GDC2015で3月4日、ゲームのアカデミー賞とされる「ゲーム・デベロッパーズ・チョイス・アワード(GDCA)」第15回授賞式が開催され、映画「ホビットの冒険」と「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズをつなぐアクションRPG『シャドウ・オブ・モルドール』が大賞(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)に輝きました。 また併催の第17回「インディペンデントゲームフェスティバル&アワード」(IGF)では、滅亡の危機に瀕した太陽系で最後の20分間のタイムループを繰り返しながら探索する『Outer Wilds』が大賞を含む2冠に輝きました。他に東京芸術大学の学生、もっぴん氏のアクションゲーム『Downwell』が受賞にはいたらなかったものの、学生部門でファイナリストに選出されました。 また生涯功労賞には、「ファイナルファンタジー」の生みの親として著名な坂口博信氏が選出されました。日本人としては中裕司氏、横井軍平氏(故人)、宮本茂氏、小島秀夫氏、久夛良木健氏に続く6人目の受賞となります。 坂口氏は受賞の挨拶で「ここで受賞できたのも、妻やスクウェア時代の同僚、そして今いっしょにゲームを作っている開発チームなど、さまざまな人との出会いや支援のおかげです」と切り出しました。そして恩師の一人として漫画「ドラゴンボール」の担当編集者や「Vジャンプ」の編集長として知られる鳥嶋和彦さん(集英社)の名前を挙げました。 初対面にもかかわらず当時人気だった『ファイナルファンタジーIII』がいかにつまらないか、鳥嶋氏から小一時間説教されたという坂口氏。その後、静まりかえった会場に対して「ここは笑うところなんですが……」とコメントするなど、お茶目な一面もみせました。また10月にリリースしたスマホゲーム『テラバトル』についても触れ、これからも現役クリエイターとして活動していくことを誓うと、会場から拍手がわき起こりました。 他に小型コンピュータのRaspberry Piの生みの親であるデイビッド・ブレーブン氏がパイオニア賞に、初代『Wizardry』の開発にたずさわり、米サンタクルーズ大学のゲーム&プレイアブルメディアプログラムでディレクターをつとめたブレンダ・ロメロ氏がアンバサダー賞に輝きました。 各受賞作品は下記の通りです(人名の敬称略) ◆GDCA ■ゲームオブザイヤー ミドルアース:シャドウ・オブ・モルドール ■ベストデビュー Stoic Studio(The banner Saga) ■イノベーション・ビジュアルアート・ハンドヘルド&モバイルゲーム モニュメントバレー ■テクノロジー デスティニー ■オーディオ Alien: Isolation ■ナラティブ Kentucky Route Zero: Act III ■ゲームデザイン Hearthstone: Heroes of Warcraft ■パイオニア賞 デイビット・ブレーブン ■アンバサダー賞 ブレンダ・ロメロ ■生涯功労賞 坂口博信 ◆IGF ■大賞・ゲームデザイン Outer Wilds ■オーディオ Ephemerid: A Musical Adventure ■ビジュアルアート Metamorphabet ■ナラティブ 80 Days ■ヌエボ Tetrageddon Games ■学生部門 Close Your 近年インディゲームやモバイルゲームの躍進が著しく、GCDAとIGFの境目がなくなりつつある受賞式。今年もモバイルゲームの『モニュメントバレー』が三冠を達成するなど大きな注目を集めた一方で、大賞は家庭用ゲームの大作『シャドウ・オブ・モルドール』が受賞し、業界の二極化を印象づけました。 一方、昨年は6年ぶりに『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』が携帯ゲーム機部門で受賞した日本勢。しかし今年は『ベヨネッタ2』がゲームオブザイヤー、『進め!キノピオ隊長』がゲームデザイン部門でノミネートされたものの、どちらも受賞を逃し、再び日本勢が無冠となったのは残念でした。 また注目点として、昨年までの「ダウンロード部門」がGDCAでなくなったことと、ゲームデザイン部門で『Hearthstone』が受賞したことがあげられるでしょう。本作はMMORPGの『World of Warcraft』と世界観を同じくするデジタル・トレーディングカードゲームで、ビジネスモデルはF2Pとなっています。 GDCAのゲームデザイン部門でF2Pタイトルが受賞したのは今年が初めてで(昨年はパッケージゲームの『The Last Of Us』が受賞)、欧米の開発者の意識の中でもパッケージとデジタル流通の区別が消失し、F2Pがメインストリームに出てきたことが伺えます。このように今年のアワードは変わりゆく業界の象徴的なイベントになったといえそうです。
《小野憲史》
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