「Unite」はUnityコミュニティを対象に全世界で開催されるイベントで、日本開催は今年が初めてとなります。4月11日に開催された韓国・ソウル会場を皮切りに、日本(東京)、中国(上海)、スウェーデン(マルメ)、バンクーバー(カナダ)と縦断。都市は未定ながら、コロンビアやブラジルでも開催が決定しています。
基調講演ではユニティ・テクノロジーズの創立者でCEOのデイビッド・ヘルガソン氏が登壇しました。ヘルガソン氏はUnityが掲げる「ゲーム開発の民主化」に触れながら、Unityの歴史を紹介。今後も「安定性の追求」「オープンな文化の継続」「急速な進化」を担保していくと語りました。
10年前に3名の創業メンバーで、地下室の一室で誕生したUnity。世界中の誰もがゲームを創造するためのツールを提供したいという彼らのビジョンは、バイオウェア社の創立者、レイ・ムジカ氏から「新しいソーシャルムーブメントを生み出した」と言われるまでに成長しました。今やUnityの利用者は全世界で180万人にのぼり、月間アクティブ開発者数だけでも40万人、月ベースのゲーム開発時間は500万時間にも達するといいます。
このゲームエンジンとしては異例の成功を収める原動力となったのが、同社のフリーミアム的なビジネスモデルです。高性能なゲームエンジンを無料で配信し、より高性能なプロ版を有償配信。さらにアセットストアと呼ばれる、Unity上で使えるツールやプラグイン、素材などを制作者が販売できるオンラインストアを整備しました。同社は30%の販売手数料を徴収する仕組みで、今や利用者数は全世界で28万人。6500パッケージが並び、中には毎月300万円を売り上げる開発者も存在するほどです。
また無償版であっても商業開発に使用可能とあって、アジア地域で利用者が急増。日本でもソーシャルゲームのスマートフォン対応が進むにつれて、マルチプラットフォームに適したUnityの存在感が急上昇しました。それにつれて国内のミドルウェアベンダーも次々にUnity対応を表明。任天堂やSCEも相次いでUnityとの提携を発表しました。今や業界にはUnityを中心とした、巨大なエコシステムが生まれつつあると言えるでしょう。
ヘルガソン氏は講演で、「コンテンツの半減期」という概念を紹介しました。どんなヒット作も次第に飽きられ、商品価値を下げていきますが、ヘルガソン氏はメディアの進化によって半減期が短くなっていると指摘します。「音楽では今だにビートルズとヒットチャートで争わなくてはいけませんが、モバイルゲームではヒット作でも半年から2年で陳腐化していきます。新しいチャンスが次々に生まれてくるのです」(ベルガソン氏)。
PCの出荷台数が2012年で頭打ちとなり、スマートフォンやタブレットの出荷台数が早晩追い抜くであろうことや、スマホゲームの爆発的な増加。さらには独立系ディベロッパーによるインディーズゲームの割合が急増している現状も示されました。コンテンツの半減期の原則と相まって、今や優れたIPを創り出せるディベロッパーの力が、これまでになく高まっているとベルガソン氏は指摘します。
「ゲーム業界には魔法があります。頭がよくて、創造的で、情熱があって、善人。ゲームディベロッパーは、これらすべてを併せ持っています。私は広告業界やコンサルティング業界に籍を置いたことがありますが、あまり情熱を感じられませんでした。しかしゲーム業界は違います。なんというか、とても居心地が良いのです」(ベルガソン氏)
Unityのロードマップなどについて明言は避けられましたが、2013年はクオリティ向上とリリースの短期化,そしてプラットフォーム拡大の3点に力を入れていく方針が示されました。最近発表されたUnity 4.1に続き、4.2と4.3が近く発表。すでに4.4の開発にも着手しているとのことです。またWii UやBlackBerryとの対応、SCEとの包括的提携の発表に続き、今後もプラットフォーム拡大に注力していくとのことでした。
最後にベルガソン氏は長期的な目標として、「企業としての安定性」「オープンでフレンドリーな企業文化」「生産性の向上に伴う高いスループット(速い進化)」という3点の維持を掲げました。「世界が終わらない限りUnityはなくならない」という宣言は、今後も独立性の高い安定した企業経営を通して、ゲーム業界にコミットメントしていくという決意表明だといえるでしょう。
マイクロソフトやグーグル、フェースブックなど、米国企業が席巻するIT業界。デンマーク生まれのUnityは、今や世界規模で広がった、数少ない非米国産ソフトの一つにまで成長しました。もっとも変化の激しいIT業界では、企業買収や売却は日常茶飯事です。ゲーム業界でも2004年にゲームエンジンのレンダーウェアを擁するクライテリオンがEAに買収され、波紋を呼びました。「Unity無双」が進む中で行われた本講演は、そうした一抹の不安材料に対して、先手を打ったモノだったと言えるかもしれません。
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