■「ニンテンドウパワー」の名作
『はじまりの森』は1999年にスーパーファミコンのカセット書き換えシステム「ニンテンドウパワー」で配信されたアドベンチャーゲーム。夏休みと少年のゲームといえば、『ぼくのなつやすみ』を連想しますが、本作は村を移動し、気になるところをチェックし、会話をして事件を解決していく推理ゲームに近いゲームです。2007年にはWiiのVCで配信されました。
■早々に漂う感動臭
「夏休みにおじいちゃんの田舎に訪れた少年が不思議な少女に出会う」たったこれだけの言葉の中に漂う感動臭。少年から大人へと成長していく姿、出会いと別れ…そういった感動作のセオリーがたった数行の解説の中からも読み取れます。
そもそも、「ボーイミーツガール」といったらイコール「感動もの」と言っても過言ではありません。開始早々、少年と少女が出会った瞬間には感動のラストを確信していました。言い方を変えれば予定調和なのかもしれないですが、ドット絵の温かみある画面や素朴なBGMがしっかりと感動を誘ってくれます。
■あの頃の気持ちが蘇る
本作の時代設定は昭和。現在ご年配の方が子供だった頃のお話ですが、いつの時代も少年少女の初恋の初々しさは変わらないもの。ゲーム序盤、少女との会話中に「見る」コマンドを選択すると恋愛シュミレーションのような視点に切り替わり、少女に対する少年の心の声を垣間見ることができます。それがもう実に純粋で、見ているこっちが恥ずかしいくらい。少女と交流していきながら、男として成長していく少年の姿も実にほほえましいです。そして少女に対する好意を同世代の子供たちにからかわれるのも「小学生あるある」すぎてはげしい既視感に教われました。誰もが一度は通った、または見てきた道。甘酸っぱい思い出が蘇ること間違いなしです。
■話を分断しないミニゲーム群
「ファミコン文庫」と銘打つだけあってストーリーに意識が集中しがちですが、ミニゲームも随所に差し込まれます。話が進むにつれミニゲームの難易度も上がり数も多くなりますが、たたみかけるミニゲーム群は今まさにストーリーが終焉へと向かっている高揚感を感じさせてくれます。ただタイミングアクションなどは往々にして初見殺し的な要素もあるのでやり直しのストレスは若干感じてしまうかも。小学生の頃の粘り強さや集中力を思い出して、目の前の事件(ミニゲーム)にチャレンジする気持ちが大切。
■良質な映画を観た後の充実感
夏休みの数日間を描いたゲームなので総プレイ時間はさほど長くなく、サクッと終わらせたい方にはオススメです。じっくりやり込む方にはやや物足りないと思われてしまうかもしれませんが、2時間の感動映画を数本観たと思えば、十分な充実感が得られるかと思います。
CGをふんだんに使った綺麗な映像ではない、ごくシンプルなドット絵なのに、良質な映画を観た後のような満足感。1日あれば十分プレイできるので、夏休みの最後に甘酸っぱい思い出を作ってみてはいかがでしょうか?
Wii Uバーチャルコンソール『はじまりの森』はニンテンドーeショップにて配信中で価格は800円(税込)です。
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■著者紹介
みかめゆきよみ
ゲーム好き、日本史好きの漫画家兼フリーライター。
ゲームはジャンル問わずなんでもござれ。難しければ難しいほど燃えるドMゲーマーです。
歴史・ホラー漫画、歴史コラム、イラストなど雑多に活動しています。
サイト「車輪の真上」
http://zwei.lomo.jp/syarin/
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