岩出氏は「龍が如く」や「パンツァードラグーン」といったセガのシリーズ作品に携わってきたビジュアルエフェクト(VFX)アーティストです。CEDECにおいても、エフェクトに関するセッションで発表するなど、VFXアーティストとして精力的に活動しています。
GDCのレトロゲームのコーナーにも岩出氏が携わった『パンツァードラグーン ツヴァイ』が展示されており、係の人に「これは俺がした仕事だ!」と得意に声をかけるものの、「からかっているの?」という反応が飛んできたそうです。制作者の顔が見えないゲームクリエイターの悲しい側面が笑いを誘いました。
岩出氏が報告したセッションは全部で4つ。主にコンシューマ向けのAAAタイトルをメインとして参加したそうです。さらにVFX関連のラウンドテーブルにも出席したとそうです。
■最新のグラフィック表現手法が紹介されたセッション
最初の「Photorealism through the eye of a “FOX”」は、メディアでも大きく取り上げあげられたコナミの「メタル ギア ソリッド」シリーズの最新作に関するもの。小島監督に対するGDCでの注目度も高く、会場は列が並ぶほどの盛況であったそうです。
内容はゲームな内のアセット制作におけるリファレンス環境の重要性が強調され、実際の光の下に置いた布や植物とアセットを見比べ、ざらつきやテクスチャなどが再現されているか検討したそうです。また服の表現においては、型紙でモデリングを行ったり、服飾ツールを利用したり、リアルな服のシワを再現するために徹底的に検討したそうです。以上のような正確なアセットを作るための具体的な手法について触れられた貴重なセッションだったそうです。
次は「Casting a New Light on a Familiar Face」と題された最新作の『トゥームレイダー』のライティングに関するセッション。「クリスタルライティングシステム」といった手法により、トーンカーブを制御したり、髪の毛にあたる光を調節したりといったアーティストが主導するライティングの表現が説明されました。前のセッションのFoxエンジンに比べると『トゥームレイダー』のグラフィックは物理シミュレーションよりもアーティスト側によった表現をしているようです。
またマップ破壊に対応しづらい、ディスク容量を圧迫するといった前作で問題となったライトマップ手法に関しての見直しについても紹介されました。そこではライトマップを行なうチームとディファード(遅延)ライティングを行なうチームが2週間かけてそれぞれグラフィックを制作して競い合って決定したそうです。勝利したのはディファードライティングのチームであり、やはりライトマップに比べてイテレーションのサイクルも、最終的な調整も速かったそうです。
三番目は『Halo 4』におけるマップ編集モードである「フォージ」のライティングについてのセッション。 「Halo」シリーズはもともと主にライトマップによるグラフィック表現を行なってきましたが、「フォージ」モードに対応するためには負荷が非常に大きくなります。それを解決するために、「Just in Time Lighting」という手法を編み出しました。具体的には、ユーザーの作ったマップをまずオフラインで1オブジェごとにライトマップ用のテクスチャの座標を作り、ロード時にそのライトマップを焼き付けるという手法です。
『トゥームレイダー』のセッションとは対照的に、ライトマップの手法を使ったシェーディングであり、リアルタイムのシェーディング手法が主流となる中、今後これらの手法がどれだけ発展するかわかりません。しかしながら、ユーザーが作ったデータに対応する重要性を認識させられたと、岩出氏は述べています。
最後のセッションはEAの最新作『シムシティ』のアートワークに関するものです。非常に話題を集めたタイトルだけにメディアからの注目度も高かったのですが、セッションの内容も非常によくまとまっていました。ゲームデザインは既に固まっているため、そこから逆算したグラフィック表現を行い、家一軒を256個の三角形で表すというローポリ仕様になっているそうです。さらにビルの窓の奥行きは、クォータービューという特性を活かし、深度マップとテクスチャを利用した表現を行なっています。
また市街の看板の文字表現に関しては2007 年のValvaの論文で発表されたDistance Fieldの技術が取り入れられました。Distance Fieldとは、輪郭からの距離を輝度の情報として生成して、拡大縮小のレンダリングの際に補完する手法であり、低解像度のテクスチャでもシャープな表現が実現可能です。
以上のように『シムシティ』ではゲームデザインに最適なグラフィック表現を行なっているそうです。Distance Fieldなどの手法については、CEDEC2009でキュー・ゲームスが報告しているように、日本でもプログラマーにはある程度、知られているようですが、日本のアーティストも注目すべきであると、岩出氏は述べています。
■ラウンドテーブルと交流の重要性
セッションとは別に、岩出氏はラウンドテーブルにも参加してきました。ラウンドテーブルとは、3日間の開催期間中に毎日1時間行われる情報共有の場です。岩出氏は英語力に不安があるものの「とにかく日米のVFX関連のコネクションを作る」という目的で参加してきたそうです。
具体的に取り組んだこととして、事前に司会者に挨拶する、開始前に自分が話す時間を設けてもらうといった点があげられます。これらの根回しによって得られたものとして、ラウンドテーブルの議事録を後ほど交換する約束、何人かの人との名刺交換などで、少なくとも今後のVFXに関する日米のコネクションが開けたのではないかと岩出氏は報告しています。
以上、全体のセッションとラウンドテーブルをまとめ、GDCにおける現世代機における表現の成熟とともに世代の変わり目であること、コネクションを作ることの重要性といったことを指摘し、岩出氏は報告を終えました。GDCに参加するならば、ただセッションを受動的に受けるのではなく、主体的に情報を発信して、さらに他の参加者と交流していく姿勢が重要であるとも指摘されました。
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