする必要があり、ゲームだけで必要な教育人材をそろえるのは難しい事情もありました。

そのため東京工科大学では育成する人材像を「制作経験と基礎技術力に加えて、理系の学士力を持つ人材」と定義。具体的には「プロデューサ・ディレクター候補」と「イノベーティブなアーティスト・エンジニア」と定めました。その上で1年次から3年間かけて、ガッツリと参加できる「プロジェクト演習」と、2年次後半からはじまり、半期で終了する「メディア専門演習」の2段構えとし、いずれも3年次で終了。4年次は研究開発中心の卒業研究に集中できるカリキュラムが組まれました。

プロジェクト演習でははじめからゲームエンジンを触らせず、1年次にC++で3Dプログラミングを学習。2年次からUnity、UDK、FK(独自開発のC++3Dライブラリ)など、企画に向いた環境を学生が自主的に選択して開発を進めていくそうです。半期で終わるメディア専門演習や、座学中心の講義科目でも、UnityやUDKなどが使用されているそうです。4年次以降の研究開発でも、これらのゲームエンジンは活用されています。

もっともカリキュラムがスタートした2004年当時は、ゲーム内容も2Dが主体で、RPGツクールなども教材として活用されていました。これが本格的なゲームエンジンを導入したことで、作品や学習体験の質が向上したほか、ゲームジャムなどの開発イベントでプロと交流する機会が増えたメリットがありました。その一方で冒頭にも記したとおり、ゲームエンジンの使用は手段であって、目的化しないように配慮していると説明もされました。

CG-ARTS協会は11月9日、「ゲームエンジン教育活用セミナー」を開催しました。セミナーではユニティ、千鳥、アンリアル・デベロップメント・キット(以下UDK)の解説に加えて、東京工科大学、神奈川工科大学での活用事例も紹介されました。

■「これなら自分でも作れる?」そう感じさせられるユニティ

セミナーの第二部では、ユニティー・テクノロジーズ・ジャパンの高橋啓次郎氏、プレミアムエージェンシーの山路和樹氏と浅井康平氏、エピック・ゲームズ・ジャパンの下田純也氏が、それぞれ自社ゲームエンジンの紹介を行いました。

ユニティー・テクノロジーズ・ジャパンの高橋氏は、はじめにユニティのサンプルプログラムで、看板のテクスチャーを変えるなどのデモを披露。ゲームの構成ファイルを変更すると、自動的に実機にコンバートされて、動作中のゲームに適応される点がユニティの良いところだと説明しました。

また教室から人が一斉に避難する際に、どのようなルール決めを行ったら効率がいいか、などのシミュレーションもユニティ上で披露。その上で「こんなに簡単にできるなら、自分でもゲームが作れるんじゃないか」「自分でもシミュレータができるんじゃないか」と感じてもらえれば嬉しいと説明しました。

高橋氏もまた、子どもの頃からパソコン雑誌を片手にプログラムリストを打ち込み、プログラミングを学習していきました。また成長するにつれて「ゲームクリエイター」の存在に気がつき、彼らに憧れるようになっていきました。そして気がつくと、ゲーム開発者になっていました。

しかしゲーム作りが大作化・複雑化していくなかで、ゲームの作り手と遊び手の距離がどんどん遠くなっていったと説明。「ゲーム作りに興味を覚えて、プログラミングの勉強を始めても、なかなかゲーム作りまでたどり着かずに、挫折してしまう」などの現状があると指摘します。

その一方でゲームエンジンの普及により、状況が変わってきました。高橋氏は全世界で7000万ダウンロードを達成した、iPhoneアプリの「テンプルラン」は、たった二人(夫婦)で作られたと紹介。創造力があれば全世界を熱狂させられる時代が到来したと説明しました。ユニティもまた「ゲーム開発の民主化を進めて、誰でもリッチな3Dゲームが作れるようにする」ことをビジョンに掲げて、こうした環境作りを支援しているといいます。

そのうえで「別にユニティでなくてもかまいませんので」と前置きしつつ、若い人たちにゲーム作りや、それをとりまく環境がどんどん変化していることを伝えて欲しい。そして彼らを後押しして上げて欲しい、と締めくくりました。

■アジア圏での教育採用事例が光る千鳥

続いて千鳥を展開するプレミアムエージェンシーの山路和樹氏は、はじめに「ゲームエンジンは日本にもたくさんあるが、企業が社内向けに作っているので、なかなか世間に出回らない」と切り出し、これを打破するために千鳥を開発したと説明しました。元々セガでゲーム開発に携わっていた山路氏。現在では『バーチャファイター』などで知られる鈴木裕氏を、自社の顧問に迎えました。「自分が会社で教わってきたゲーム作りを、今度は若い人たちに伝授して、恩返しをしたい」とも語ります。

もっとも山路氏は「千鳥はまだゲームエンジンではなく、しいていえば『3Dグラフィックエンジン』といったところ」と説明します。最大の特徴はC++の開発環境が必要なことで、これによりプログラミングコストを強いるものの、ゲームエンジンに依存しないエンジニアの育成が可能だとします。また教育機関向けにWindows版・Android版・iOS版を無償提供しており、教育用途に最適だと語りました。

実際に千鳥はPS Vita向けリズムストラテジー『オルガリズム』(アクワイア)をはじめ、40タイトル以上の商業作品で採用されているほか、学校向けでも自ら「千鳥アカデミー」としてカリキュラムを編成。国内外の教育機関と連携して、3Dアプリ開発者教育を進めてきました。香港・台湾・シンガポール・ベトナム・中国でも、現地政府などと協力して、PS3やスマートフォンアプリ、3DCGアニメなどの人材教育が行われています。

続いて浅井氏から、ライセンス形態などについて説明されました。無料版ではウォーターマークが表示されるものの、無料で使用でき、アプリの商業販売も可能。サポート体制も整備されているほか、多彩なグラフィックデータが利用できる3Dアセットのレンタルサービス「千鳥3Dバンク」も行われています。FlashベースのUI制作ツールや、Mayaのプラグインとして利用できるエフェクト制作ツールなども用意されています。ポストエフェクトツール「葵」との連携で、ブルーム・グローや被写界深度・周辺光量の設定など、多彩な表現ができる点も特徴の一つです。

このほか他分野への応用事例として、テレビ番組の演出協力などが紹介されました。クイズゲームバラエティ番組『インタラクティブクイズ!モンスターバウト』では、実写と3DCGを合成したAR映像を生放送。『次世代バーチャルスペース研究プロジェクト 原宿・表参道2011』では現実の街並みを忠実に再現してウォークスルーを実現。他にキネクト向けのライブラリも紹介されました。キネクトSDKを触る必要がなく、アプリケーションの開発に集中できるとのことです。

■最新β版がリリースされたばかりのUDK

最後にエピック・ゲームズ・ジャパンの下田純也氏がUDKについてプレゼンを行いました。アンリアルエンジンといえば、6月のE3で発表された最新版『4』が注目されていますが、一方で7月にUDKの最新β版が公開されています。これはアンリアルエンジン3の無料最新バージョンともいえるもので、コンソールのサポートを省略して、Windows、Mac、iPhoneのみに限定。教育利用なら無料で使用でき、アプリケーションを販売する場合でも、売上が5万ドル未満ならロイヤリティは発生しません。

続いて下田氏は付属のサンプルを実行し、メニューを切り替えるだけで2Dの横スクロールアクションのカメラアングルを変更して、3DのFPSに変更したり、キスメットと呼ばれる簡易言語を使用して、ゲーム中のロジック作成を行ったりしました。ネットワーク上での同期通信機能が標準で内蔵されており、MOゲームを手軽に作成することも可能。韓国・釜山で開催中のゲームイベント「G-STAR」でも、UDKを用いたタイトルが何作か出展されていたそうです。

下田氏はUDKの特徴を「複雑なプログラミング言語からの解放」にあるとします。前述のキスメットを用いたイベント設定などは、その一例です。一方でUDK自体はC++での開発をサポートしていませんが、外部DLLとも連携させられるため、DLL側でプログラミングを行っておき、UDKで呼び出すといったウラ技も使えます。実際にUDKでプロトタイプを開発し、パブリッシャーから開発予算がつけば、アンリアルエンジン3に開発を変更するといった事例も海外インディーズでは見られるそうです。

一方で国内の教育機関では、日本工学院八王子専門学校と日本工学院専門学校の、両クリエイターズカレッジでの採用事例が紹介されました。ともに2011年度からスタートし、CGクリエイター科での授業に採用されています。CGクリエイター科で作成したCGモデルを、単にプリントアウトしたり、画面上で表示するだけでなく、UDKを使ってバーチャル空間上に配置し、ウォークスルーで見られるといった活用法になっています。また2012年度からはバンタンゲームアカデミーでも採用が始まっています。

これらはUDK専門講座の例ですが、他に東京工科大学など、教材の一例として採用されるケースもあります。また竹中工務店での本社ウォークスルーデモの制作など、建築分野でもUDKは活躍中。他に東京モーターショーのトヨタブースで、キネクトを活用したバーチャル展示について、UDKが使用された事例もありました。海外ではドライブや軍事シミュレーター、さらにはNASAの月探査シミュレーションなどにも使用されています。

最後に下田氏はCG科の学生には、最高のクオリティで作品を再現できる環境が必要だが、プログラムのリソースに乏しいため、UDKが最適だとまとめました。またプログラマ志望の学生にも、基礎勉強と並行して最先端のゲームエンジンに触れておくことが重要だと述べ、UDKの採用が勧められていました。
《小野憲史》
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