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安田
今週は大きなニュースがありましたね。
平林
ゲーム業界は任天堂とDeNAの提携でもちきりだった印象があります。
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任天堂とディー・エヌ・エーが資本業務提携で合意
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任天堂とディー・エヌ・エーが資本業務提携で合意
安田
平林
ありがとうございます。記者会見があった当日、「任天堂がスマホアプリを出す」「NXという新ハードを出す」の2点があまりにもフォーカスされていたので、少しひねりました。任天堂もDeNAもプラットフォーム屋さんです。両社が提携するのなら、新しいプラットフォームをつくってほしいと思い記事を書いたんです。
土本
そのプラットフォームはハードウェアのプラットフォームの意味ではないですね。
平林
はい。現在のゲーム業界でのプラットフォームとは、流通と決済システムを握っていること、ととらえています。今、世界のモバイルゲーム市場は20兆円にせまる勢いですが、その流通と決済を仕切っているのはアップルとグーグルです。このままでいいの? オールゲームニッポンのパーソナリティとしては、ぜひとも日本企業にプラットフォームの一角を担ってほしいじゃないですか。そういうエールを送りたいです。ところで、安田さんにお聞きしたかったのですが、こういう目標ですね。「日本でもプラットフォームを持とう」といった大目標。こういうことを言い出すのは無謀でしょうか。
安田
全然無謀ではないですよ。
平林
うまく言えないんですが、たとえばクールジャパン戦略ですね。今、日本のコンテンツビジネスは、なんとなくクールジャパン戦略と持ち上げられていますが、その先にきちんとした成果があるのか。疑問に思うことがあります。すでに繁栄しているものに乗っかっている感じがするんです、クールジャパンという考え方は。
安田
ああ、言いたいこと、わかります。つまり……産業を興していないということではないですか?
平林
産業を興す?
安田
はい。クールジャパンは、すでにある産業。アニメ産業やゲーム産業、場合によっては観光産業などを対象にしています。けっしてクールジャパン産業という新産業を興そうとしているわけではないですよね。
平林
そうですね。
安田
産業を興すというのは、産業そのものをつくることです。われわれが好きな歴史の例をひもとくと殖産興業のような。
平林
明治時代の殖産興業ですか?
安田
はい。日本の近代化のためには富岡製糸場を建てて、器械製糸の分野で世界一になる、といった志とともに新産業をつくってきたわけです。
平林
なるほど。
安田
僕はかつて日本興業銀行に22年間在籍していましたが、この興業という名は、まさに産業をつくることをあらわしていました。
平林
私は幸運にもゲーム産業の誕生に立ち会うことができましたが、興すという視点はまったくなかったですね。
安田
僕らはよく興業と工業を区別するときに、興業は「コウギョウ」と呼んで工業のことはあえて「エコウギョウ」と言ったものです。
平林
工業の「工」をカタカナの「エ」と読んでエコウギョウ!
安田
世間の人はあまり使わない用語ですよね。
平林
そうですよ。コウギョウといえば、まず普通の人は工業のほうを思いつくでしょう。逆に興業というと大川興業とか(笑)。
安田
プロレスの興業とか(笑)。
平林
あと六本木や銀座の看板で興業って書いてあると、なんか恐いイメージがあるくらいです(笑)。
安田
で、殖産興業からはじまった官民一体の取り組みは、世界的に見てユニークでした。産業金融政策(セミマクロ)という日本オリジナルの政策手法が生まれたんですね。
平林
具体的にはどういうことですか?
安田
育成すべき産業に対して重点的に資金を配分します。明治の頃も戦後も、日本にあるお金は限られていましたが、うまく配分して基幹産業を育てていったんです。
平林
産業金融政策はリソースマネジメントゲームのようですね。
安田
資金配分のほかにも、企業を支えるために経営企画部門的な役割も金融機関が担っていました。日本興業銀行には産業調査部という部門があって、産業ごとに毎月の需要や供給を予測したり分析したりしていました。
平林
自動車産業ならば1年後にクルマはどれくらい売れそう、そのためには数ヶ月後、どれだけの資材・資金が必要になるのかシミュレーションするような……。
安田
そういうことです。市場調査、資金調達、M&A、海外動向分析、経営課題のピックアップ、これら全部を銀行がやっていたんです。
平林
産業を興す。そして、そのための産業金融政策とはどんなことなのか、かなりイメージが湧いてきました。
安田
こういうことをやってきた諸先輩が縁の下の力持ちになって、日本は鉄鋼や化学、自動車や家電などの分野で世界的リーディングカンパニーを生み出したんだと思います。話はゲームから離れてしまいますが……僕が産業金融政策にたずさわっていた頃の皮膚感覚として、優秀な経営者とは、官僚・銀行・商社の機能をうまく引き出して、ひとつの会社をやりくりするというよりは、日本という大きな株式会社の一事業部門を、世界レベルでマネージメントする人であるような印象を持っています。
平林
私も思い出しました。80年代のソニーの経営会議の様子を聞いたことがあります。ウォークマンやハンディカムといった新製品が開発者からプレゼンされると、当時の経営者はデザインが良いとか悪いとか、値段が高いとか安いとか、そういう細々したことをあまり聞かないそうです。そのかわり、「これは産業になるのか?(=産業を根底から変えるのか)」という質問が出ることもあるのだとか。ウォークマンというのは小型テープデッキではなく、音楽産業を変える装置だったんですね。そして、プレイステーションも「これは産業になる」と考えてつくられたのでしょう。
■パーソナリティの紹介
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安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『Projectcode -堕 天-』『Projectcode -月 読-』の開発に取り組む。
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平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。