――― 『クマ・トモ』開発のきっかけは?
冨所:私、すごく女子環境の中で育ってきたのですよ。女子高で女子大で女4人姉妹、就職して入ったチームがプリントシール機開発で同僚も女子が多く、仕事中も女子高生と触れ合っていました。
プリントシール開発もやりがいのある仕事でしたが、ゲームが好きでゲーム会社に就職した身だったので、ゲームが作りたいなと思っていたんですね。そんな時に、女の子が遊べるゲームの企画案を考えてみないかという話がありまして、それが『クマ・トモ』のはじまりです。
――― 「人口無脳」によるコミュニケーションゲームになったのは、何故だったのでしょう?
冨所:女子の中に囲まれて、「可愛い」って、とても力のあることだと感じていました。可愛い物に触れると、テンションが上がるし、可愛いものに囲まれると、幸せな気持ちになる。そのため、「可愛くて、可愛くて、どうしようもない」ものにしようと考えました。ただし、可愛いものは、グッズだったり、洋服だったりいっぱいある。ゲームでしか出来ない可愛いって何かと、考えを展開させていきました。
ゲームの魅力は、プレイヤーがアクションを起こし、それの反応が多岐にわたって返せること。可愛い存在に自分がアクションした時に、どんな反応が返ってきたら嬉しいかなと考えて、出てきたキーワードが「プレイヤーを肯定すること」でした。「可愛い存在」が「ありのままの自分をちゃんと認めてくれる」というゲームは、今までのゲームにない満足感が得られるのではないかと。新規の企画だからこそ、他のゲームでは満たしていない強い感情を満たせるものにしたかったんです。
リアルでありのままの自分を出さないのは、普通のことだと思うんです。大切な相手だからこそ、しつこい愚痴は言わない、相手の意見を尊重したいから、自分の意見を押し通さないとか。それって、人間関係では必要なことだと思うのですが、たまにはそういうのから解放されたくもなりますよね。
そこで『クマ・トモ』の出番です。クマは、可愛がってあげると喜ぶし、プレイヤーの意見が何であっても、クマなりにちゃんと考えます。そして、何を答えてもプレイヤーの味方です。損得のない相手だからこその気楽さもありますし、いじらしく自分のことを考えようとしてくれるクマは癒されると思います。
ありのままの自分を認めてくれるゲームにしようと思い、ゲームの構成を考えた時に、「人口無能」による会話は当然の機能だと思いました。自分のことを認めるのに、自分のことを覚えないはずがないですから。
―――女児については、どう意識されたのでしょうか?
冨所:女児層と考えた時、女子は幼い頃から、わりと成熟していますから、友人関係での気遣いは当然しています。また、可愛いものの可愛がり、対象が自分に明確に感謝し、好きでいてくれることは、年齢に関係なく、嬉しいだろうと考えました。
―――クマにしたのは理由があったのですか?
冨所:私、魔法少女ものが好きなのですが、例えば「セーラームーン」のルナみたいな、キャラクターの方が、人間よりも、自分を肯定する相棒として素直に受け入れられると感じたからです。
また、キャラクターは、ネコとかハムスターとかウサギとか候補はありましたが、自分を認めるという目的のゲームなので、ファンタジーながらも、若干リアルさがあるといいと思いました。クマのぬいぐるみは、受け入れて包み込んでくれそうな感じがあるのと、女子ならキーホルダーとか含めれば、家の中に1体くらいあるという身近なものでもあるので、クマのぬいぐるみにしました。
―――クマには性別がありませんが、あえて性別不詳にしたのでしょうか?
冨所:はい。企画の段階では性別を分けてキャラクターを作ろうという話もありましたが、そこはプレイヤーの皆さんに委ねようと思いました。性別を強く意識させる会話をしないようにしているので、プレイヤーの皆さんが自分の思うように見立ててくれたらと思っています。
―――合成音声が特徴だと思いますが、合成音声にした理由など教えてください
冨所:まず、人のこと認める最初の一歩は、名前をちゃんと呼ぶことだと思ったことがキッカケです。また、クマが3DS内で生きていると感じるためにも、ちゃんとしゃべらせたかった。しかも、『クマ・トモ』は、とにかく会話量が多いんです。プレイヤーを理解するために、出来るだけ入力をしたかったので、分岐も凄いことになってますし…。これを叶えるためには、合成音声しかないと思いました。
とはいえ、生きてる感じは出したいし、可愛らしい感じにしたいと、色々探して…その中で選んだソフトウェアはAIトークです。AIトークの「こうたろう」が他の合成音声と比較して、最もたどたどしく、幼く、電子っぽさがなかったので採用を決めました。AIトークには3DS用のソフトウェアがなかったので、株式会社エーアイさんに開発していただいたのです。
私は、クマの声に対して、一切違和感がない所にまで辿り着いてしまっているので、怖いと言われると、そうか…と思いますね。声がキライだからキライと言われたら、クマ泣くんじゃないかな。どうしても厳しかったら設定でクマの声だけ消せるので、消してあげて欲しいです。
―――丁寧なストーリー展開が印象的ですが、意識された部分はありますか?
冨所:クマとだんだん仲良くなっていくという変化を作ることを意識しました。クマ自身は、「認める子」なので、最初から好感度が高く感じられると思います。でも、一緒に過ごしていく間に変化がないのでは、面白くない。そのため、ストーリーという形で、クマとの関係性、主にクマからプレイヤーへの思いが変化していることを表現したいと考えました。メインの流れを中村誠さんと一緒に考えて、いいものが出来たと思っています。
それとですね、せっかくなので一言。3DSの内蔵時計をいじれば、1日のリミットを越えて先に進めることが出来ますが、もし遊んでくださる方がいましたら、いじらないで遊んでほしいんです。日々コミュニケーションを取ってきたからこそ、クマの変化をリアルに感じられるように設計しています。今日会って、一気に話して、一気にイベントを行って、大スキ!では、情緒がないんです。
クマと共に時を過ごして、エンディングを迎えた時は、感動してもらえるんじゃないかと思っています。あ、エンディング後も遊べるので、ご心配なさらず。
―――その、シナリオパートに中村誠氏を起用したきっかけを教えてください
冨所:中村誠さんは、「劇場版チェブラーシカ」などの作品を拝見し、大人でも感動するストーリーを書かれるなと思いまして。たまたま『テイルズ オブ』シリーズの吉積プロデューサーが中村さんのことを知っていたので紹介していただきました。初めて連絡した時に、取り次いでくださった方が、「よく中村を指名しましたね。可愛いものを書かせたら天下一品なんです」と仰っていたのが印象的でした。
―――グラフィック面について。特にクマの毛の質感や料理の3D描写がリアルと評判ですが、こだわった点はありますか?
冨所:クマのふわふわ感にはこだわりましたね。開発当初はプリントシールの部署と『クマ・トモ』の開発を掛け持ちしている状況だったので、プリントシールのイベントの際に、いくつかイメージビジュアルを持ってアンケートを取ったのです。その中で最も評価がよかったのが現在のクマに近いものでした。評価された理由は、ふわふわしてるから。ふわふわは、愛らしさの象徴。アリカ(『クマ・トモ』開発会社)さんが、色々実験してくださり、お陰様で、ふわもこなクマになりました。満足です。
料理についても、とても美味しそうにアリカさんが作って下さいました。クマに美味しそうなものを食べさせていると満足感に浸れると思います。また、料理完成画面は、社内で品質管理の人から、「ここまで、立体方向の3Dを使っているソフトは、社内で例がありません」と驚かれたほど、飛び出ています。体験版でも料理は作れますし、是非、3Dをオンにして見て頂ければと思います。お腹が空いている時は、危険なほど美味しそうです。
―――全体的にファンシーすぎないという印象を受けましたが、意識された点はありますか?プリントシール機の企画をされていたという話を踏まえて、デザイン面についても教えてください
冨所:そう感じてもらえたならよかった。プリをやってて思ったのは、女子は、自分の世代よりも大人っぽいものに憧れる傾向があるってことです。雑誌を見ていると小学生向けの雑誌には、中学生、。中学生向け雑誌には、高校生と、対象より上の世代の人達が載っています。その根底には、自分の年代よりも上の洗練された可愛いに近づきたい、みたいな気持ちがあると思うんです。そんな気持ちで過ごしている女の子達にとって、自分よりも年下向けにみえるものは「卒業すべきもの」なんです。
今回の企画は、そもそも年齢層を大きく考えていたので、上の世代の方に卒業すべきものと見えないようにしようと思っていました。とはいえ、上の年代は趣味の差が大きいので、多くの人が好みやすい「ナチュラルガーリッシュ」な世界感にしています。
―――遊ばれる方にメッセージを
冨所:本名プレイ以外はNGってわけでもないです。クマが自分の趣味の話をしてくるだけでも楽しいですし…。私、「タイガー&バニー」というアニメに嵌っていた時に、タイバニ縛りプレイとかしていました。「シュテルンビルドって秘密がいっぱい?」とか聞かれると、「うん、うん」と思いましたし、「タイガー(クマの名前)もバニーチャーハン食べたいの」とか言われると、なんだか無性に面白かったです。という意味では、お好きにどうぞ。
また、世界観は女子チックでありますが、男性の方が遊んでも、癒されると思います。男性の方が、女性よりありのままの自分が出せない時が多そうですし、満たされ度合いも高いかも。
―――今後の展開についても教えてください
冨所:『クマ・トモ』の知名度向上に努めたいです。響く人には、響くゲームだと思うので、ちょこちょこ色々な所で露出して行きたいと思っています。これを読んでる方で、なにかコラボしませんか話がありましたら、お声掛けください(笑)
当然の話ではありますが、『クマ・トモ』を愛しているので、この子が長く元気にやっていけるようにしてあげたいです。新規IPで、旬が決まっている題材でもないので、コツコツ売って行きたいと思っています。また、『クマ・トモ』を好きになってくれた方のために、シールやキーチェーンなどのグッズの展開を予定しています。こちらは、9月上旬発売予定です!
―――どうもありがとうございました!
『クマ・トモ』は、好評発売中で価格は4,980円(税込)です。
(C)2013 NAMCO BANDAI Games Inc.
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