
剣と銃、ゲームの世界を代表する武器の2つですが、どうも日本人は剣が好きらしい。これは太古の昔から脈々と流れる血がなせる業なのかもしれません。毎週土曜日0時からお送りしている「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」、年内最終回はこの剣、刀というものに焦点を当てます。
土本
年の暮れですね。今年も1年間、お世話になりました。
平林
ありがとうございました。
安田
来年もよろしくお願いします。
平林
12月にこの連載企画がはじまって、なんというか、ホッとしています。ゲーム画面の外。ゲーム業界の外。いったん外に飛び出してから、ゲームの中を眺めてみる……というのは、個人的に得意なつもりなのですが。その行き先を日本に定めると、大きな題材だけにプレッシャーを感じました。けれども、安田さん、土本編集長に助けられてスタートできました。
安田
いい感じの滑り出しじゃないですか?
平林
いやいや、こう見えても小心者でして(笑)。なんでゲームのメディアで今日もまた古事記の話をしているのか。言い訳ばかり考えてますよ。
土本
言い訳?
平林
オールゲームニッポン? なぜ、日本? まあ、普通に言うと趣旨説明を、くどくならないように粘り強くやっていかないとなーと思う次第で今日も進めていきましょう。
土本
ではサクッとどうぞ。
平林
今、ゲームの世界で起きていることは、見事にお国柄とつながっちゃった。アメリカで売れるゲームはアメリカっぽい。日本市場で売れるゲームは日本っぽい。これが大前提です。具体的にはどういう意味かというと。焦点を武器に絞りますね。アメリカで銃を使ったゲームが売れるのは、銃のお国柄だから。日本では刀が成長するRPGの人気があるのは、刀のお国柄だから。無謀なようですが、ゲームと国を結びつけていくと、この世界で起きていることの本質が浮かび上がってくるはずと思い、日本について延々と語っています。
土本
前々回でしたか。イギリスから独立するために、銃を持って戦ったのがアメリカ。つまり、建国の歴史とゲームの好みがつながっているという話がでました。
平林
はい。アメリカは銃。日本は刀。日本も戦国時代は銃を使っていましたけれど、あの火縄銃はあくまでも武器です。ですが、日本人にとって刀は武器以上の意味があります。刀は人の分身、あるいは精神の象徴だと思います。先週は大河ドラマ『軍師官兵衛』の最終回が放映されました。このドラマ前半で、黒田家長男の松寿丸(長政の幼名)が庭で木刀を振るシーンがあります。この様子を中谷美紀扮する母親が、目を細めて喜ぶわけです。少年が刀を扱う姿を見て親が喜ぶ。大河ドラマではよく見るシーンですよね。あれ、刀を振るから、幼子が大人になったことの証になるんです。あのシーンで武士の息子が鉄砲をぶっ放したのでは、母親はドン引きします(笑)。
安田
確かに。日本人の精神と銃は距離がありますね。その点、刀は密着しています。日本神話に出てくる刀の一例として、先週はヤマタノオロチ伝説の話をしましたよね。
土本
はい。ヤマタノオロチは、出雲地方に流れる河川、斐伊川(いびがわ)周辺で起きた水害をあらわしているとうかがいました。
安田
スサノオと戦って退治されたヤマタノオロチは斬られた時に一振りの大刀を残します。なぜ、刀が出てくるのかというと、当時の出雲地方には製鉄技術があったことを示しています。「たたら製鉄」というのですが、砂鉄と木炭を混ぜ合わせて、大昔の人たちは、かなり強度がある鋼(はがね)をつくっていたんですね。

大昔から続く「たたら製鉄」 (C)公益社団法人 島根県観光連盟

大昔から続く「たたら製鉄」 (C)公益社団法人 島根県観光連盟
土本
私は山口県出身ですが、確かに島根県に行くと刀剣や製鉄にまつわる遺跡や博物館がたくさんあります。
安田
はい。島根県というと石見銀山が有名ですが、鉄鉱石を掘って製鉄する土地でもあります。ですから鉄に関係する遺跡や博物館があるばかりではなく、現在でも稼働している製鉄所があるほどです。安来市にある日立金属安来製作所では、「たたら製鉄」の操業をしているんですよ。
平林
えー。21世紀の現代でも古代の製鉄が引き継がれているんですか! なんかすごいですね、日立金属。
安田
で、ヤマタノオロチに話を戻しますとね。スサノオが手にしたのが天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)。スサノオは、その剣を天照大御神に献上して、その刀は草薙剣(くさなぎのつるぎ)と呼ばれて、現在は熱田神宮に保存されている……ということは先週も触れました。
平林
はい。草薙剣といえば、日本の歴代天皇が継承してきた宝物。三種の神器のうちのひとつですね。日本神話において、天孫降臨の時に天照大御神が授けたとされる鏡・玉・剣。鏡は八咫鏡(やたのかがみ)、玉は八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、そして剣は草薙剣ですね。
安田
整理しますとね。ヤマタノオロチの尻尾から刀。これらはフィクションのようです。けれども、水害を製鉄技術で抑えた実話とも解釈できるわけで。さらにその時にスサノオが手にした伝説の剣は、熱田神宮に保存されています。ほら、こうしてですね。想像と現実の世界が混ざり合っていて、日本の神話と古代史はどこかでつながっていて、じつにミステリアスでおもしろいです。
平林
安田さんのお話をうかがっていると、日本人と刀は侍が登場するはるか昔から結びついているんだな、と。実感します。
安田
神話や古事記以外の話をしますとね。
平林
え、なんですか?
安田
いわゆるおとぎ話にも刀は登場します。桃太郎ってあるじゃないですか。
平林
はい。
安田
桃太郎にはいろいろな解釈がありますが、そのひとつとして鬼を山岳にいて製鉄をする人たちとする説があります。この人たちと戦う桃太郎は平地の農村にいる人たち。現在の地名でいえば岡山県と島根県の戦いでしょうか。

誰もが知る桃太郎の物語。史実と関係がある?

誰もが知る桃太郎の物語。史実と関係がある?
平林
製鉄と鬼が関係あるんですか?
安田
山の奥に住む製鉄民は、ふもとの農耕民としばしば衝突したそうです。砂鉄採取のために山を切り崩したり、「たたら製鉄」を行うための木炭を生産しようと木を切り倒したりすると、山中から平野に土砂が流れ出します。そのせいで河床が上昇して洪水を起こしたり、田んぼに土砂が流入したりして、農耕民は困るわけです。
平林
その戦いが桃太郎という物語になって残されている。
安田
そうですね。おとぎ話に出てくる鬼がひとつ目なのは、製鉄をしている人が片目をつむって作業しているからとも言われていますし。
平林
おお、そんな細部の描写もされているんですね。
安田
赤鬼っていますよね。鬼が赤いのは火の近くで製鉄をしているから顔が真っ赤だから、とも言われているんです。で、青鬼は「ここに鉄があるぞ」ということを知っている製鉄民のリーダーだそうです。
平林
出雲に伝わる神話、古事記、それにおとぎ話までもが日本と刀の結びつきを示しているんですね。これって、ロトの剣を手にしたとき感動する気持ちに通じている気がします。
土本
アサルトライフル「MP44」を装備したときとは違う感動ということでしょうね。
平林
『コール・オブ・デューティー』の武器は、いかにも武器っていう感じで強力だけど、「たたら製鉄」は関係なさそうだしなー。ところで全然関係ない話ですが、インサイドで「PS2の中に銃を隠して密輸しようとした男、NYの空港で捕まる」という記事を読みましたよ。
土本
あ、それ、うちの兄弟サイトGame*Sparkに先週載った記事ですね。
平林
あの記事の最後の一文。「ちなみに、男が偽装のために持ち込んだPS2のゲームはTHQからリリースされた『Nicktoons: Attack of the Toybots(スポンジ・ボブとなかまたち トイボットのこうげき)』でした。なぜ男がこのゲームをチョイスしたのかは不明です」がウケました(笑)。
土本
なぜ、スポンジ・ボブだったんでしょうね。
平林
しつこいですが、アメリカと日本。同じ先進文明国ですし、軍事的には同盟国同士ですが、違う国なんだなとつくづく思います。「たたら製鉄」とスポンジボブですから。
安田
それは強引だけどなー(笑)。
平林
今日はこのへんで。今年一年お世話になりました。
土本
良いお年をお迎えください。
安田
皆さん、日本の年末年始を楽しみましょう!
■パーソナリティの紹介

安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『Projectcode -堕 天-』『Projectcode -月 読-』の開発に取り組む。

平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。