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著者は、代表作に『猿ロック』『ルシフェルの右手』などを持つ芹沢直樹氏。コミックの前作に当たる『バイオハザード マルハワデザイア』(以下『マルハワデザイア』)も手がけた人物で、世界中のファンから高い注目を浴びています。
今回、芹沢氏と今作のコミック版の仕掛け人である川田将央氏、瀬戸康洋氏、さらに『リベレーションズ2』のプロデューサー・岡部眞輝氏にインタビューを敢行、ゲームはもちろんコミックに対する並々ならぬ熱意を語っていただきました。
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左から岡部眞輝氏、芹沢直樹氏、川田将央氏、瀬戸康洋氏
――本日はよろしくお願いします…。って芹沢先生ですよね!?どうしたんですかその姿!?
―芹沢氏:ゾンビメイクというか、特殊メイクというものを今までやったことなかったので、思い切ってやってみました。
――な、なるほど…では『ヘヴンリーアイランド』の企画が始まった経緯を教えて下さい。
―川田氏:前作に当たる『マルハワデザイア』というコミックがありまして、これがカプコンとしても大成功したと感じていたので、続編もぜひリリースしたいと判断しました。今回は『リベレーションズ2』を発売することも決まっていたので、同じタイミングでなんとか連載をスタートさせたいと考えていたんです。それを芹沢先生にお願いしたところ、お忙しい中、快く引き受けていただきました。
――『ヘヴンリーアイランド』には、どのような魅力があると思いますか?
―芹沢氏:ゲームと世界観が連動しているので、プレイした後に読んでもらうとまた違った発見があります。コミックとゲームがどのように繋がっていくかを確かめてもらうのも、楽しみ方のひとつとしてあると思います。
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ゾンビメイク:自由廊 沼崎
――芹沢先生自身は、『バイオハザード』シリーズをこれまでもプレイしてきたのですか?
―芹沢氏:初代からずっとリアルタイムでプレイしていますよ。10年以上の時を経て、こうして携わることができたことにはビックリしています。
――人気シリーズとあって、コミックを描くことにプレッシャーを感じたのではないでしょうか。
―芹沢氏:やっぱりありましたよ。熱狂的なファンも多い作品ですので、今まで以上にさまざまな意見が届くだろうと覚悟していました。
―川田氏:でも、思っていたよりも遥かに好印象でしたよ。私たちカプコンスタッフが『マルハワデザイア』の最初の原稿を読んだときも、とてもクオリティが高く、「これなら安心してお任せできる」と直感で思ったくらいですから。今回は第2弾ということで、どうせやるなら冒険をしてみようと考え、さらにかわいい女性キャラクターと、ゾンビの怖さを追い求めています。前作はむしろ抑え気味だったのですが、今回はホラーには欠かせないエログロさがさらに際立っています。
――前作を読んだ人も、さらに楽しめそうですね。
―川田氏:そうだといいですね。4、5ページ目ぐらいですでに女の子がバラバラになっていますから(笑)。
――芹沢さんには、エログロさという点も要望として出していたところなのでしょうか。
―川田氏:コミックはそういった表現が、ゲーム以上に突き詰められるメディアだと考えているんです。なので、出来る限りのことを提案してみようと当初から考えていました。連載している週刊少年チャンピオンさんなら受けてくれるだろうと思ってはいましたが、まさか100%の形で実現できとは予想できませんでした。ここまでやってくれるのかと、今は感動しているところです。
――では編集部側からの要望は何かあったのでしょうか?
―瀬戸氏:やはり連載ですので、各エピソードをどこで切り、次週へ繋げるかを慎重に話し合いました。時には編集部の方の案で構成を入れ替えたりだとか、より良い作品にするための協力をしていただきました。
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―川田氏:芹沢先生からもさまざまな提案をしていただいて、デザインのパターンも沢山の種類を用意してくれたりと、かなり考えながら作業をしてくれました。
――芹沢さんとしては、『ヘヴンリーアイランド』のような過激な表現を描くことを、どのように感じていますか?
―芹沢氏:過激な表現というよりも、そもそも、『バイオハザード』のコミックを手掛けるまで、ゾンビものを描いたことが一度もなかったので、自分の作風が新しい世界に広がっていく楽しさはありますね。
――芹沢さんご自身は、『バイオハザード リベレーションズ』をプレイされましたか?
―芹沢氏:『バイオハザード リベレーションズ』はかなりやり込みました。ストーリーモードはHELLまでクリアしましたし、レイドモードも楽しんでいます。
―川田氏:それは凄いですね(笑)
―芹沢氏:章ごとに区切られていたので、プレイしやすかったのも手伝ったと思います。仕事の合間に少しだけプレイしたいときでも、しっかり区切りをつけられるので。
――かなりやり込んでいるようで驚きました。では、『バイオハザード』のどこに魅力を感じているのでしょうか。
―芹沢氏:恐怖を感じながらも乗り越えていく、その達成感は大きな魅力ですね。ただ怖いだけではなく、逆転できることは『バイオハザード』ならではの楽しさだと思います。
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――ちなみに、最新作である『リベレーションズ2』に関してはどのような印象を持っていますか?
―芹沢氏:『リベレーションズ2』に関しては東京ゲームショウで体験したくらいなんですよね。これからしっかりプレイしたいと思います。
――そういえば、『マルハワデザイア』は『バイオハザード6』に繋がる内容でしたが、本作では『リベレーションズ2』と、どのように繋がってくるのでしょうか?
―瀬戸氏:関連性はありますが、ネタバレにもなってしまいますので、ここはぜひ実際にゲームをプレイし、そしてコミックを読んでもらいたいですね。逆に、『リベレーションズ2』とコミックではクレアの髪型が微妙に違うのですが、ここにどういう意味があるのかに注目してもらえると、より楽しめると思います。
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―川田氏:これまでのクレアというと、必ずポニーテールだったんですよ。今回は大人になったクレアを見せるために、最初から髪を下ろした姿で統一しています。ビジュアル面の違いにはぜひ注目してもらいたいです。
――どこまで関連を持たせるかも、難しい判断だったのではないでしょうか。
―瀬戸氏:あまりに強めすぎると両方を体験しないといけなくなりますので、あくまでも双方が独立した形で楽しめる作りになっています。これは「マルハワデザイア」のときも同じで、どちらか単体で楽しめるようにすることは、一貫したポリシーとして持っています。
――芹沢さんとしては、デザイン面でのこだわりはあったのでしょうか?
―芹沢氏:瀬戸さんと川田さんがお話していたデザインのイメージは最初からしっかり伝えてもらっていたので、私としてはそれを崩さずに、しっかり再現することだけを心がけていました。結果的にはスタッフの皆さんが想像していた通りのデザインを表現できたと思います。
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―川田氏:私たちが思い描いていたものを、さらにかわいく、格好良く仕上げてくれました。個人的には、水着のクオリティの高さにも驚きましたね。例えば、個々の個性を出すために水着にストライプ柄を入れてもらったのですが、このデザインを描くだけでも連載時の作業量は膨れ上がると思うんです。それをしっかりと仕上げてくれたことは嬉しかったです。
―瀬戸氏:水着のデザインはハードだったと思います。ただ、せっかくのヒロインですし個性を出したい思いもあったので、あえてお願いさせていただきました。
――なるほど。今回はどんな主人公なのでしょうか?
―川田氏:実は、今回の主人公は日本人なんです。日本人が主人公というのは、ゲームやコミックを通してみても『バイオハザード』シリーズ史上初めてのことです。やはり日本の少年誌での連載ということで、より思い入れを強くしてもらいたいと思い、日本人の少年・少女を主人公・ヒロインに据えました。
また、ゲームだと屈強な兵士やプロフェッショナルが主人公であるケースが多いですが、コミック版の場合は主人公の成長を見せたい思いがありました。そのため、ごく一般的な人物像になっています。
―瀬戸氏:強くない人間がどう生き残るか、というのはホラー作品の定番じゃないですか。しかしゲームですと、本当に弱い状態からのスタートではユーザーさんにストレスを与えかねません。今回の『ヘヴンリーアイランド』では、ストーリーや設定の面でもコミックでしかできないことに挑戦できていると思います。
――主人公が他のキャラクターとどう絡むかにも注目ですね。
―瀬戸氏:登場人物の数も増えていて、複雑なストーリーが展開されていきます。週刊連載なので、各話のラスト、引きの部分を特に意識して作っています。
―川田氏:個々のキャラクターを目立たせようという意識はとても強いです。油断すると、主人公が一番目立たなくなる可能性もあります(笑)。しかし、イラストを見てもらうと分かりますが、主人公がもっとも格好良く描かれているんですよ。このあたりは芹沢先生のおかげですね。
――ここまでは主にデザイン面の話がメインでしたが、世界観をコミックに落とし込むという点では、何かこだわりはあったのでしょうか?
―川田氏:世界観という意味ではゲームと同一視しているので、『ヘヴンリーアイランド』をはじめとしたコミック作品も正史と考えて制作しています。ただ、漫画としての良さを壊したくはないので、ゲームのキャラクターを大量に投下せずにストーリーを動かすことを第一に考えていました。
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――そうしてコミックが完成したわけですが、最初に読んだときはどのような印象でしたか?
―川田氏:カプコンのスタッフ陣の中でも、こだわりたい点は皆少しずつ違って、結構喧嘩しながら作っていたんですよ(笑)。しかし出来上がった原稿を見た途端、それまで言い争っていたスタッフ全員が「良いな、これ」となったんです。企画書の文字だけだとどうしても不安でしたけど、実際の絵を見ると、絶対ヒットするなと安心しました。芹沢先生にお願いしたのは正解でしたね。
――そういえば『リベレーションズ2』も週刊連載のように、毎週新たなエピソードを配信するという面白い仕掛けがありましたよね。
―岡部氏:『リベレーションズ2』の配信形態も、コミックと同じく毎週配信すること自体が大きな魅力になっていると思います。クリフハンガー(連続活劇)的に楽しむこともできれば、もちろん一気に遊ぶことも可能です。また、クレアはもちろんバリーなど懐かしいキャラクターも登場するので、シリーズのファンの方にも連続ドラマを見るような感覚で、楽しんでもらいたいです。
3月19日にはすべてのエピソードを収録したディスク版も発売します。一気に物語が楽しめるので、今回の記事で初めて興味を持っていただいた方はそちらを手に取ってもらえると嬉しいです。
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――このような配信スタイルを試みることになったのは、どのような考えがあったからなのですか?
―岡部氏:一言で言えば挑戦です。売り方はもちろん楽しみ方も複数提供することで、プレイヤーさんにあった遊びが生まれると思います。また、毎週新しいエピソードを即座に体験すれば、ネタバレが一切ない状態でプレイできますよね。そこから今度は、次にどんなストーリーが展開するかを想像して楽しむことができます。ユーザー間での話題喚起にも繋がりますし、やってみる価値はあるだろうと判断しました。配信の合間にプレイヤー間での話題が盛り上がってくれれば嬉しいですね。
そういう意味でも、週刊連載のコミックとの親和性は高いと思います。『ヘヴンリーアイランド』には『リベレーションズ2』の設定がふんだんに盛り込まれているので、これからプレイする方にも、ぜひ読んでもらいたいです。
――分かりました。それでは最後に、読者へ向けたメッセージがあればお願いします。
―芹沢氏:『ヘヴンリーアイランド』と『リベレーションズ2』は連動していて、両方を体験すればより一層『バイオハザード』の世界が見えてくる作りになっています。もちろん片方だけでも楽しめますが、ここはぜひ「どの辺が繋がっているのだろう」と推測しながら体験してもらいたいです。
―川田氏:芹沢先生が描く『バイオハザード』も、今回の『リベレーション』シリーズも第2弾同士となりますが、お互いに進化したものを提供できていると思います。自信を持って贈るタイトルになっているので、ぜひ両方楽しんでもらえればと思います。
――ありがとうございました。